東京 6
いつのまにか翌日、紫雲さんも一緒に東京観光しに行くという約束になった。
紫雲さんが途中下車した後、承さんのマンションへ到着する頃には時刻は12時近くなっていた。
「遅くなっちゃったね。今日はおつかれさま。明日、行きたい場所少し考えてみておいてね」
「あ、はい。わかりました」
松田さんとそんなやりとりをしていると間に承さんが僕達が寝泊りする部屋の鍵を持ってきた。
「どうぞ。中は自由に使ってもらって良いですから。明日は、兄が迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。松田さんも、いつもすみません」
「いえ、僕の方こそ、お部屋貸していただけて助かります。明日、楽しいといいですね」
「そうだよー。紫雲くんと遊ぶのは久しぶりだし楽しみにしてるよ」
「そう言っていただけると助かります」
恐縮する承さんに松田さんはヒラヒラと手の平を振った。
ふと、一緒に暮らしているのに微妙に余所余所しい2人だな、と思った。
松田さんが、というよりは承さんが距離を取っている感じがする。
やはり伯父さんだからだろうか?
そんなことを考えながら僕は松田さんたちと別れて渡された鍵を使って204号室へ入る。
サニヤは203号室。
松田さんは401号室だ。
室内は、3LDKでおそらく承さんの住んでいる最上階の部屋よりは少し狭かった。
しかし、1人で寝泊りするにはあきらかに広過ぎる。
先程まで皆と居たせいもあって室内の静かさが身に染みる。
明日のこともあるし、手早く入浴して眠ってしまおう、とバスルームへ向かうと着替えが用意されていた。まさか、ここまで出費させてしまったのか、と内心焦りながら内容を確認すると、綺麗に畳まれた服の上にメッセージカードが置いてあった。
『真王陛下からの伝令により、着替えをいくつか用意しました。
クローゼットの中もご確認下さい。
アマリカ 』
なるほど、服を確認すると、王城に置いてあった服だ。
そういえば、そういう面でも松田さんよりも良さんにお世話になっている。なりすぎといってもいいくらいだ。
しかし、良さんに対しては本当に自然なことのように受け入れている自分がいる。
どうして?
それが相手の仕事だと思ってるから?
確かに良さんたちはそういうつもりなんだろうけれど、僕がそう感じるのは不自然だよなあ。
向こうに居た時は、最初に名前で呼ぶように言われてそのまま受け入れたから、僕と同じくらいの年齢のカルスやアディたちの気持ちがわかりにくんだろうと思っていたけれど、それって、少し不自然なことのような気がしてきた。
両親でもない大人に必要以上にお世話になってるのに今まで考え付かなかった理由が思い浮かばない。
シャワーを浴びながら考え続けたけれど結論は出ず、疲れていたのかベッドに転がっている間に眠りに落ちた。
翌日、結局行きたい場所も思いつかなかったのでなんとなく『お台場』に行くことになった。
海を見るのはアルクスア以来だ。
テレビ越しに見たことのある景色を見てランチを食べて散歩する。
時々、外国人の観光グループを見かけたけれど、全員普通の人間で獣耳が生えていたり空を飛んでいたりはしないことに少し違和感を感じた自分に内心焦った。
何年も向こうに居たわけでもないのに馴染み過ぎてる。
すべてが終わった後、日本に戻って生活をすることも未来の選択肢の一つとして考えていたけれど、少し厳しいかもしれない。
やはり、お金を貯めて調理師専門学校へ通って、どこかのお店に就職して生活するのが今の僕には無理のない未来かな?
そんな風に、自分の変化を感じながら1日を過ごした。
夕方、マンションに戻って来た後、夕食の買出しに行って来る、と松田さんと承さんが出かけていった。
サニヤと2人、承さんの部屋で留守番している。
今の内に昨日聞こうと思った質問をしよう。
そう決めて、承さんが置いていったチョコレート菓子を頬張るサニヤの方を見る。
「ねえ、サニヤ。昨日、封印は解除出来ないって言ってたけど、あれ、僕にも無理なのかな?」
「ふぶきなら解除出来るよ」
至極あっさりとそう言われた。
予感はしていたけれど、少しだけ驚く。
「それって、どうやるのか知ってる?」
サニヤは頷く。
「教えて?」
「神族の封印術なら、迷宮にある迷樹の雫を使えばいいわ」
「迷樹の雫?っていうのがあれば誰でも出来そう?」
サニヤは首を横に振って、
「ふぶきくらい全属性能力適正がないと使えないわ」
つまり、神様か、その眷属、それ以外では異端くらいしか使えないということか。
「その方法について他の人に教えてもいいのかな?」
「秘密にしてるわけじゃないわ」
聞かれなかったから、とサニヤは呟いた。
ともかく、僕に解除出来ることはわかった。
しかし、松田さんや木戸さんに僕なら出来そうですよ、と言うわけにはいかない。
ここは一度あちらに戻って良さんに伝えて指示を仰ぐほうが良さそうだ。
木戸さんが娘さんに自分の能力の話やあちらのことを話す話さないに係わらず、封印によってラズリィーのように生命を削るのならば解除しないという選択肢はないだろう。
「その迷樹の雫って迷宮のどこら辺にあるの?」
必要アイテムの入手は急務だ。
僕のいける場所ならいいな、とサニヤに問いかけると厳しい答えが返ってきた。
「350階層よ」