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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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秋の祭典前日 4

 冷静に考えてみよう。

 塔で出会った瞬間は、なんとなくヤバイと思って衝動的に逃げてきたけれど、サリヤ自身に嫌悪感があるわけじゃない。

 見た目が愛らしい子犬の姿だからか、サニヤに比べて語彙が多いせいなのか、初対面とは思えない程の親しみを感じている部分もある。

 原始種族だから、という理由で同行を断る理由も、見た目を配慮してくれるのならば問題ないような気もしてくる。

 迷宮ダンジョンでも活躍してくれそうだ。

 何かマイナスな点があるだろうか。

 ・・・強いて言えば食費?

 サニヤと同じくらいの量が必要ならば大変なことになりそうだ。

 とはいっても、実は金銭面では何とかなりそうなんだよな。

 色んな場所で食事したり商店で買い物をしたりして薄々気が付いていたけれど、この世界の食費はかなり安い。食費だけじゃなく、衣食住すべてというべきだろうか。

 迷宮ダンジョンで出た属性石を売却したお金で充分に家を借りて生活出来そうだな、と試算してみて思ったことがある。

 『ただ生きていく』だけならば、無職でも孤児でも可能なのではないか。

 そう思える程に。

 どういう経済構造によってそれがなし遂げられているのかわからないけれど、今までいったどの場所でもスラムと表現されるような場所も見たことがない。

 アルクスアでみた所謂歓楽街でさえも廃れた雰囲気は微塵も感じなかった。

 と、なると、もう1人くらい家族が増えても問題はないのかも?

 そんな風に気持ちが傾きかけた時、ふいに良さんが、


 「吹雪君をご主人様って認識しているのは君たち2人だけ?」


 とサリアに聞いた。

 どうしてそんな恐ろしい発想をしたのか。

 僕は耳を塞ぎたい衝動に駆られたけれど、サリアが返事をする方が早かった。


 「あと2人いるわ」


 あと2人。

 サニヤとサリヤをあわせて4人の原始種族が僕をご主人様と認識している。

 知りたくなかった現実に顔を覆う。

 流石の良さんも小さく息を吐き出して、


 「4人か」


 と呟いている。

 神からの制限があるとはいえ、1人でも原始種族の戦闘力と影響力は強い。

 原始種族がその気になれば、こちらに気づかれずに攻撃することは可能なのだ。

 記憶が奪えるのだから。

 それがわかっているから政治的に野心を持っていても干渉しない、刺激しないが暗黙のルールになっているらしいことを講義で教えてもらった。

 そんな原始種族がご主人様と従うこの状況をあまり周囲に広めたくはない。

 誰かに注意されなくてもそのくらいは僕にだってわかる。

 この世界のことを余りよくわかっていない僕に自分の都合の良いことだけを吹き込んで利用しようとする人物が出てこないはずがないからだ。

 良さんのことは信用している。

 松田さんのことも。

 シノハラさんには知られてもいいけれど、変なことを吹き込まれても真に受けないように慎重に対応したい。野心ではなく、思いつきと好奇心で変なことを言い出しそうだから。

 甲斐さんは、4人どころか2人になっても気苦労を掛けてしまうだろう。申し訳ない。

 警戒しておくべきは・・・、やはりイマイチ信用できない平島さんだろうか?

 そんなことを黙々と考え込んでいたらサリヤが口を開いた。


 「2人は今、ご主人様の仕事で留守だから会えないわよ?呼び戻すの?」

 「仕事?」

 「まだ戻ってないみたいだから、任務続行中だと思うわよ?」

 「へえ・・・。仕事中ならそのままでいいんじゃないかな?」


 むしろ、そのほうが現状では嬉しい。

 しかし、一体、原始種族にどんな仕事をさせているのだろう。

 良さんも同じ気持ちだったのか、こちらに視線を向けてくるが僕は首を振る。

 そんな眼で見られても僕にはご主人様としての記憶の欠片すらありませんからね!


 「サニヤを連れ出したまま戻ってこないからウトウトしてたのよ。次、迷宮ダンジョンに行く時は一緒に連れてってくれるって約束でしょう!お願い!」


 どうやら、サリヤは1人で待機中だったようだ。

 良さんが、懐から透明な板のようなモノを出してサリヤに見せた。

 初めて役所に行く時に甲斐さんから預かったものに似ている。


 「サリヤさん、これを見て、どのくらい留守番していたのかわかるかな?」


 そう言われたサリヤは板を少しだけ覗き込んだ。


 「んー、3500年くらい?ねえ、サニヤ?」


 問われたサニヤは小さく頷いて、


 「多分。3400~3500年だと思う」

 「だよねえ」


 サリヤも小さな白い毛を揺らしながら頷く。


 「つまり、ご主人様はそれだけの期間、不在だったわけだ。後で歴史書でその頃の年代について調べてみるよ。何かわかるかもしれない」

 「あ、はい。お願いします」


 良さんにお礼を伝えつつ、2人から知らされた時間の長さに驚く。

 原始種族からすればウトウトして待ってたという感覚らしいが、そんなに留守番をさせられていたのならば同行したいと言いたくて当然なのかもしれない。

 全く記憶にないけれど、次に迷宮ダンジョンへ行く時は連れて行く約束もしていたようだし、これは、仕方がないか。

 僕は覚悟を決めた。


 「じゃあ、サリヤも一緒に行こう。ただし、人型になるのは王城に戻ってから。さっき、ここに入る時に見てた人に変に思われたら困るし。それで、いいですよね?」


 僕は、良さんに確認の視線を向ける。


 「そうだね。それでいいと思う。サリヤさんには申し訳ないけれど塔周辺で拾った犬ってことにしておこう。それでもいい?」

 「いいわ!やったー!」


 サリヤは嬉しそうに部屋中をひとしきり駆け回った後、


 「あ、部屋を出たら話さないようにしておくわね?犬って確か話さないわよね」


 と、冷静な提案をしてくれた。

 やはり、サニヤよりも少し年長の個体なのかも知れない。


 「うん。それでお願い。ねえ、2人ってどっちが年上なの?」

 「サニヤの方が少し年上です」


 サニヤが誇らしげに宣言する。

 予想が外れた。


 「んー、サニヤ。ナニカにごっそり力を使った?少し意識が曖昧になってるっぽいね」

 「そうみたい。ご主人様とどうして離れていたのか思い出せないし」

 「そっか。まあ、そのうち落ち着くよ!」


 2人の会話を聞いて、


 「そういえば、サミヤさんもそんなこと言ってたね」


 と、言うと、物凄いスピードでサリヤが飛び上がった。


 「え!?サミヤ、起きてるの!?」

 「そうみたいだよ?」

 「そうだよ。ここ200年くらいは起きて活動しているようだよ?」


 良さんから補足が入る。

 サリヤは床にペッタリと張り付くように寝そべって、


 「あーうー」


 と唸っている。

 どうやら、起きて活動している原始種族の中で一番序列が高いのはサミヤさんのようだ。

 サミヤさんは、かなり大人で知的な感じだった。

 もし2人が暴走しようになったらサミヤさんを頼ろう。

 僕は、そう思った。

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