祭典前夜
柴犬達に首輪をつけていく。
シノハラさんに、属性を教えて貰いながら色と名前を決めていった。
赤い首輪: 火、火山
青い首輪: 水、海
茶色い首輪:土、大地
白い首輪: 風、疾風
黄色い首輪:光、灯
「誰が聞いてもわかるくらい手抜きだな」
シノハラさんが、呆れたような表情をする。
「一度に5匹とか、大きさも同じくらいなのにすぐに見分けつけられないですよ」
「まー、幼生の間は仕方ないか」
その言葉に、驚く。
僕から見れば、柴犬達は十分に成犬の大きさだ。
「属性獣は、主人が出来た後、経験を積むと見た目もかなり変化するぞ。毛の色も変わったり、まぁ主人次第だが」
「へえ・・・」
経験を積むというのが戦闘面を指すのであれば、出来れば経験しない生活を送りたいので余り過剰な期待はしないでおくことにしよう。
5匹は、食事も終わって部屋の隅にクッションを敷いて寝床を用意してやると大人しく固まって丸くなった。
僕は、少し遅くなったけれど、夕食を食べることにした。
テーブルの上には、洋食のフルコースが所狭しと並んでいる。一人分なら余裕のある大きさのテーブルなのだけれど、シノハラさんの分もあるからだ。
僕は、野菜の浮かんだスープを飲みながら、
「ここの料理って、日によって豪華だったり庶民的だったりするんですよ、料理人さんの趣味でしょうか?」
シノハラさんは、恐らくアルコールだと思われるグラスを傾けながら、
「そりゃ、真王の子供が作った時が庶民的なヤツだな。今日のは、賓客用の王宮料理人が作ったヤツだ」
「あ、模擬戦の時に、娘さんが作ったって言ってました」
「ああいう私的な集まりの時は、大抵が子供達が作る。今日は、明日の準備もあって王宮料理人くらいしか手が開いてないんだろ」
「貴族様っていうのは自分で料理出来ないものだと思ってました」
「真王の代だけだよ。王族の食事を作る為に人を雇ったら国費を圧迫して仕方ないからな」
毎回、豪華な料理を作ったら食費が大変だ、ということだろうか?
「財政難なんですか?」
僕の質問に、シノハラさんは、ハハハハハッと声を上げて笑った。
「まあ、本気で贅沢すれば大変なことになるだろうな、何しろ真王の子供は三桁いるからな」
「え?」
「まあ、正妻、側室の子だけなら二桁だが、養子も多いからな」
僕は、あの青年にしか見えない真王の姿を思い出す。
「あのバカは、王としてはそこそこの技量を持っているが、そっち方面は自重しないからな。来る者拒まずだ」
「はぁ・・・」
一国の王様で、人をひきつけるような人懐っこい性格で、若々しい容姿。そんな人物が来る者拒まずを実行するとおかしい話でもないのだろうか?
「よく・・・揉めませんね。奥様とか、子供同士とか大変そうですけど」
「それが不思議に揉めないんだよな。あんなでもカリスマってヤツなんだろうよ。そんなわけで、子供達は当番制で城の雑用をやったりしてるわけだ」
「はぁ・・・すごいですね」
何ていうか、元魔王様は・・・夜の方は魔王らしかった、というべきだろうか。
今まで女性と一緒にいる所を見たことがなかったので気付かなかった。
僕は、食事をしながら大勢の女性に囲まれた良さんを想像してみたが、あまりリアルに思い描けなかった。そんなリア充、漫画でしかみたことないよ。
食事も終わり、食後の珈琲(味は間違いなく地球と同じ)を飲んでいると甲斐さんがやってきた。
「遅くなってすまない。シノハラさんに迷宮に連れて行かれたって聞いてたけれど、無事そうだね・・・あれは・・・」
甲斐さんは、部屋の隅の柴犬達を見ている。心なしか表情が硬い。
「あ、僕のです。3階からついてきてしまって」
僕は、ポットから珈琲を入れて甲斐さんに手渡す。
「そ・・・そうかい。怪我がないなら良かったよ」
甲斐さんは、シノハラさんの横に座りながら、
「明日は、予定通り、祭典に来た各国の代表との顔会わせと、神事の見学。一般には、吹雪君の素性は伏せるけれど巫女姫捜索隊の更なる追加発表をするよ」
「何か、気をつけることってありますか?」
「普段通りでいいよ。君が落ち人であることは、先方へは通達済みだからね。ただ・・・あの犬のことは伏せておいた方がいいね。それと、自分でも能力はわかってないって事を強調しておいた方が無難だろう。変なチョッカイかけられても困るからね」
「はい」
何か能力を使ってみせろ、と言われても自分の意思では何も出来ないのだから、面倒に巻き込まれない方がいいので素直に頷いた。
「あ・・・そういえば」
能力の話で、キノコが燃えたことを思い出して、シノハラさんと甲斐さんに話した。
「まあ、ありえる話だろうな」
シノハラさんは、当然という表情をしているが、甲斐さんは若干表情が硬い。
「それは・・・補助アイテムを通して、火の能力が発現したんだろうね・・・」
「火の犬が懐くくらいだしな」
「ともかく・・・無事でよかった。危ないところだったね」
甲斐さんが余りに深刻な表情をしていたので、明るい話題に変えようと僕は昼間着ていた服のポケットから魔石を出して、
「でも、こんなヤツを手に入れたんですよ!これって売れるモノですか?」
「!!!!」
甲斐さんは、立ち上がって僕の手の中の魔石を黙って見ている。
「まあ、当然の結果だろ」
シノハラさんは、平然としている。
「シノハラさんっ・・・・」
「甲斐さん?」
少し怒気を含んだ声で甲斐さんがシノハラさんの名前を呼んだけれど、すぐにため息をついて、
「驚かせてすまなかった。これは、属性結晶だね。特に、コレは質が良いモノだね」
そういって少し大きなひし型の魔石を指差す。
「これは、魔法属性のアイテムを作る材料などに使われるもので高額で取引されるよ。役所ならどこの町でも買い取ってもらえるだろう。・・・・ただ、今日のコレは、真王様にどうしたら良いか確認してから売るなり、保管するなりして欲しい。あと、迷宮でコレを手に入れた事も、我々と真王様だけの秘密にして欲しい」
甲斐さんの真剣な様子に困惑しながらも僕は頷く。
「ありがとう。無理を言って申し訳ないね。・・・・シノハラさん、この後、少しお付き合い願いますよ」
甲斐さんは、軽く僕への挨拶を済ませて、シノハラさんを引っ張って出て行ってしまった。
どうやら、甲斐さんは何かしらシノハラさんに怒っているようだった。少し気にはなったけれど、昼間の疲れもあって瞼が重くなってきたので、早々にベットに転がり込んだ。




