猫に導かれて異世界?
猫!?
猫が喋った?
いやいや、そんなまさか。近くか、背後に声の主(飼い主?)がいるでしょ。
僕は、起き上がってキョロキョロと周囲を見渡す。
周りは雪、雪、雪だ。
大きな樹木にもたっぷりと雪が積もっている。
人影は見えない。
「落ち着きのないボウズだなあ」
再び、猫が喋った。
今度は、疑う余地もなくハッキリと口が動くのをみてしまった。途端に、寝ぼけていたのか、軽いパニック状態だったのかわからないが冷静ではなかった思考が急速に活動し始めた。
この猫、大きい。
昔、テレビでみたことがあるから、品種としての特徴は、ほぼロシアンブルーで間違いがないと思う。
ただ、大きさが、実物を目前にしたことがないから定かではないが、虎か、熊くらいはあるのではないだろうか。
身長175cmの僕よりも立ち上がったら高いような気がする。
あ、これは夢だな。
夢の中で夢から覚めた状態の夢をみたことが何度かある。それだな。
僕は納得する。
夢なら、触っても大丈夫ではないだろうか、と考え手を伸ばす。
体質のせいで、人間も含む、生き物全般を触るのが苦手なのだ。
単純に、体温が高くて気持ち悪いから。
だから、僕は彼女いない暦=年齢なわけだ。
決して、僕のスペックが低いわけではない!平凡な高校生男子レベルは維持しているはずだ!
そっと猫の首元に触れると、ふわっとした毛並みと柔らかい身体が心地よかった。
楽しくなって撫で回していると猫もゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
可愛いなー。
これだけ大きいと抱き枕としても十分なのではないだろうか。
ギュッと胴回りを抱きしめてみる。
おお・・・これはいい・・・
「こらこら、ボウズ。マキは、男に抱きつかれるのは好きじゃないぞ」
猫が、尻尾を雪にピシリと打ちつけながら言った。
「ごめんなさい」
僕は、体を離して素直に謝っておく。嫌われたら撫でることも出来なくなってしまうからな。
「わかればヨシ!そしてボウズ、マキは言っておく!これは夢ではない!現実だ!」
猫がとんでもないことを主張し始めた。
「無理があるでしょ。僕、家で寝てたのに。こんなどこかわからない雪原とか」
「ここは、マキの家だ!ボウズが落ちてきたから拾いにきてやったのだ!」
家って・・・。
家屋のような物は周囲に見当たらなかったけど。そもそも落ちてきたって。落し物じゃなるまいし。
まったく納得してないって表情をしていただろう僕を説得するように猫は続ける。
「ボウズみたいな地球の生き物が落ちてくることは時々あるのだ!道は繋がっているから、ちゃんと家に送ってやるから心配するな!」
地球の生き物って・・・
猫の主張を素直に信じれば、ここは漫画とかラノベでありがちな異世界?ってことになる。
そして、時々あることで、帰ることも可能。
「そこは、勇者召喚、魔王討伐オレTUEEEE!設定じゃないんだ・・・」
「バカを言うな。ここは魔王領だぞ。そして勇者なんて職業はない!」
魔王領ってことは、この猫は、魔物ってことになる。
勇者がいない世界。あ、でも家に帰してくれるらしいから、悪い魔物ではないって解釈でいいのかな?
「ボウズでは到底、魔王に勝てるわけもないが、敵意を向けるならマキは噛み付くぞ。落ちてきた地球人が誰にも気付かれずに命果てることも珍しくはないのだ!悪さするなら噛み付くぞ!」
大事なことなので二度噛み付くぞ宣言をしました、と猫が前足をドンッと突き出してきた。
「ごめんなさい。冗談です」
素直に敗北宣言する。
大きさで比較しても勝てる気がまったくしない。
命は大事に、だ。
「わかればいいのだ。ボウズは家に帰りたいか?」
「帰してくれるんじゃないの?」
「たまに、上手く帰れないことがあるのだ。そして、帰れるけれど、本人が帰りたがらない場合もある」
帰りたがらない人もいるだろうなあ。
異世界?に来たら、観光くらいは誰だってしたいよね。明日が恋人とデートとか緊急の予定でもなければ。幸いにも(?)僕も、早くも夏休み中だし一ヶ月くらいは行方不明になってても良い気はする。
なんといっても、この雪原空間がもの凄く快適なのだ。
家のクーラーでは補いきれない程、暑さに弱い僕は、恐らく氷点下だろう雪原が居心地が良くて仕方がなかった。夢だから、じゃなく現実だとしたら、僕はヒマラヤ山脈に永住出来るんじゃないだろうか、と思った。現実的にはライフラインがないから、食糧難で無理なんだろうけど。
「急いで帰る用事はないよ。あと、どうして落ちて(?)来たのか原因が知りたいかな。また落ちたら困るし?」
「原因の調査は帰す前に絶対義務だから安心しろ。ヨシ、まずはマキの家に行こう。マキに乗るがいい!」
猫が、背中をこちらに向けて尻尾を振っている。
「家ってここが猫の家じゃないんだ・・・」
「ここは、マキの家の敷地内だ。庭だ。あと、マキは猫じゃない。マキって名前がある。ボウズも名を名乗れ!」
どうやら、この雪原地方は個人宅の庭だったようだ。
「僕は、笈川吹雪だよ。よろしくね、マキちゃん」
マキさんもマキくんもイメージではなかったので、ちゃん付けで呼んでみた。
マキちゃんは、尻尾をピシャリと振ると、
「よろしくなのだ、フブキ。」
と返事をした。