【雪花】とお見合いの打ち合わせ
氷の魔石で作られた【雪花】。
戦争抑止力になるほどの火力を持つという刀。
良さんがそんな武器を僕に渡した意味はきっとある。
良さんは、僕の言葉に一瞬、何のことだろう?というような表情をした後で、ポンッと手を叩いて、
「あー!アレね!」
と明るく笑った。
「アレね!じゃなくて、あんなの普段使いに出来ないですよ!」
僕は抗議の声をあげる。
僕が欲しかったのは、能力がなくても使える平凡な武器だったのだ。
勿論、【雪花】は能力を付与しなくても充分に使用可能だろうけれど、無意識に発動してしまって大事故になったらと思うと恐ろしくて使えたものではない。
僕の憤りとは裏腹に良さんがケロリとした表情で、
「やー、そうなんだけど、実はアレ、俺からじゃないんだよねー」
と笑った。
「はぁ?」
予想外の言葉に驚く。
「吹雪君が水川伯爵領へ行く少し前だったかなー、サニヤさんが吹雪君にって渡してきたんだよねー。自分で渡したら?って言ったんだけど、俺からの方がいいって押し付けられて。どうしようかなーと思ってたんだけど、丁度良いタイミングで武器が必要そうになってよかったよー」
「サニヤが?」
「うん。ついでだからいっちゃうけど、アレ、正規の鑑定に出したわけじゃないけど、恐らく神代武器だよ?」
ついでというには大きな爆弾発言に僕は驚いて再び硬直する。
「まー、サニヤさんのご主人様の証だと思って受け取っておいてあげたら?」
サニヤのご主人様の証。
そう言われると、なるほど、サニヤが良さんを経由したのもわからなくはない。
サニヤが手渡してきたら、もっと警戒して受け取らなかっただろう。
「僕が危険な武器だって気付かないで使ったらどうするつもりだったんですか」
「えー?その時はそういう運命だったんだよ。アレを発動させようと思ったらかなり意識して能力を使わないと無理だと思うよ?」
「え?そうなの?ついウッカリとかはないの?」
僕はその言葉に少しだけ希望を見出して恐る恐る訊ねてみた。
「ウッカリ程度の魔力量なら、発動してもクリスタルシュガーと同じ程度だと思うよ?」
『魔剣クリスタルシュガー』
氷の属性が低くても軽く振るだけで周囲が凍りつく。
使って何度か検証した結果、周囲100m程度の地面が凍結して、任意の場所に30cm~50cmの棒状の氷を30個程度、一斉掃射が可能だった。
白の領地での神との交戦ではとても役に立った。
補助アイテムだけでは、あそこまで持ちこたえられなかっただろう。
「あー・・・、ってそれでも危険には違いないじゃないですかっ」
「うん?でも、本気で使ったら最低でも王都全土が凍り付くと思うよ?アレは」
良さんの言葉に、軽く眩暈を覚える。
「まー、神と戦うことにでもならない限りは使う機会もないだろうから大丈夫だよ」
「そうありたいですね」
ふと、白の領地で遭遇した神のことを思い浮かべた。
いくら美人でも、あんな危険な神とは再会したくない。
「あ、そうそう。お見合いの件だけど」
良さんがこの話題は終わり、とばかりに話題を変えてきた。
そういえば、マーカスのお見合いの話もしなければならなかった。
迷樹の雫のことにばかり気をとられてすっかり忘れてしまっていた。
「庭師の家族の了承も、マーカス君の両親の了承も得られたからね。明日の午前中にはこちらに来ることになってるよ」
「思ったよりも早く話が進んでるんだね」
デリケートな話だし、良さんも忙しいだろうから、もう少し後に、秋の祭典の後くらいになるのではないかと思っていた。
「こういうのはイキオイも大切だからね。お見合いだから淡々と進めてもいいけど、女性からすればある程度は自分自身を欲しがってくれる相手の方が受け入れやすいでしょ?だから、時間を置いてマーカス君の情熱が冷めないうちに!ってね」
「はぁ・・・、そんなもんですか」
「そんなものだよ。ただし、さじ加減を間違えたら駄目だよ?熱烈に求め過ぎたら拒絶反応を見せる可能性もあるからね」
わかるようなわからないような良さんの言葉に曖昧に頷きつつ、詳細を確認する。
さすがに急なので今回は、マーカスとその両親だけがくるようだ。
アディ達が遊びに来るのはやはり秋の祭典の後くらいを予定しているらしい。
今、先にお見合いしておけば、その時にもう一度再会して友好を深め合えるし、友人達に冷やかされながらお見合いするよりもマーカスも気持ちが楽だろう。
まず、明日の午前中に僕が門前で彼等家族を向かえて城内に入り、お互いの職種と気候が良いこともあって、庭の一角にあるガーデンテラスで昼食を摂った後、主役2人で庭師の娘さんが管理している温室で語らってもらう予定になっている。
僕の出番は、出迎えと案内や食事の時にマーカス家族の良さんに対する緊張の緩和剤くらいか。
良さんは、お互いの紹介と昼食が終わったら別の公務があるので退席するようだ。
何か困ったことが起こった場合は、傍に控えている侍女さんに対応出来るようにある程度権限を与えてあるらしい。
よかった。
侍女さんで。
潟元さんがずっと傍に控えていたら落ち着いて食事どころではなくなってしまう。
2人が語らっている間、お互いの両親も庭で職業談義に花を咲かせてもらうつもりらしい。
滞りなく終われば夕方には役所の転送陣まで見送って終了だ。
僕としても是非、上手くいって欲しい。
良さんと話し終わった後、サニヤに【雪花】について聞いてみると、
「あれは元々、ふぶきのものだから」
と、ポツリと言ったきり黙秘を初めてしまった。
やはり予想通り、元のご主人様の物だったようだが、サニヤのご主人様とやらは一体どんな人だったのだろう。
フォロワーツ神殿の中の書斎といい、神代武器らしい【雪花】、原始種族であるサニヤ。
今の僕には理解不能過ぎる。
やっぱり、前世だとか、自分で記憶を隠蔽していると言われても自分であるとは到底思えない。
しかし、そうなると、冬の巫女姫を見つけるほどの優れた探索能力を持つサニヤを疑うことになってしまって、やはり自分がご主人様なのだろうか、と堂々巡りになる。
わからないものは仕方がないので一旦保留にすることにした。