平和の理由
「君のご両親についても、申し訳ないけれど、念のために調べさせてもらったよ。結果は、普通のごく一般的な日本人で、魔力はほぼなかった」
「まったくない、ではないんですね」
そうだよ、と良さんが頷く、
「だから、落ち人になる現象が起きるんだよ。もっとも、地球人のいう魔力とこちらでいう魔力は考え方が少し違うんだけれど、まあ、ほとんどの地球の生命は、こちらに落ちてくるほどの魔力は持ってないから、予備知識なしにこちらに落ちてくることは、かなり珍しい。吹雪君は、先代巫女姫との接触時にこちらとの繋がりが出来て、安全に肉体再生出来る場所として本能的にこちらで再生したのだろうね。マキちゃんの家は、秋の時期でも充分な積雪の見込める地域だしね」
「じゃあ、もし本当の冬がきたら、あそこはもっと寒くなるんですか?」
「そうだよ。マキちゃんの家が埋まる程度には降るね。だから、通常なら冬は、王都の別邸で過ごすくらいだ」
貴族が、王都に別邸を持つのは不思議ではない。いつも領地に引きこもっているわけにはいかないし、政治的意味では、王の近くで生活した方が、利益がある場合もあるだろう。
「とりあえず、ご両親のことは、心配いらないよ。こちらから干渉するつもりもないし、君を亡くした悲しみはどうしようもないけれど、平穏に生活されているのは間違いない」
3年も経ってしまった今、会いにいくわけにもいかないし、心の内側はわからないけれど、平穏な生活が出来ているなら、僕ができることは何もない。
「ありがとうございます」
僕は、精一杯の感謝を述べる。
突然、現れた、それも得体が知れない、自分達の世界に干渉できる力をもっているらしい僕に、憤るわけでもなく、能力を無理矢理引き出そうとするわけでもなく、充分な配慮をして自由に見守っていてくれる、そんな良さんが真王でよかったと心から思った。
「吹雪君、この世界と、日本との違いは何だと思う?」
唐突な質問に、少し考えてから答える。
「政治制度と、能力それと、外見的な容姿・・・でしょうか?」
「それも、確かにあるね。しかし、もっとも違うのは基本的な行動理念だよ」
「行動理念?」
「そう、この世界において、個人を縛る法は、ほとんど意味を成さない。日本人は、法律やマナーなどに沿ってほとんどが生活しているね?」
「そう、ですね」
時々、犯罪行為を平気でやったり、法律の抜け道をみつけて不正行為をする人も存在するが、概ねは国の仕組みに従って生活していると思う。言いなりになっているつもりもないけれど、普通に生活する上では、学校や仕事にいって、家に帰って、平穏無事な生活ができれば、ほとんどの日本人は、政治に多少不満があっても自分から革命を起こすようなことはしないだろう。
「この世界は、そういう意識が希薄だ。働きたくなければ働かなくても良いし、学校にも行く必要もない。もっと過激にいえば、殺したければ殺しても良い」
「え・・・?」
「貴族も、王族に縛られたくないと思えば、貴族をやめてもいい。王も、国民よりも自分の生活を優先したければそれで構わない。たとえば、食事を食べにレストランへ行ったとして、対価を払う価値がないと思えば、払う必要もない」
むちゃくちゃだ、と僕は思った。
そんなに個人個人が自由に振舞えば、弱い人は虐げられるし国が荒れれば生活水準も下がる。
今まで見てきたこの世界の技術水準を見ても、到底そんな考え方で得てきたものには思えなかった。
「不思議に思うだろうけれど、本当のことだよ。たまたま、国を纏めて統括していこうと思う個人がいる。そして、それで良いと大多数が賛同したから平和的な国家がいくつかに纏まって現在のような形になっている。学問の分野でも、知識欲の強い者が集まって好きなだけ研究するのに、そちらのような、国や学校の利権、派閥内での上下関係がないから、誰でも自由な研究が出来た」
「それは、ものすごく・・・幸運な出来事ですね。日本では考えられない気がします」
「本当に、まあ、それによって弊害がないわけではないけれど、現段階では、概ね平和な世界環境が出来上がっている」
僕は、ふと役所のお兄さんシンヤさんの言っていた紛争地域という言葉を思い出した。
つまり、統治しようという人物がいなくて無法地帯な場所も、この世界には存在するのだ。
生活するなら、平穏な方が良いと思う人々が、自分にとって住みやすい統治者の治める領地で生活している。商売をしたい人は、安定している国で商売を。商品を求める人も、そこへ集う。対価を払わずに得ようとしても、売る側が納得しなければ売らなくても良いわけで・・・
廻り廻って、自分にとって生活しやすい平和な国家が形成されていくというわけだ。
逆に考えれば、紛争地域は、かなり危険な思想が蔓延しているともいえる。
出来れば、近寄りたくないね。
「そこで、君の異端だ」
唐突に、自分の話になって、僕は首をかしげる。
「これから、どこまで伸びていくのかわからないけれど、もし、君が攻撃的な能力を幾つも開花させて、この世界を支配、もしくは滅ぼそうと思えば・・・」
「そんなことしませんよっ」
慌てる僕に良さんは笑って、
「だから、もし、だよ。君という人物を知らなければ誰だって恐れると思わないかい?」
なるほど、と納得する。
季節を調整してくれる巫女姫が大切に扱われるのは、あくまで世界の為に奉仕しているからだ。
自由気ままに季節を変更されたら、外敵でしかない。
つまり、異能持ちも、世界にとって脅威になりえるのに、場合によっては異能よりも強力な能力を持つ異端は、自分達の生活を脅かす存在になりえるんだ。
野心があれば、そんな猛獣を手懐けて利用したいだろうし、恐怖心が強ければ殺してしまいたいだろう。
「そうですね。そう思います」
「君の能力を公にしたくないのはそういう理由だ。そして、事故を防ぐためにも把握と制御は絶対必要だと思っている。理解してもらえると嬉しいな」
「わかります。ありがとうございます」
再度、僕は感謝の言葉を口にする。
良さんは、本当に良い王様だったんだな、と思った。
この国に落ちてきてよかった。
「ま、若いんだから、あとは経験で。体当たりで覚えればいいよ。君が君らしく生きていけるようにね!難しい話はこれで終わりっ!捜索の日程も、甲斐やシノハラさんと相談して、自分のペースでやるといいよ」
それからしばらく、たわいもない雑談をして、良さんはやり残した仕事があるから、と出かけていった。
そういえば、良さんに子供がたくさんいるという話は、こういうことだったんだな
たくさんの配偶者を持つのも自由。子供を持つのも自由。勿論、奥方同士で争うのも自由だけど、良さんの今までの行動を見ていると、素直に甘えていれば平等に大切に扱ってくれるような気がするので、一番になりたいと欲を出すよりも、その安定性を重視したということなのかな?
自分にはそんな度量はないな、と改めて良さんを見直した一日だった。




