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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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秋の祭典 

 良さんは生命力譲渡は受け入れてくれたのに、魔力譲渡は強く拒否された。


 「気持ちだけでいいよ。灰の領地には魔力を持たない民族が多いから気付かれることもないし、そもそも、吹雪君、自分が持っているのが魔力なのか聖力なのかわかってるのかい?」


 言われて、そういえば知らないな、と思い至った。

 そもそも、その違いがわからない。

 ゲームでいうところの能力スキルを使うためのMPみたいなものだろうと曖昧な感じて理解していた。


 「ね?明日には回復するから気にしないで。聖力注がれたら、さすがに死んじゃうかもしんないし」


 と、明るく笑って逃げられた。

 魔族が聖力注がれたら・・・、死ぬのかな?

 その辺りは誰に聞けばいいのだろう。

 うっかりミスで誰かが死んだら大変なので確認することを忘れないようにしたい。




 その後は何事もなく一日が終了した。

 秋の祭典は、灰の領地の中でも大きめの公民館のようば場所で行われている。

 他の地域に比べて灰の領地は全体的に質素だし、人口も少なく感じた。

 灰の領地は、講義で習った通り、魔力を持たない民族が主流だ。

 聖力も持っていない。

 当然、能力スキルも持っていない。

 ただ、基礎的な身体能力は高いらしい。

 そう聞いて、ファンタジーでは定番の獣人系の人達なのかな?と思っていたけれど、外見は全く普通に人型だ。

 この場所から見ている限りでは、外見も平凡だ。

 髪の色もピンクだったり紫だったりしない。

 灰の領民が座っているという一般観覧席だけを見ると、地球に戻って来たのかな?と錯覚を覚えるくらいだ。

 僕は、今、来賓席に座っている。

 見知らぬ偉い人たちがいる中で良さんの隣に座っているのは少し居心地が悪い。

 一般観覧席から、この来賓席は見上げる位置にあるのだけれど、そこからの視線も感じる。

 良さんの眩い金髪が目立つからだろう。

 出来るだけ早く祭典が終了すればいいのに。

 そうすれば、ラズリィーに会える。

 秋の巫女姫との面会と、姫たちが住む神殿への訪問が若干不安要素ではあるけれど、予定外ではあったがリアという防波堤が出来たので少しだけ気持ちが楽だ。

 リアというのは、サリヤのことだ。

 昨夜、サリヤは拾ってきた子犬として僕が宿泊する部屋に連れて行って話をした。

 その際、サニヤとサリヤの名前が似すぎていて、うっかり間違えて呼びそうになっていたところを、


 『ご主人様は、私のこと、リアって呼んでいたの。そう呼んでちょうだい』


 と、言われたのでそうすることにしたのだ。

 事情を話していない人の前で、サニヤとサリヤの名前を呼ぶと2人が原始種族であることが丸わかりになりそうだと思ったせいもある。

 そのリアだけれど、黒の領地へ戻るまでは子犬のままの姿でいてくれるらしいので、神殿にいる姫、つまり女性陣の関心がそちらへ向くと嬉しい。

 特に、茉莉花さんの関心が。

 アルクスアで少し会っただけで、なんだかんだと一緒に冬の巫女姫捜索の旅を回避してきたことを起こっているかもしれない。

 僕としては予想外に東京で発見出来てホッとしている部分は正直ある。

 同性に囲まれる生活の中で、年の近いラズリィーは、時々、理解出来ない言動をするけれど、それでも

まだ普通に会話が出来る。けれど、茉莉花さんは幼すぎた。


 弟か妹がいれば違ったかもしれない。


 そんなことを思って見ても現実にはいないのだから仕方がない。


 「吹雪君、そろそろ始まるよ」


 余程、ぼんやりしているように見えたのだろう。

 良さんに声を掛けられて会場に視線をやると、鶯色をした袴姿の女性が立っているのが見えた。

 さすがに距離があるので容姿まではハッキリとは見えないが、手に持っているのが笛であることはわかった。


 まさかの和装。

 そして、笛。

 ふと、杉浦さんが好きそうだな、と思っていたら、


 「杉浦が好きそうだなって思ったでしょ?」


 と、隣から良さんの愉快そうな声が聞こえた。

 杉浦さんの名前が出た途端、少し離れた右の方角からカタンと椅子を揺らす音が聞こえた。

 横目でそっと確認すると、どうやら白の領地の偉い人たちから発せられた音らしいとわかった。

 黒の領地の王族が、自領地の元代表議員のことを話題に出したのだから、多少のリアクションは仕方がないのかもしれない。


 しかも、苗字呼び捨てだし。


 杉浦さんの下の名前は、りょうだ。

 良さんも、読みは同じ『りょう』だから、自然と苗字で呼んでいるのだろう。

 実質、名前で呼び捨てているのと変わらないと思う。

 2人はそれなりに親しいのだろうか?

 白の領地で杉浦さんの家で揃った時も、良さんはいつも通りだった。

 潟元さんさえ絡まなければ、良さんはいつでも同じような態度なので本当に親しいのかの判断しにくい。


 「まぁ、そうですね。えーと、秋の巫女姫様は『落ち人』だったりするんですか?」

 「違うよー。彼女のは、えーと、なんていうんだっけ?コスプレ?ってヤツだね」

 「はい?」


 良さんの口から飛び出してきた言葉の意味を理解するのに少し戸惑う。


 「コスプレですか?和装が?」


 僕の知っているコスプレというのは、アニメや漫画、小説の人物の衣装を着てキャラになりきったり、大人の男女がアレな時に盛り上がる為にバニーガールとか学生服を着たりするものだ。

 目前の和装を見る限りは、前半部分の意味だと思われるけれど、場所が『秋の祭典』で、その主役である『秋の巫女姫』がコスプレをしているという状況が不思議で仕方がない。

 確かに、能力スキル発動の為に本人が一番集中出来る服装で良いとは聞いているけれど、良いのだろうか。


 「良ちゃん、アニメとか詳しくないけれど、去年流行したアニメのヒロインの服らしいよ?それで、笛で主題歌を吹きながら祭典をやります!って本人が力説してたらしいし」


 良さんは笑っているが、周囲の他の領地の来賓たちは渋面を浮かべている。

 確かに、いくら好きでも、国際的行事でアニメのコスプレは良い顔はされないよね。


 「へー」


 返答に困って適当に相槌を打っていると、


 「確か、去年はアイドルの物真似で、ヒット曲メドレーやったんだよねー」


 と、さらに微妙な情報を教えてくれた。

 それでいいのか。

 いや、良くないと思っている面々もいるだろうけれど、それでも巫女姫本人がやりやすいようにやって貰うしかないから仕方がないのだろう。

 自分の趣味を全開で押してくる秋の巫女姫の笛の音を聞きながら、この後にある彼女との面会のことを考えると少しだけ気が重くなった。 

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