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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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お見合い 1

 翌日は、快晴だった。

 夏の終わりが近いとはいえ、日差しはまだまだ眩しい。

 城門の前に立ちつつも、日陰になる場所を選んで門兵さんと雑談しながら待っていると懐かしい顔がこちらに向かって歩いているのに気が付いた。

 マーカスだ。

 その少し後ろを歩いている男女が恐らく両親だろう。

 父親の方は庭師らしく半袖から覗く腕が筋肉で盛り上がっている。

 母親は、特に特徴のない、どこにでもいる主婦のようだ。さすがに王城に、息子のお見合いに登城するからか、全員が少し畏まった服装をしている。

 それを見て、自分が思いっきり普段着だったことに気が付いて少々後悔するが仕方がない。

 どうせ、今日の主役はマーカスだ。

 僕が目立つ理由もない。


 「マーカス!」

 「吹雪!」


 お互いに名前を呼び合って再会を喜ぶ。

 現実リアルで会うのは初めてだけれど、能力スキルが使えないこと以外は現実リアルのデータで構築されているゲームなので違和感は感じなかった。

 マーカスに両親を紹介されて挨拶をする。


 「はじめまして、吹雪君。ゲームでマーカスがお世話になったそうですね。ありがとうございます。その上、こんな良いお話までいただけて家族全員感謝しております」


 母親のジェラミィさんが深々と頭を下げる。


 「あの、それはマーカス君が良さ・・・真王陛下にはっきりと自分の意見を言ったからで、僕の力ではないので。頭を上げてくださいっ」


 慌てて声をかけて何とか普通にしてもらう。


 「すでにお聞きとは思いますが、本日は天候も良いのでガーデンテラスでの昼食を予定しています。案内しますね」


 門兵さんに目で挨拶して、僕はマーカスたちを連れて門を通る。

 父親のライスさんは、やはり庭が気になるのか、しきりに周囲を見回している。

 ジェラミィさんは、庭よりも城そのものが気になるようだ。

 本日の主役であるマーカスは、城内へ入ったことで意識しはじめたのか緊張の面持ちだ。

 目的のガーデンテラスまではさほどの距離もないのであっという間に到着する。

 しかし、王宮専属庭師さん一家はまだ居なかった。

 テーブルセッティングをしている侍女さんに到着を告げると恭しく礼をしてどこかへ消えていった。

 恐らく良さんと王宮専属庭師さん一家に連絡しにいったのだろう。

 これは、昨日すでに打ち合わせていた通りなので僕は落ち着いてマーカスたちに予め決めていた席に案内する。

 僕は日本でお見合いをしたことも、その知識を得ようと思ったことがなかったので、この世界の常識なのか、日本でも同様なのかは知らないが、良さん曰く、


 『たとえ女性側の方が先に到着していても、男性側を先に会場へ案内するのが普通だよ。第一印象というか、座ってるご令嬢より、歩いて着席するまでが女性の見せ場でもあるしね』


 だ、そうだ。

 まあ、男性側からしてみても、女性を会場で待たせてしまったと思うよりは待たされる側の方が気楽で良いのかもしれない。

 特に、今回は女性側一家の方が圧倒的に家格という点では上なのだから。

 日本ならともかく、自由の国アメリカでこれをやると男尊女卑がーという主張が出てきそうな気がしなくはないが、ここは黒の領地だ。

 良さんに任せておけば問題ないだろう。

 暫くすると、良さんがやってきた。

 完全な正装ではないけれど、普段僕に会う時とは違った。

 夏なのに長袖シャツにネクタイ。胸の辺りには何か飾りがついている。

 王族っていうのは何かと大変そうだ。

 そんな暢気なことを考えている僕のすぐ横でマーカス一家が慌てて席を立って跪く。

 良さんは何も言わず着席して一呼吸置いてから、


 「面を上げなさい」


 と、いつもと違う少し高圧的な口調で一家に声をかけた。

 その一言で全員が跪いたまま顔をあげる。

 その表情は緊張のあまり表情が抜け落ちているようだ。

 暫く沈黙が続く。

 夏の生ぬるい風だけが僕達の間を駆け抜けて行った。

 皆の緊迫した雰囲気とは裏腹に僕は、良さんどうしちゃったんだろーと暢気に考えていた。

 春の祭典で他所の領地の偉い人達に囲まれた時でもいつもの『良ちゃんだよー』という明るい口調だったのに、今日は本当に偉い人みたいな雰囲気で座っている。

 多分、本来こうあるべきなのだろう。

 しかし、いつまで皆を跪かせておくのだろうか、と不安を感じ始めた頃、潟元さんを先頭にマーカスの両親と同じ年頃の男女がやってきた。おそらく王宮専属庭師夫妻だろう。

 良さんに向かって潟元さんが始めて出会った時にしたのと同じ礼をした後、マーカスたちの方へ向き直り声をかける。


 「おまたせいたしました。どうぞ、皆様ご着席下さい」


 それに合わせて王宮専属庭師夫妻も着席する。


 「本日の司会をさせていただきます。潟元 弦水と申します」


 潟元さんが良さんに目礼した後で、サクサクと司会進行を始めた。

 潟元さんが来ることは聞いていなかったので良さんの方に視線を向けると目が合った。

 その瞬間、ずっと無表情ポーカーフェイスだった良さんが少し苦笑いしたように見えた。

 これは、あれだ。

 良さんは、このお見合いを潟元さんに秘密にしていたけれど、バレたんだ。

 そして、『真王陛下自身が司会進行なんてとんでもない!』と叱られた上に役割を取り上げられた。

 そんなところだろう。

 迷宮ダンジョン25階層へ行った時のことといい、良さんは潟元さんの言う事はある程度聞くようだ。立場上は、潟元さんが臣下なのに、やはり『爺』と呼ぶ程の長い付き合いだからだろうか?

 そういえば、良さんのご両親についての話を聞いたことがない。

 普通に考えれば、王が崩御したことで新王として即位するのだから居なくても不思議はないけれど、この世界ではそうでもないようだし、良さんが即位する前は貴族間も殺伐としていたらしいしもしかすると・・・、いけない。

 マーカスのお見合いの席で考えるようなことではない、と気付き思考を止める。

 丁度、王宮専属庭師のお嬢さんが登場するタイミングだったようで皆の視線の向いている方向を僕も見る。

 真っ白なワンピース。袖や裾部分に薄いブルーのリボンがレースのように飾りになっていて爽やかだ。

 それを着ている少女は、良さんと同じ美しい金髪で、長めなのか頭上で団子状にまとめて結い上げられている。肌の色は、作業をするせいなのか小麦色に焼けていて健康的だ。

 顔は、この世界に来て目を覆うような容姿の人を見たことがないので(あ、日本でも見たことなかったわ)まあ、美人だと思う。

 バレーボール部のキャプテンにいそうなタイプだ。

 純粋に美しさで蒼記さんに勝てる人は未だに出会ったことがないし、可憐さではラズリィーが最高だ。

 これは譲らない。

 チラリとマーカスに視線を向けると、少し頬を染めて彼女を見つめている。

 どうやら好みのタイプだったようだ。

 さて、彼女の方はどうなのだろう。



 

 

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