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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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姫の住む神殿 3

 女性陣がリアと戯れるのを見ながらホッコリした後、改めてお互いの自己紹介をした。

 良さん、蒼記さん、ラズリィー、穂積さんはすでにお互いが面識があるので僕とサニヤの自己紹介をした後で穂積さんからの話を聞く。


 「私は、当代秋の巫女姫をしている穂積ほづみ うららと申します。下の名前は、その・・・恥ずかしいので穂積と呼んで下さい」


 穂積というのは苗字だったようだ。

 どちらともとれる苗字ってあるよね。


 「そうですか?素敵な名前だと思いますよ?」


 思ったことをそのまま言ってみたら、穂積さんはグッと拳を握り締めて叫んだ。


 「そうです!素敵な名前です!ウララ!『ウララ日和』のウララちゃんは神です!女神です!そんなっそんな神と同じ音の名前なんて・・・私にはっううっ」


 瞳は涙で潤んでいる。

 どうやら彼女はガチのオタクのようだ。

 勿論、それで差別したり否定するつもりはない。

 僕だってこの世界にくるまではアニメやゲームとお友達の時間が長かった。

 ただ、興味はあったものの、特異体質あつがりのせいでコミケやゲームショーに足を運ぶことが出来なくて主にネットで掲示板を眺めるだけだった。その上、特別思い入れのある作品やキャラクターがいなかったこともあってオタクと名乗る勇気はない。

 一般人よりは、観たりプレイする時間が長い、その程度だ。

 決して自分はオタクではないと言い訳しているのではない。

 むしろ、そこまで夢中になれることは素晴らしいと思う。

 僕も何か夢中になれる唯一のものを見つけたい。

 今、料理に少し関心があるけれど、人生のすべてを捧げるほどでもない。

 純粋に、こんな風に夢中になれる何かが欲しいな、と思う。


 「穂積お姉さま」


 ラズリィーに声をかけられて穂積さんは我に返ったのか、


 「あ・・・その・・・大声出してごめんなさい」


 と頬を染めてうつむいてしまった。

 『好きなこと』以外では消極的で大人しい性格のようだ。


 「気にしてないですよ。夢中になれる趣味があるっていいですよね」


 フォローのつもりで言ったのに、何故かラズリィーの機嫌が悪くなった気がした。

 女性の心の機微はわからない。

 どんな時でも可愛いので気にしないことにしておこう。



 それから、良さんが主に提供してくれた話題に相槌を打っている間に神殿から帰る時間になった。

 結局、茉莉花さんも他の姫にも会うことはなかった。

 少しだけ残念な気もする。


 「では、冬の祭典の前に王城へ登城いたします」


 ラズリィーが良さんへ報告と確認をしている。


 「他のお姉さまたちは私からお話をさせていただきますね」

 「うん、それでよろしくね」


 良さんもそれで問題ないという風に頷きながら返事をしている。

 僕はなんとも居心地が悪い。

 良さんは、『冬の巫女姫』にとって初めての祭典なので『他の四季姫』に無事に儀式を行えるように『指導』をして欲しいと頼んだのだ。


 「なんせ、今までずっと『日本』で生活していて能力スキルの使い方も知らなかった人だからね」

 「それでは、とても心細い想いをされているでしょう。私も出来る限りの助力をさせていただきます」

 「私も・・・、助けたいと思います」


 ラズリィーと穂積さんは『何も知らない可哀想な冬の巫女姫』に非常に感情移入したようだ。


 でも。

 良さんが今話している『冬の巫女姫』って僕のことだよね?

 確かに、大筋では嘘はついていないけれど、いいのだろうか?

 冬の祭典間近になって、春、夏、秋の巫女姫に『なんで男?』みたいな表情をされる自分が脳裏に浮かんで身震いした。


 「じゃあ、我々はこれで。蒼記君も一緒に帰る?」


 立ち上がった良さんが蒼記さんに声をかけると、彼は座ったまま、


 「ラズがもう少しお姉さま方とお話をしてから帰るつもりです」


 と、言った。


 「蒼記様!ありがとうございます」


 ラズリィーが嬉しそうに微笑む。

 同じ姫同士、積もる話もあるのだろう。

 その時間を作ってあげるなんて蒼記さんは優しいな。

 素敵な婚約者だ。

 美少年と美少女。

 蒼記さんは公爵家の血筋で、ラズリィーは平民出身だけど春の巫女姫だ。

 何の不足もないカップル。

 ただ、『好き』という感情だけしか持っていない僕に2人の間に割り込める余地なんてない。

 僕は自分がどうしたいのかわからない。

 まだ、恋を自覚しただけで、この先のことまでは考えてなかった。

 ずっと親しい友人のままで満足する?

 この気持ちを彼女に伝えて・・・伝えてどうする?


 わからない。


 グルグルと色んな感情が渦巻いて眩暈がしそうだ。


 「笈川君、さっきの話だけど、近いうちに会いに行くよ」


 蒼記さんから声をかけられて現実に引き戻された。

 一緒に迷宮ダンジョンへ行くという話のことだろう。


 「あ、はい。よろしくお願いします」

 「楽しみにしてるね」


 妖艶さを感じる魅惑的な微笑みと視線を向けられて少しだけドキッとしてしまった。


 「え?何のお話ですか?」


 席を外していたラズリィーが不思議そうな顔をしている。


 「秘密だよ。ね?笈川君」


 楽しい悪戯を思いついたような蒼記さんに釣られて頷いてしまった。


 「ええっ。いつの間にそんなに仲良くなったんですかっズルイです!蒼記様っ」

 「あはは。ダメダメ。教えないよ。男同士の秘密だよ」

 「そんなっ」

 「男同士っ」


 じゃれあう蒼記さんとラズリィーの間から一部間違った反応を感じたけれど、穂積さん?

 そんなんじゃないですからね?

 迷宮ダンジョンは危険だから、だから蒼記さんはラズリィーには秘密だって言っているだけだと思うよ?

 そう叫びたかったけれど、僕は知っている。

 アッチ系のスイッチの入った腐の人には言い訳すればするほどドツボに嵌ることを。

 良さんとの熱愛報道の時といい、皆自由過ぎるよ。

 そもそも、良さんとも蒼記さんとも噂の対象にするには僕は貧相過ぎない?

 典型的日本人顔の自分よりも、いっそ良さんと蒼記さんでカップルになった方が納得出来る。


 はっ


 駄目だ。

 毒されるところだった。


 「あはは。じゃあ、良ちゃんたちは帰るねー」


 ある種、混沌とし始めていたこの状況で良さんは普通に笑顔で手を振った。

 慣れているのか。

 大人の対応なのか。

 僕も次回、穂積さんに会う時には華麗にスルーできるようになっていたい。

 そう思いながら、皆に別れを告げて神殿を後にした。



 これから冬の祭典までは本格的な迷宮ダンジョンの日々が始まる。

 気を引き締めて頑張ろう。

 

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