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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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東京 7

 「350階って・・・」


 確か、過去に到達したことがあるらしい最高記録が350階層だったはずだ。

 現在25階層で詰まっている僕には遥かに遠い場所だ。


 「ふぶきなら行けるわ」


 サニヤが迷いのない瞳でこちらを見てくる。

 その根拠はどこにあるのだろうか。

 サニヤが見ているのは過去の『ご主人様』で、僕にはそんな自信は到底抱けそうになかった。

 しかし、厳しい条件だからと諦める訳にはいかない。

 まだ会ったことはないけれど、小さな女の子の生命が脅かされると知ってしまったのだから。

 やはり、この話は良さんに伝えて対応してもらおう。

 僕は無理でも、シノハラさんや暮さんなら行けるのではないだろうか。

 他力本願になるのは悔しいけれど、さすがに350階層は遠すぎた。



 夕食後、松田さんから良さんの伝言を聞いた。


 「明後日にお見合いするからそれまでには戻るようにって。笈川くん、お見合いするの?」


 松田さんは不思議そうな顔している。


 「いえいえ。水川伯爵領で友達になったマーカスってヤツが王城の庭師のお嬢さんとお見合いするんですよ。僕が出迎えることになってるので」

 「そうなんだ。庭師のお嬢さんって会ったことないなあ」

 「実は僕も」


 あの広大な庭で出会っても紹介されでもしない限りはすぐに忘れてしまうだろう。

 普段は衛兵さんや侍女さんの存在の方が目に入りやすい。

 人数が違う。

 あの王城内で働いている人はいったいどのくらいいるのだろうか。


 「明後日ってことは明日には良さんと打ち合わせした方がいいよね。木戸くんも気持ちを固めるのに少し時間をあげたいし」

 「そうですね。僕も良さんと話したいことがあるから、明日の朝には戻ろうと思います」


 僕がそう言うと、


 「今回は急なことで慌しかったから、落ち着いてから遊びに来るといいよ。基本的に俺はいつでも暇してるから遠慮なくどうぞ」


 と、松田さんが言ってくれた。


 「今回は、色々お手数おかけしました」


 僕の思い付きで急に目の前に現れたのに食費に宿泊費、サニヤの服までお世話になって本当に申し訳ない。

 次回、来る時には何かお礼の品を用意しておきたい。


 「そんなに恐縮しなくていいよ。冬の巫女姫もみつかったし、まあ、まだ問題は色々あるだろうけれど、それは大人の領分だよ。笈川くんが木戸くんのことで気に病む必要はないよ。誰が見つけてもいずれは通った道だからね」


 松田さんがそんな優しい言葉をかけてくれた。

 僕は本当に周囲の大人に恵まれている。

 両親はもちろんのこと、良さんや甲斐さん、松田さん。

 シノハラさんも、無茶振りさえしてこなければ基本的には良い人だ。

 僕も、皆のように誰かを支えたり見守れるような大人になれればいいな。



 翌朝、前夜と同様に承さんの部屋で食事をした後、戻ることになった。

 時間は午前10時半。

 松田さんと承さんに改めてお礼を言ってから王城の自分の部屋へ瞬間移動テレポートした。

 松田さんのことを思い浮かべて日本に来てしまってから初めての異世界間移動なので少し不安があったけれど問題なく戻ることができた。

 瞬間移動テレポートに関しては、余程、動揺でもしていない限り失敗することはなさそうで一安心。

 松田さんが持たせてくれたお土産をテーブルに置いて、柴犬たちにただいまの挨拶をしながら撫でる。

 一通り撫でてから部屋を出て通りすがりの侍女さんに良さんに帰宅したことを伝えてもらえるようにお願いした。

 これで、良さんの方から何か連絡があるだろう。

 ソファーに座って一息つくと、ふと周囲が薄暗いな、と感じた。

 東京は快晴だったけれど、こちらは曇天なのだろうか?

 不思議に思って立ち上がって窓を開けたら遠い家々の向こうから薄っすらと太陽が昇ってくるところだった。

 慌てて時間を確認したら午前4時半を過ぎたところだった。

 そういえば、こちらから大阪へ行った時にも時差を感じた。

 確か、こちらが昼だったのに大阪は夕方だった。

 つまり?

 この黒の領地は日本と時差のある場所に存在するというわけだ。

 地球上の地図だと、どの国辺りになるのだろう?

 普通に廊下に侍女さんたちが歩いていたからお願いしてしまったけれど、こんな早朝から連絡が入ったら良さんも迷惑なのではないだろうか、と思い至って少し頭を抱えた。

 もう言ってしまったものは仕方がない。

 次回からは気をつけよう。

 改めてソファーに座って今後について考えをまとめてみる。


 まず、冬の巫女姫捜しはこれで終了だ。

 戦争用地域や女帝の国みたいな危険そうな場所へ行かなくて済むと思うと嬉しい。

 しかし、冬の巫女姫が祭事を行えるかというと、現時点では無理だ。

 木戸さんがどんな結論を出すのかもわからないし、相手は小学生で、しかも能力スキルが封印されている。

 その封印は、寿命を縮める危険性が高いので、解除は急務だと思う。

 しかし、その解除用アイテムである迷樹の雫は迷宮ダンジョン350階層という果てしなく遠い場所にあるらしい。

 そのことを良さんに伝えて、どうにかシノハラさんか暮さんの協力をお願いしたいと思っている。

 情けないけれど、今の僕には遠い場所だ。


 悔しいなあ。


 チクリと胸を刺す痛みを感じた。

 僕には、他の人よりは圧倒的に有利なはずの異端ディザスターがあるのに、内側に確かに感じる能力スキルがあるのに、実際に使うには知識も経験も足りなさ過ぎる。

 こうやって、出来るはずのことが出来ないと悔しい。これから、もし似たようなことが起こってもまた、自分には何も出来ないままだと辛い。


 もっと強くなりたい。

 もっと知識が欲しい。


 自分がしたいなと思ったことを、他人任せにしなくてもいいように。 

 


 

 

 






 


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