青海一族 1
肩や腕が酷く冷えて痛いような感覚がして目覚めた。
「んう?」
目の前の風景が非日常過ぎて変な声を出してしまった。
青い。
眩しいくらい青いけれど何もない空間だ。
そして、眼を擦ろうとして動かない腕に驚いて首を捻って見上げると両腕は鎖に繋がれていた。
どうやら、僕は誰かにこの謎の空間に拘束されているらしい。
何で?
意識を失う前のことを思い出してみる。
確か、夜中に王城の庭で、白の領地で出会った女神に会って、一方的に友達にされたんだ。
そうそう、それでシノハラさんに相談してみようと思って捜したらアルクスアの方向に居るみたいだなって瞬間移動んだら・・・。
そうだ。
なんだか急に呼吸できなくなって、苦しくて苦しくて苦しくて、何でだろうって。
身体が重くて動き難くて呼吸できなくて、もがいてもがいて。
それから?
それで意識を失って、今はどこかわからないこの場所で拘束されているっぽい。
どういうこと?
シノハラさん目指して瞬間移動んだんだから、移動先にはシノハラさんが居たはずだ。
でも、今、周囲には誰もいない。
シノハラさんが居たなら、こんな状況にはなっていないよね?
もしかして、僕はとんでもない大失敗をやらかしたのかもしれない。
そのことに思い至って焦る。
サニヤとリアには言って出てきたけれど、良さんには黙って出てきてしまった。
僕はどのくらい意識を失っていたのかわからないけれど、もし夜が明けているなら大騒ぎになっていそうだ。
今日は、夏と秋の巫女姫様たちも到着する予定だ。
僕が留守にしていては、態々来て貰った意味がなくなってしまう。
どうしよう。
上に繋がれた手をもう一度見上げる。
鎖は、かなり上空から伸びているようで天井が見えない。
壁も床も、ひたすら青くて自分が立っていることさえも不思議なくらいだ。
ずっと腕を上げている状態はキツイので鎖を外したいけれど、自分の能力で外せるのか、外したことで余計なトラブルに巻き込まれるのか等の問題があって行動に移しにくい。
とりあえず、誰でもいいので今の状況を説明して欲しい。
そう考えて、最近、こんなことばかり考えているなあ、とため息をついた。
どのくらい時間が経っただろうか。
何もなかった空間にヒラリと白いものが横切ったような気がした。
なんだろ?
鎖でほとんど身動き出来ないけれど、頑張って首を捻る。
ついでに索敵の能力を発動する。
あ、やっぱり何かいるな。
能力で感知した方向に何とか視線を向けると、小さな白い、というよりは銀色の鱗が反射して白く輝いている小魚が泳いでいた。
魚?
その魚は、僕の周囲3メートルくらい離れた所をグルグルと周回して、そして索敵の能力範囲外へ消えていった。
魚が泳いでいたということは、ここは水中なのだろうか?
しかし、水中呼吸の能力を発動した覚えもないし、そんな感覚は全く感じない。
深呼吸してみても、普通に呼吸している感覚がある。
それでも、迷宮で空気のある空間を作ったこともあるし、ここはそういう空気のある空間で、本来は水中なのかも、と思えてきた。
それならば、世界が青いのも周囲がすべて水だからなのかもしれない。
そこまで考えつくと、もしかしてここはアルクスア貿易港の海中かもしれないと予測がついた。
貿易港の付近に居たシノハラさんを追って移動してきたのだから、かなり可能性が高いだろう。
つまり、シノハラさんが居た場所が海上か、水中かだったので、そこを目指して瞬間移動んだ僕は急激に海中に移動したせいで溺れて・・・、何故かこうなった、と。
居場所はわかったけれど、拘束されている理由がわからない。
アルクスア貿易港の海。
船。
小型、中型船だけだった。
そうそう、確かラズリィーに深海には人魚が居るって教えてもらったっけ。
魔族に属してはいるけれど、不可侵状態になっている人魚の一族。
確か、青海一族といったはずだ。
当主は、人間と結婚して日本で暮らしているって聞いたような。
うーん、と唸りながら思い出していたら、再び何かの気配を感じた。
また魚だろうか、と思って気配のした方向を見つめていたら、人だった。
いや、性格には人魚だ。
こちらに向かってくる人の足にあたる部分には魚の尾びれがあった。
どうやら青海一族で間違いないようだ。
真っ直ぐ迷いなく此方へ近付いてくるということは、僕を拘束しているのは彼らだということになる。
もしかしたら、無作法にも縄張りに飛び込んだ僕に怒っているのかもしれない。
それくらいしか拘束される理由が思いつかなかった。
どうしようか。
とりあえず、謝るしかないよね?
僕が覚悟を決めている間に、人魚は先程の魚が周回した近くまで来て、そして一旦停止して肩に掛けていた布を外して腰に巻きなおした。
割と大きな布だったようで綺麗に巻きスカートのように下半身が隠される。
上着は、普通にTシャツだ。
薄い緑色で何も模様がない。
下半身に巻いた布は、紺色で、日に当たらないからか、真っ白な肌と白銀色の髪をしている。
これからどうなるのだろうという不安と、おお、これが人魚か。迷宮のモンスターとは違うなあ、という気持ちでじっと観察していると、尾びれを一瞬で足へと変化させてトテトテとこちらへ歩いてきた。
どうやら3メートル向こうからが水中のようだ。
「侵入者よ、目覚めたか」
人魚は、まっすぐに僕を見て、高くも低くもない単調な声でそう言った。
ああ、やっぱり、と自分の予測が当たっていたことにため息をつきたくなる。
しっかり場所を確認せずに移動した自分が悪いのだ。
縄張りに侵入されて怒っている彼らが悪い訳ではない。
「はい。あの、勝手に領地へ入ってごめんなさい」
「うむ。自分の立場はわかっているようだ」
人魚は、僕がまず謝罪したことで多少態度を緩和させることにしてくれたようで、どうやってかはわからないけれど、上から吊られていた鎖が少しだけ伸びて腕を下ろせるようになった。
「まず、お前の所属と名を名乗れ。偽りは許さない」
所属?
僕の所属は、どこになるのだろう?
黒の領地預かりの落ち人ってことでいいのだろうか。
間違ったことを言っては再び怒られることになりそうなので、出来るだけ正直に自分のことを話すことにしたいけれど、どこまで話して良いのだろう?




