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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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食堂にて 4

 慌しく食堂を出て行った広志さんを見送った後、僕達は夕食を食べ始める。

 すでに食べていたサニヤやマキちゃんも、普通に同じ物を食べている。昼間も食べていたのにまだ食べられる事に感心する。

 食事の終わり頃に、唐突に蒼記さんが口を開いた。


 「椎名さん、明日、ラズをウチまで送ってもらえる?」

 「いいわよ?何時くらいに?」


 椎名さんは、あっさりと了承する。


 「日が暮れるまでに。よろしくね、ラズ、イイコにしておくんだよ?」

 「はい」


 ラズリィーも、特に不満はないようで素直に頷く。

 僕からしてみれば、やや不思議な感じがして仕方がない。

 この世界の身分制度って、ほとんど意味がないように思えるからだ。

 身分だけならば、このメンバーの中では椎名さんが一番上のはずなのに、対等の友人のように振舞っている。

 良さんも、とても親しみやすい人だし、ついつい近所のおじさんみたいに思ってしまいがちだけれど、テレビや、城下町の人々、マーカス達などの反応を見ると、確かに身分差は存在しているようでもある。

 今、親しげに話している2人も、公式の、宮廷舞踏会などで顔を合わせれば違う態度を取るのだろうか。公私の区別がハッキリしているだけなのだろうか?

 蒼記さんは、ラズリィーの返事を聞いて、最後に珈琲を飲み干すと席を立った。


 「じゃあ、ボクはそろそろ行くよ。笈川君、デート楽しみにしてるね」


 蒼記さんが、立ち去った後、残された食器を簡単にまとめていると、ラズリィーが控えめ他口調で話しかけてきた。


 「ふぶきさん、あの、デートって本当に約束したの?」

 「うん?デートではないけど、一緒に迷宮ダンジョンへ行く約束はしてるよ?」


 正直に答えると、ラズリィーは、少しだけ残念そうにて、


 「迷宮ダンジョンでは、私は一緒に連れていってもらえないでしょうね」


 と、呟いた。

 勿論、僕も彼女を連れて行くつもりはない。

 自分のことで精一杯で、彼女を絶対に守れる自信もない。

 まとめた食器類は、食堂の隅に置いておく。そうしておくと、片付け当番の人が定期的に回収するらしい。自分の分は、自分で、と椎名さんに言ったけれど、受け付けてもらえなかった。

 食事も終わったし、この後どうするか。

 せっかく、ラズリィーが椎名さんの部屋に泊まるのだから、もう少し一緒にいたい気持ちはあるけれど、良い口実が思い浮かばない。いつまでも、王族用の食堂にいるわけにもいかないけれど、自分の部屋へ誘うのも恥ずかしい。


 「明日、私も一緒でよかったら一緒に行ってもいいわよ?それなら蒼記君も怒らないでしょ」


 ふいに、しょんぼりしていたラズリィーに向かって椎名さんがそう言った。

 ラズリィーは、パァッと花が開くように笑顔になる。


 「いいんですか!?」

 「いいわよ。明日は特に予定もないし。夕方までに送っていけばいいんでしょ?その間、何をしてろって言われたわけでもないし」

 「そうですよね!やった!」


 嬉しそうにはしゃぐラズリィーを見て、少しだけ喜びの気持ちもあるけれど、戸惑いの方が大きかった。


 「あの、さすがに女性2人を守りながら戦える自信が・・・」


 非常に情けないことだけれど、最悪の事態を招くことを思えば、このくらいの恥ずかしさは甘受するしかない。王族の女性と巫女姫、どちらも危険な場所へ連れていけるような相手ではない。そんな僕の気持ちにはおかまいなく、椎名さんは、ケロリとしている。


 「私の事は気にしなくてもいいわよ?」

 「いや、気にしますよ?」

 「本当に、気にしなくていいのよ?」

 「いやいや、無理ですよ」


 椎名さんと押し問答をしていると、足元からマキちゃんの声が響いた。


 「フブキ、そんなに心配ならマキもついて行こうか?」

 「マキちゃん!」


 マキちゃんの優しさに少しばかりの感動を覚えたけれど、すぐに冷静になる。

 一緒に行くこと前提なのか、と。

 普段、マキちゃんは、無理なら無理とハッキリ言ってくれるから、止めないのならば、一緒に連れていっても平気なのかもしれない。それでも、やはり、と躊躇う気持ちが消えない。誰だって、自分の好きな人に危険な場所に行って欲しくないものだ。僕は、嫌だ。


 「そんなに心配しなくても、初めて行く人がいるんだから1階からだし、大丈夫よ?」


 椎名さんに言われて、成程、ラズリィーは初めてなのだから1階か、と少し思案する。

 それならば、いけなくはないのか?

 それでもなー、と唸っていたら、食堂の扉が勢いよく開いて広志さんが入ってきた。

 彼は、僕達を見つけると真っ直ぐこちらにやってきて、僕の目の前で立ち止まった。


 「笈川君!俺と迷宮ダンジョンへ行こう!」

 「はぁ?」


 急な提案に、口を閉じるのを忘れて広志さんを見つめる。


 「あら、丁度良かったじゃない。これで、明日は問題ないわね」


 椎名さんが、カラカラと笑う。

 確かに、これで男手は増えた。しかし。


 「何がどうして一緒に行こうって展開になったの!?」

 「それがさー、親父に会いに行ったら留守で!戻ってくるまで、笈川君の迷宮ダンジョン攻略手伝ったら教えてくれるって伝言があったんだよ!だから!行こう!行かないと、親父は教えてくれない!」


 広志さんが僕の肩をガシッとつかんで揺さぶってくる。

 どうやら、良さんが僕の補助の為にそういうメッセージを残していたようだ。それが純粋に僕の為なのか、中々戻って来なかった息子への意地悪なのかは知りようがない。僕が、彼に居場所を教えてしまったら終了してしまう。詩織さんに会いたい一心で僕と同行しようとしている広志さんに教えてあげたい気持ちはあるが、居候の身で勝手なことをするのも躊躇われる。

 明日、ラズリィーと一緒に迷宮ダンジョンへ行くのならば、広志さんにいてもらえる方がいいに決まっているし、ここは、良さんの意志確認をするまでは保留にしてしまおう。

 広志さんには申し訳ないけれど、そう決めた。


 「じゃあ、よろしくお願いしてもいいですか?」

 「おう!よろしくな!」


 僕の了承が取れたことで広志さんがホッとしたように顔を綻ばせる。

 食前に見た暗黒モードがなかったかのような爽やかさだ。キラキラしている。


 「吹雪さん、私も一緒でいいですよね?」


 ラズリィーが、懇願するような声で確認してくる。


 「うん。よろしくね?」

 「はい!」


 僕から同行の許可が出たことが余程嬉しかったらしく、小さくガッツポーズをしたラズリィーが可愛らしくて胸がポカポカと暖かく感じた。

例え、迷宮ダンジョンへの好奇心からでも、明日も一緒に過ごせるのは僕にとっても嬉しい事だ。

1階からスタートなので集まったメンバーなら心配もないだろう。明日も、楽しい1日になりそうだ。

 






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