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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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過去からのメッセージ 4

 人形の発した言葉に、皆、驚いて暫く沈黙が室内を支配した。

 え?

 今、なんて言った?

 立野さん。

 遺体。

 亡くなっていて、その遺体が確認されていない立野さん。

 僕の心当たりは1人しかいない。


 先代、冬の巫女姫。 立野 霙さん。


 かなり曖昧な記憶ではあるものの、かなり幼い時に面識のある女性の姿を思い浮かべる。

 僕の死の少し前に、彼女は行方不明になっている。

 兄である水川伯爵家の長男である連さん曰く、異常気象になった歳に亡くなったのだろうと聞いた。

 彼女の遺体がどこからも見つからないから、推測ではあったものの、冬の神事が行われなくなったことと発生した異常気象により彼女は死んだものと判断されていた。

 そして、僕が、新しい冬の巫女姫である木戸さんの娘さんを見つけたことで、その死は確実なものとして認識された。

 能力スキルが使えるこの世界で、全く見知らぬ他人を捜すのとは違い、肉親や冬の巫女姫として周知されていた彼女を誰も見つけられないことがそもそも不自然な出来事なのだ。

 僕は、ラズリィーの現在位置を求めて、捜索の能力スキルを脳内に展開してみる。

 即座に彼女がいる方向がわかる。

 正確な地図を知らないので曖昧だけれど、方向的には中院公爵領だと思う。

 ほら、知っている人なら簡単だ。

 いや、まあ、簡単だからって乱用してはいけない。

 これではストーカーみたいだ。

 プルプルと雑念を振り払って目の前の状況に思考を戻す。

 誰にも行方のわからなかった先代、冬の巫女姫、立野 霙さん。

 その、彼女の遺体が、迷宮ダンジョン350階層にあると目の前の人形は言ったのだ。


 「今回の巫女姫の代替わりに、ちょっとしたトラブルがあって、俺と吹雪君と立野さんで出来る限りの最善をつくした結果だから、苦情は受付ないよ」


 淡々と話す人形に、沈黙しかかえせない僕達。

 ちょっとしたトラブルって何なのか。

 出来る限りやった結果が、立野さんの死であり、僕の記憶消滅であり、当代冬の巫女姫の能力スキルの封印だというのか。


 「まあ、タイミングが悪かったせいもあって、俺も死んじゃった訳だけど」


 何と、人形の製作者本人も巻き添えになっていたようだ。


 「それは・・・」


 今まで沈黙を守っていた暮さんから、沈痛な響きの声が聞こえた。


 「それは、私の所為か?」


 どういう意味だろう、と暮さんの方を見ると、その顔色は血の気が引いて白くなっていた。

 こんなに弱っている暮さんを見たのは初めてで驚く。


 「そんな風に思うだろうなって思ったから、人形これを残したんだよ」


 人形は、ぴょんっとソファーの上からテーブルの上に、そして対面に座っていた暮さんの膝の上に飛び乗った。


 「立野さんの遺体の回収は、当代、冬の巫女姫の能力スキル開放と同時進行になるから、もし吹雪君が再生後、違う方向へ進んでいたらお願いする為のメッセージカードを残すだけでもよかったんだ」


 僕が、冬の巫女姫捜索をしない可能性は確かに存在していた。

 たまたまなのか、必然なのか、運よく王城へ誘導されて、シノハラさんに異端ディザスターであることを指摘されなければ、他の領地で一市民として生活していた可能性もあった。

 この世界に迷宮ダンジョンがあることを知っても、ファンタジー世界は凄いなーって思うだけで、実際に足を踏み入れるまでには何年も必要だっただろう。

 四季を司る巫女姫のことだって、他人事のように思っていたかもしれない。


 「でもねえ、俺の製造主マスターの寿命が残り少なかったのは、暮さんの所為じゃないから。絶対に、違うから。あと、製造主マスターの恋人横取りした件についても、気に病まなくていいからね?恋愛感情って、理屈じゃないし、製造主マスターは最後まで、暮さんのことも大好きだったよ」


 暮さんの膝の上で、右手でテシテシと慰めるように優しく叩く人形を不思議な気持ちで見つめていた。

 僕の知らないところで(あ、昔は知っていたのかもしれないな)、暮さんと人形の製造主マスターの間にはドラマみたいな出来事が起こっていたようだ。

 寿命云々はともかくとして、恋人横取りされたって!

 それでも、暮さんのことも大好きって、恋人さんのことも変わらず好きだっていう意味だよね?

 暮さんに恋人がいるという話を聞いたことがなかったけれど、良さんが驚いている感じが全くしないということは、僕が知らなかっただけなのかな。

 そういえば、暮さんとは、料理の話と、迷宮ダンジョンの戦い方と、シノハラさん関係の話しかしたことがなかったような気がする。

 まあ、聞かれもしないのに、交際相手がいることを喧伝してまわる人はいないか。


 「聞いてる?絶対に、暮さんは悪くない。昔からずっと、死んだ後もずっと大好きだよ」


 人形はそう言って、布で出来た不恰好な両手を広げて暮さんの腹部に抱きついた。

 暮さんは、それに少し驚いて、暫く自分に抱きついている人形を黙って見つめた後、そっとその頭を撫でた。

 優しく優しく、慈しむような視線で。

 僕は、邪魔してはいけないような気がして、かといって直視しているのも気不味いので視線を彼方此方に彷徨わせた。

 サニヤとリアは、いつの間にか戸棚からクッキーを取り出して齧っていた。

 柴犬たちは、全員大人しく伏せている。眠っているのかもしれない。

 良さんは、暮さんの方を見ていなかったけれど、僕のことも見ていなかった。

 大人のスルー力なのか、別のことを考えているのか。




 どのくらい時間が過ぎたのか、じっと座っているのが苦痛になってきて、空気を読まずにサニヤたちと一緒になってお菓子を食べてしまおうかな、と考え始めた頃、人形がぴょんぴょんっと飛び跳ねて元の位置、僕の隣の席へ戻って来た。


 「じゃあ、そういう感じでお願いするね」


 先程の重い空気など微塵も感じさせない明るい声で言い放つ人形に、


 「吹雪君に、迷宮ダンジョン攻略してもらうってことかな?」


 と、良さんが確認の為に口を開いた。


 「そーいうこと」

 「もっと詳しい説明は、してくれないのかな?どうして迷宮ダンジョン350階層なんて深い場所なのか、とか。どういうトラブルがあってこうなったのか、とか」


 良さんが、僕の聞きたかったことを代弁してくれているので、ウンウンと頷く。

 人形は、ぽふっと足を投げ出すように座って、


 「今は、話せない条件が揃い過ぎていて無理かな。人形これの稼動可能期間内に、話すかもしれないけれど、まあ、知らなくても問題ないよ?結果が大事だよ」


 と、言った。

 その言葉に、良さんも少し困ったような表情かおをした。

 神様に急かされてまで開封した封印の中身が、話せないと言うのだから僕だって困惑している。

 僕が死んだこと。

 失った記憶のこと。

 冬の巫女姫に係わるアレコレ。

 その全ての答えを知りうる存在が目の前にいるのに、知ることが出来ないなんて。

 どうすれば、教えてもらえるのだろう。

 


 

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