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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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秋の祭典前日 1

 あっという間に秋の祭典の前日を迎えた。

 今、僕は灰の領地の原始種族が住む塔の前に立っている。

 周囲には建物1つない荒地にドドンッと効果音が付きそうな高さの巨大な塔が聳え立っている。

 バベルの塔とまではいかないが、最上階はギリギリ目視できるなっくらい高い位置だ。

 僕の隣には、サニヤしかいない。

 灰の領地に到着した時は、いつもの祭典同様、良さんも一緒だったのだけれど、控え室でサニヤが行きたいと言い出したので許可を貰ってここまで来た。

 灰の領地内の役所からこの場所まで転送陣で一瞬で移動できた。

 この人の出入りの気配のない場所に転送陣を設置しておく意味はあるのだろうか。

 しかも、行きだけで帰るための転送陣はない。

 僕もサニヤも、場所さえわかっていれば自力で戻れるので問題ないけれど、徒歩で帰る人は大変そうだ。


 「これ、どうやって入るの?」


 目前の塔には入り口が見当たらずレンガのような赤茶色の壁面だけだった。

 サニヤは、てくてくと塔に近付き、スッと右手を持ち上げて壁面に触れた。

 すると、手の平の触れた場所から溶けるように穴が広がっていって、あっという間に人一人が通れるくらいの空洞が出来た。


 「凄いね」


 試しに僕も少し離れた場所を同じように触れてみたけれど、壁のヒンヤリとした感触が伝わっただけで何も変化はしなかった。

 恐らく、原始種族のみに反応する仕組みなのだろう。

 黙って中へ入っていくサニヤに置いていかれないように続いて内部へ足を踏み込んだ。

 穴の大きさと同じ少し狭い通路をしばらく真っ直ぐに進むと拓けた場所に出た。

 中央に巨大な螺旋階段があって、その周辺を囲むように扉の付いた部屋が無数にある。

 その螺旋階段をサニヤの後ろからついて上る。


 「静かだけれど、どのくらい人が住んでいるの?」


 原始種族がこの塔に住んでいるのは周知の事実だが、活動個体の少なさから正確な人口は把握されていないと講義で習った。

 活動個体がいても、原始種族が自らのことや同胞のことを語ることはほとんどないせいでもある。

 けれど、サニヤは違う。

 僕の問いかけに答えなかったことはない。


 「今は、22名・・・かな。サミヤは留守みたい」

 「あー、お仕事頑張ってるのかもね」


 芸能プロダクションでマネージャー業をやっているらしいサミヤさんは留守のようだ。

 しかし、22名か。

 サニヤとサミヤさんを入れたら24名、なのかな?

 種族として、それは少ないのではないだろうか。

 神代から生きているという原始種族の寿命を考えれば充分な人数なのだろうか?

 生命力や記憶を糧とする性質のことを考えると多すぎると思う人もいるかもしれない。

 フォロワーツ湖の神殿の地下でサニヤと初めて出会った時は透明な水晶で出来た彫像のような姿をしていた。それを本人は夢現で見た姿だと言っていたので本来の姿ではないのだろう。

 この世界に慣れてきたとはいえ、ファンタジー世界にあちがちな獣人系ならまだしも、ドロドロのグロ系だった場合、僕が思わず引いてしまった時にサニヤを傷つけてしまうと思って未だに本来の姿を見せて欲しいと言えないでいる。

 無性だと聞いているので余計に人外の想像が膨らんでしまう。

 そもそも、どうやって繁殖するのかも謎だ。

 長い歴史の中で原始種族が他の種族と恋をしたことはないのだろうか。

 しかし、寿命のことを考えれば、それは悲恋物語の要素を大いに含んでいて悲し結末しか思い浮かばなかった。


 「ねえ、原始種族くらい長生きする種族っていないの?」


 ふと、思いついたことを聞いてみる。


 「種族だと私達ほど長命な種族はいないけれど、そういう能力スキル保持者なら存在するよ」

 「能力スキル?」

 「ああ・・・そういえば、生命いのちを司る能力スキル保持者が産まれやすい一族がいるわね。その中でも特に生命力そのものといえる程の異能ギフト持ちになれば3、4千年くらいは生きると思うよ?」

 「へえー」


 相槌を打ってから、サニヤの言葉の中にあった『生命力そのものといえる程の異能ギフト』というものが気になった。


 「異能ギフトってことは、それは姫なの?現在、そういう姫はいるの?」


 僕の質問に、サニヤは冬の巫女姫の現在位置を測定した時と同様の間をおいてから、


 「・・・・いるわね」


 と、答えた。

 『生命力そのもの』という異能ギフトというものはどういうものなのだろう。

 ただ、本人が生命力に溢れていて長命なのだろうか。


 「それって単純に長生きっていうだけなの?」

 「基本的には」

 「基本的?」

 「触れることで他者の細胞を再活性化することがあるから、料理人には向かないわね」


 細胞を再活性化させることと、料理人のつながりがピンとこなくて首を傾げる。

 振り向きもせずに階段を上っているはずのサニヤは、そんな僕の気持ちを察したのか説明してくれた。


 「魚を捌こうと手で触れたりすると蘇生したり。ジャガイモが芽吹いたり?完全に調理加工済みじゃない限りは素材が台無しになるよ」

 「へえ!」


 確かに料理人として活動するのは難しそうだ。

 しかし、それはとてつもなく凄い能力スキルなのではないだろうか。

 その再生力を使えば、巫女姫と呼ばれる人々の、生命を削る大きな能力スキルを補うことも出来るのではないだろうか。

 そんな僕の甘い考えを打ち砕くように、サニヤが言葉を続けた。


 「自己制御がまったく出来ないし、1m以上の大きさの生命にはほとんど発動しないから治療術師として活動も出来ないし、無駄に長生きだし、なんの為に発生した能力スキルなのかよくわからないの」


 どうやら、そんな都合の良い話はないらしい。

 当然か。

 可能ならば、同じ姫同士で助け合わないわけがない。

 ラズリィーの眼が視力を失う程、生命を消耗していたのを放置しているはずもない。

 しかし、今のサニヤの言葉に少し気になる部分があった。


 「能力スキルが発生する意味ってあるものなの?」

 「あるわよ。四季の巫女姫の能力スキルは創造神がこの世界に必要だとして原始からあるものだし、この世界の崩壊を望む神によって生まれた能力スキルもあるわ」

 「へえ・・・」


 相槌を打ちながら、なるほど、季節の変遷を行う能力は創造神が与えたものなのか。それならば、最初から自然に季節が変化するようにしてくれればよかったものを、と少しだけ不満を覚えた。

 この世界にあるすべての能力スキルに意味があるのならば、僕の異端ディザスターにも意味はあるのだろうか。

 それをサニヤに問いかけようとした時、サニヤが階段を上る足を止めた。

 どうやら目的地に到着したようだ。

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