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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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約束

 マキちゃんと入れ違いに部屋へ訪れた木戸さんは、スーツ姿だった。

 今日も仕事帰りだろうか。

 確か、午後1時過ぎくらいに大阪に飛んだ時は日本は夕方だったのだから、すでに3時を過ぎていることを思えば向こうは夜の9時くらいだろうか?


 「こんにちは。急に訪ねて申し訳ない」

 「いえ。えーと、お仕事帰りですか?」

 「そうだよ」


 そう言って腕時計を僕に見えるように向けてくれた。

 予想は当たっていたようで9時半少し過ぎた所を指していた。


 「お疲れ様です」

 「はは。ありがとう。その言い回しを聞くと日本人なんだなって実感させられるね」


 そういって微笑んだ。

 確かに、日本人独特なのかもしれない。


 「珈琲でよかったですか?」


 僕は、珈琲を入れてテーブルに置く。

 お茶菓子は、アマリカさんが案内してきた時に一緒に持ってきたクッキーがすでに置いてある。


 「あ、ありがとう。本当に王城に住んでいるんだね。松田さんに聞いた時は驚いたよ」


 そういえば、東京で会った時に、僕がどこに住んでいるのかは話題に上がらずじまいだったな、と思い出す。


 「僕も最初は驚きましたよ。どこか適当な宿泊所に案内されるのだと思ってましたし」

 「笈川君は成人していたらそうだったかもね。キミ、まだ高校生くらいだよね?」

 「はい。もうすぐ17歳です」


 自分の精神的には。

 と、心の中で呟く。


 「まあ、皆色んな事情があるよね」


 木戸さんはそれ以上、僕の内側を詮索することはしなかった。

 これが大人の対応ってヤツだろうか。

 珈琲を飲んで木戸さんが本題に入るのを待つ。

 恐らく、娘さんの話だろう。

 僕と木戸さんの間で共通の話題といえば、それしかないといっても過言ではない。

 まさか、あの日の夕食の感想を話しにわざわざ来たりはしないだろう。

 珈琲が半分になるころ、木戸さんが重い口を開いた。


 「今日、来たのは、娘のことなんだ」

 「はい」

 「あれから考えたのだけれど、妻にも娘にも今は話をしないことに決めたよ。話したところで、妻はこちらに来れるわけでもないし、娘も能力スキルを使うことも出来ない。ただ、寿命が削られるという不安な話しかないから」


 木戸さんの言葉に僕は頷いた。

 確かに、今は話してみたところで何かが出来るわけでもない。


 「先程、真王陛下にも同じ話をしてきたよ。そうしたら、キミにも話すように言われたから来たんだ」

 「そうですか」


 つまり、良さんは、木戸さんの娘さんの封印を解除する方法があることを話すかどうか、僕の判断に委ねたわけだ。

 ここで、そうですね、わかりました、と終わらせるという選択肢もある。

 しかし、僕は、あえて話すことにした。

 宣言することによって、目標の達成を強く心に刻む為に。


 「木戸さん。これから、僕が話すことは、良さん以外には秘密の話です」

 「秘密?」

 「サニヤとあの後、話をしてわかったんですが、娘さんの封印は解除可能です」


 僕の言葉に、木戸さんがピクリと体を揺らしたのがわかった。

 そのまま、話を続ける。


 「ただし、それには迷宮ダンジョン350階層になる迷樹の雫というアイテムが必要です」

 「350階層・・・」


 絶望に近い響きの呟きが聞こえてくる。


 「僕は、それを採ってくるつもりです」

 「それは・・・無茶だよ。危険過ぎる」

 「勿論、わかってます。僕の現在の到達階層は25です。遥か彼方です。けれど、約束します。僕は、採ってきます」


 木戸さんは、困惑した表情で真っ直ぐに僕の方を見つめた。


 「娘さんがどのくらいの速度で寿命を削られているのか、サニヤに確かめてもらうつもりです。そして、出来る限り早く、僕は迷樹の雫を手に入れるつもりです」

 「笈川君の気持ちは大変嬉しいけれど、それは父親である私の仕事だよ。キミのような若い子にそんな無茶はさせられない」


 木戸さんは、首を横に振った。

 そう、普通ならば、無茶な話だ。

 そして、良識のある大人は他人でしかも子供の僕にそんなこをしてくれとは言えない。

 むしろ、言わないでくれたことが嬉しい。

 その優しい気持ちが、僕の原動力の一つになる。

 だから、僕は、木戸さんを信じる。


 「木戸さん、僕は異端ディザスターです」


 木戸さんがハッと息をのんだ。


 「そして、サニヤが、僕ならば350階層に行けると言いました。僕はそれを信じて頑張ります。だから、木戸さんも僕を信じてもらえませんか?」


 木戸さんは、じっと僕を見据えたまま暫く動かなかった。

 きっと、心の中で色々な葛藤と戦っているのだろう。

 数分後、小さなため息と共に、


 「私は笈川君を信じて待つよ。そして、この秘密は口外しないと誓う」

 「ありがとうございます」


 異端ディザスターであるということは脅威だ。

 未だ自覚の足りない部分はあるけれど、王城と杉浦さんの家の間を瞬間移動テレポート出来ることだけでも充分に脅威だ。

 野心を持つ人からすれば僕は邪魔な存在と認識されるだろう。

 だからこそ、秘密にしなければならない。

 それは、僕自身の平穏を守るためでもあり、世界を混乱させないためでもあるのだ。


 「笈川君が、娘を助けてくれたら、その時は、妻にも娘にもキッチリと話をするよ。そこまでしてもらって、娘に出来ることをさせないというわけにはいかない」

 「それは・・・、その時の木戸さんの判断にお任せします。娘さんが、巫女姫をやりたくないって言う可能性もありますよね。その場合は、仕方ないです」


 僕の返事に不思議そうな表情をして、


 「それでいいのかい?命を助けてもらっておいて虫が良すぎないかい?」

 「うーん。でも、これは僕の我儘でもあるんですよ。単純に、僕がこの愛すべき世界の為に出来ることをしたいなって思っただけなんです。だから、娘さんの意志は尊重したいです」

 「そう・・・。何か私に出来ることがあれば遠慮なく言ってくれ。生憎と平凡なサラリーマンなんで金銭的援助は難しいけれど、困ったことがあれば一声掛けて欲しい。協力は惜しまないよ」


 平凡なサラリーマン。

 松田さんや承さんという飛びぬけた人を見た後なので、平凡といえば平凡なのかもしれないれど、木戸さんも『落ち人』。他の『落ち人』同様、何かありそうなんだよね。

 そんな予感を感じつつ、木戸さんの言葉に感謝する。


 「その時は、よろしくお願いします。近いうちに、サニヤに娘さんのことを聞き取りするつもりですけど・・・、結果はお知らせした方が良いですか?」


 娘の命の期限タイムリミットは聞いて楽しい話ではないけれど、知らないのも気になって落ち着かないだろう。

 木戸さんは、一瞬だけ迷った様子を見せたけれど、


 「お願いするよ」


 と、言った。

 出来るだけ長い時間があればいい。

 そう願った。

 長ければ長いほど、木戸さんも安心だし、僕も冷静に迷宮ダンジョン攻略に挑めるだろう。



 



 

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