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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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フォロワーツ湖 4

 皆の所へ戻ると椎名さんとラズリィーが帰り支度を始めていた。

 流石に地上で水着は寒いのか上にパーカーを羽織っているので安心して声をかけられる。

 眼福ではあるけれど、同時に視線のやり場に困るのだ。

 薄着の女性が目の前にいればつい見てしまうのは仕方がないと思うけれど、それで女性に嫌悪感を抱かれたくない。特に、好きな女の子には。


 「あら、ふぶきさん、お帰りなさい」


 戻って来た僕に気付いたラズリィーが微笑んでくれる。

 この今の心地よい関係を崩したくない。


 「ただいま。魚たくさん獲れたの?」

 「ええ。マキさんと椎名さんが頑張ってくれたので大漁よ」


 ラズリィーの足元にあるクーラーボックスに入りきらなくて魚が溢れている。


 「そんなに食べれるの?」


 想像していたよりもずっと大量な魚に驚いた僕に椎名さんが、


 「今夜の夕食に使えばあっと言う間よ。うちの家族は多いからね」


 と、軽く答える。

 そう言われると納得出来る。

 正確な人数が知らないが3桁はいるらしい良さんの子供達で食べれば余裕で食べきれるだろう。


 「今夜は、私が食事当番だし、吹雪君も、蒼記君も一緒に夕食食べる?」

 「あ、調理手伝いますよ」


 元々手伝うつもりではあったけれど、目の前の魚の量を見てしまうとかなり本気で頑張らないと駄目だろうな、と覚悟する。


 「んー、ボクは夜用事があるから、椎名さんの部屋でラズを一晩泊めてくれるなら夕食ご一緒しようかな」

 「いいわよ?じゃあ、撤収作業終わらせちゃいましょ」

 「椎名様、お世話になります」


 アッサリと宿泊を受け入れた椎名さんにラズリィーがペコリとお辞儀をする。

 僕は、一緒に夕食が出来ることになって心の中でガッツポーズをした。


 「手伝います」


 撤収作業を手伝いながら帰りの道程を決める。

 以前にここまで来た時は、冬の巫女姫捜索の為だったので行き帰りは馬車だったし、コテージから湖までは徒歩だった。しかし、その理由がなくなったので今回は城下町の役所の転送陣から中院公爵家の転送陣へと直接飛んできた。瞬間移動テレポートは、ここにいるメンバー全員が使える能力スキルなのだけれど、自国の貴族の領地とはいえ、直接、瞬間移動とんだりはしないらしい。余程の事情でもない限りはお互いに最低限の礼節はわきまえることになっているようだ。

 こういうちょっとした気配りがこの世界の平和を作り上げているのだな、と感心した。

 ちなみに、僕達が撤収作業している中、サニヤとマキちゃんは、『肉も調達だー!』と森の中へ突撃して行った。リアが、荷物の影で丸まりながら、『夕食までには勝手に戻ってくるわよ』と言うので放置しておいた。



 中院公爵家で着替えて役所の転送陣で城下町についた時には、夕方の4時に差し掛かるところだった。

 役所から王城への道を皆で歩いていると、久々に周囲の視線が突き刺さるのを感じた。

 原因は、椎名さんだろうか?それとも、蒼記さんだろうか?

 知名度で考えればラズリィーという可能性もある。

 むしろ、その全てか?

 自分が原因ではないことだけは確かだ。

 行きは、椎名さんとは役所で待ち合わせだったので、僕とマキちゃん、サニヤとリアの4人(?)だったけれど、ここまで視線は感じなかった。マキちゃんとリアのモフモフコンビが多少、女性と子供の視線を奪ってはいたけどね。

 皆は視線に慣れているのか気にしている素振りはない。

 僕もその内に慣れてくるのだろうか?

 出来れば目立たず平穏に生活したいけれど、王城でお世話になっている間は仕方がないのだろう。

 揃いも揃って美男美女な上に、王女様(現王の妹って何て呼ぶんだっけ?)に公爵家の次男(確か兄がいるといっていたから)に春の巫女姫様。その中に紛れているこれといって特徴のない平凡な日本人の僕は、従者か使用人のように思われているかもしれないな。

 そう考えると少しだけ落ち込んだ。

 生まれ付いての身分はどうしようもないけれど、ラズリィーに堂々と好きだと言える程度の自信と経験が欲しい。

 こればかりは、自分の手で足掻いて掴み取るしかない。

 マキちゃんにも言われたじゃないか、1つ1つだ。

 焦っても仕方がない、そうわかってはいても気持ちは簡単には軽くはならなかった。

 王城に戻って、一旦、皆と別れて自分の部屋に戻って手荷物を置いた後、調理場へ向かう。

 今回は、王宮料理人の使用している厨房ではなく、王族の子供達が普段使っている方だ。

 場所は、単純に隣だし、室内の仕様も同一なので、違いは使用する人物しかない。

 一度、間違えて扉を開けたら、調理用の白い制服ではない普段着の若者が賑わっていて慌てて退散したことがある。


 「お邪魔します」


 内心、ドキドキしながら扉を開けると、椎名さんとラズリィー、蒼記さんしかいなかった。

 知らない王族に囲まれなくてホッとしつつ、手洗い場で綺麗に手首と指先を丹念に洗う。

 手洗いは大事。

 食中毒が、この世界にもあるのかわからないけれど、衛生に気をつけるのは調理の基本だ。


 「あら、マキちゃんたちは?」


 椎名さんが、調理器具を出しながら問いかけてきた。


 「食堂で待機してるみたいですよ」

 「あら、お腹が空いてるのかしら、じゃあ急がないとダメね」


 いつものことなので大丈夫です、という言葉を飲み込んで、作業の指示を仰ぐ。


 「僕は、何をしたらいいですか?」

 「じゃあ、ラズちゃんとサラダを作ってもらえるかしら。味付けは任せるわ」

 「はい」

 「ふぶきさん、野菜は、どれを使いますか?」


 ラズリィーが、野菜の保存室を開けながら聞いてくる。

 どれどれ、と中を覗き込んでいたら、背後から蒼記さんの声が聞こえた。


 「じゃあ、ボクも食堂で待ってるね。あ、椎名さん。ちょっと座って」


 これから料理するのに何故、座ってもらうのだろう?

 不思議に思って振り返ると、蒼記さんが、自分の髪を束ねていたリボンをスルリと外して椎名さんの背後にまわって手早く髪の毛を結い上げた。


 「はい、おしまい。じゃ、また後でね」

 「ありがと」


 蒼記さんは、何事もなかったかのように厨房を出て行った。

 髪を結い上げられた椎名さんも、特に表情に変化はない。

 男子が、女性の髪の毛に触れるというのは、この世界では一般的な行動なのだろうか?

 日本の高校生男子が、女子の髪の毛に触れるのは相当に勇気がいる行動だ。

 恋人同士でも、頭ポンポンくらいまでじゃないだろうか。


 「ふぶきさん?どうかした?」


 ラズリィーに声をかけられてハッと我に返る。


 「ううん、何でもないよ。何作ろうか?」

 「そうねえ。お魚がメインなら、サッパリしたものかしら」


 ラズリィーの様子に何も変化はない。

 自分の婚約者が、他の女性の髪の毛に触れたことに気が付かなかったはずがないのに。

 やはり、この世界ではあの程度のスキンシップは普通なのだろうか?

 そう考えて、もう1つの可能性に気が付いた。

 蒼記さんには恋人がいる。

 それが、椎名さんであるとすれば、それを、ラズリィーも承知しているとすれば何も不思議ではないのではないか、と。

 


 


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