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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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ボクっ娘の破壊力

 「とても、美味しかったですわ」


 薄桃色の髪の少女が微笑む。まるで見えてないのが不自然なくらいに真っ直ぐにこちらを見て。

 春の巫女姫。まず、間違いないと思っているが、疑う気持ちも少しある。大事な神事を前に、護衛もなしに一人でいるだろうか、という疑問だ。ただ、真王の前例があるだけに、巫女姫も自由に行動していても不思議はないのだ。先代の冬の巫女姫は、行ったり来たりしていたようだし。やはり、こればかりは、確認した方が手っ取り早いだろう。


 「あの、貴方は春の巫女姫様なのでしょうか?」

 「ええ、そうです。当代の春を勤めさせて頂いております。ラズリィーと申します」


 花の様な微笑みを向けられて、うっかり見惚れてしまった。


 「僕は、笈川 吹雪といいます。まだ、こちらのことを余り知らなくて、巫女姫様に失礼があったら申し訳ないです」

 「あら、ふぶきさんは、先代のお姉さまと同じ国の方なのね。そんなに畏まらないで下さいませ。わたしは、巫女ですが、元の身分は、平民でございますので」

 「いや・・・こちらだけ、気楽に話すってわけには・・・巫女姫様も、どうか気楽に話してくださると・・・」

 「そうですわね。では、わたしのことは、ラズと呼んでください。親しい者はそう呼びますのよ」

 「え・・・っとじゃあ、ラズさん」

 「ええ、ふぶきさん。わたしたち、お友達になれるかしら」

 「僕でよければ、よろこんで」


 僕は、右手をラズさんに差し出して、直ぐに引っ込める。

 そういえば、見えてないのだ。言葉にして言わないと握手を求めてもわかってもらえるはずがない。


 「随分と楽しそうだね」


 ふいに声をかけられて振り返ると、映像で見た青銀髪の少女が立っていた。

僕は、急に息苦しくなる。

 映像の時と違って、緩めに束ねられた髪に、シンプルなシャツと鮮やかなブルー系の七分丈のパンツから伸びる白く華奢な手足。

 ラズリィーの、心穏やかになる雰囲気とは正反対に、背筋を硬直させてしまう程の圧倒的な美貌を現実に目の当たりにすると破壊力が凄まじかった。


 「ソウキ様」


 ラズリィーは、少女に穏やかに微笑む。


 「こちら、ふぶきさん。日本の方ですって。先程、お友達になりましたの」

 「ふぅん、キミが笈川君か」


 ソウキさんは、僕の名前を苗字で呼んで、チラリとマキちゃんに視線をやると、


 「マキちゃんがいるなら、笈川 吹雪君で間違いないかな?」


 マキちゃんは、そうだ、というように尻尾を揺らす。


 「ボクは、中院なかのいん 蒼記そうき。キミのことは、真王から聞いているよ」


 彼女の名前を聞いて、僕は、授業の内容と思い出す。

 魔王領の公爵家の家名に、中院があったことを覚えていたからだ。

 歴史の授業で、甲斐さんの、家名が時田であることを教えて貰った時に、上位貴族である他の公爵家のことも話題にあがったのだ。それも、出来れば回避するべき存在として。

 『貴族社会の問題児』として、中院家は、王家にも容赦なく攻撃をしかけてくる好戦的な貴族の代名詞。タテノさんや、甲斐さんが親しげに振舞うのとは全く違う。機嫌を損ねたら世界征服さえもしかねない一族だと。

 僕が、戸惑っていると、蒼記さんは、人差し指を口元にあてて、小首を傾げた。

 彼女の家名への恐怖や警戒よりも、その可愛らしさの破壊力にまた心かき乱される。


 「その顔は、時田辺りに脅かされたんでしょう?中院には近付くなって。ふふっ、ボクは無意味に攻撃したりしないよ。他の血族は・・・・まあ、刺激しないで大人しくしてれば、噛み付いていったりしないよ。多分ね」

 「マキは、オマエが一番コワイと思うぞ」


 マキちゃんが、小さく呟くのが聞こえた。当然、彼女の耳にも入っただろう。


 「マキちゃんは、時田の猫だもの。ボクだって誰にでもは優しくないよ」

 「まあ、ソウキ様、政治のお話は、ふぶきさんが困ってしまいますわ。余り、意地悪なさらないで」

 「ま、そうだね。今日はラズの気分転換に来たわけだから。笈川君も、普通に接して欲しいな」

 「よ・・よろしくですっ」


 多少、どもりながらも何とか声を発する。

 中院一族が、怖いのは本当らしいけれど、恐らく、貴族的な派閥の問題でも、甲斐さんとは友好的ではないのだろう。僕自身は、特にどこの所属でもないので攻撃対象ではないようでホッとする。

 フランス人形のような、透き通った肌の美少女に、罵倒されたり、殴られたら精神的なダメージが計り知れない。


 それにしても、ボクっ娘かぁ。リアルでいたら引くんじゃないかな、と深夜アニメを見たときに考えたことがあったが・・・それは間違いだった!

 これは、ラズリィーとの出会いといい、神様がとうとう僕にお慈悲をくれたんだろうか。


 一時間ほど、ベンチに座って世間話をした後で、『また、春の祭典でお会いしましょう』と、二人は帰っていった。

 僕は、次の楽しみが出来て嬉しくて帰り道は何度も転びそうになった。浮かれすぎは危険だよね。


 この日から、僕は、『黒の歴史』『歴代巫女姫』についての講義は、今まで以上に興味を持って聞くようになった。あとは、『能力制御』なんだけれど、色んな属性の汎用制御法について教えてもらっているけれど、全く成果は出ていなかった。補助アイテムを使えるから、能力はあるのは間違いがないのだけど、未だに正確な鑑定結果が出ていないからだ。

 現段階では、『体温管理』と『アイテム変形』は、難なく使用できているけれど、『飛行』や『攻撃魔法』などは自力で発動できていない。シノハラさんとの模擬戦の時に、『魔力での投擲』は一度成功しているけれど、あれきりだ。

 役所の研究員の人曰く『そこまで氷の能力が突出しているのに氷槍にならなかったのが不自然』なのだとか。多分、ひたすら当てる事だけを考えた結果だろうと僕は思っている。

 もし、今度、生命の危機を感じたら氷の攻撃魔法を意識して使ってみようと思う。

 勿論、平和な方が良いに決まっているけれど。

 



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