東京 4
夕方、マンションへ戻り一旦、承さんと合流した後で予約を入れてある中華料理店へ向かった。
僕達の方が先に到着したようで、予定通り個室へ案内されて着席して待つ。
中華料理のテーブルが回るという知識はあったけれど、実物を始めてみて少しワクワクするけれど、お行儀が悪いので回すのは我慢した。
ほどなくして、スーツ姿の男性2人がやってきた。
人目で染めているとはっきりわかるオレンジ色の髪の軽そうな雰囲気の男性と、少し気難しそうな表情をした割と平凡な男性。
どちらが、木戸さんだろうか。
妻帯者なのだから、地味な方だろう、となんとなく思う。
「おまたせー」
「すみません、おまたせしました」
2人が来たので僕も席を立ってお辞儀をする。
「2人とも、平日にゴメンね。紹介するね、笈川 吹雪くん、とサニヤさん」
松田さんが僕とサニヤを紹介してくれる。
「はじめまして、笈川です」
「はじめまして。サニヤさんって、サミヤさんの仲間?似てるね?」
オレンジ色の髪の男性が、サニヤをじっと観察する。
サニヤは全く気にする風もなく座っている。
「紫雲、初対面の女性をそんなにじっと見ては失礼だよ。木戸です。今夜は夕食に招待していただいてありがとうございます」
僕の予感は当たっていたようで、木戸さんが紫雲さんを軽く小突いた後で頭を下げた。
「んー、女性?なのか?ま、いいや。松田さん、今日って何の集まりなの?」
嗜められたのに気にかける風もなくマイペースに紫雲さんは空いてる席に座った。
その様子を見て木戸さんがやれやれ、という感じに肩を竦めてからその隣の席に座る。
「ちょっと大事な話だから、先に食事を済ませちゃおうか」
「ふーん?え?そのガキのどっちかと結婚するとかそういう話?」
「紫雲、そういう話なら、俺は呼ばれる理由がないと思うぞ?」
「それもそうかー」
承さんのお兄さんとは思えない程、良さんばりに軽い口調の紫雲さんに少しだけ緊張の糸が解れる。
松田さんとは違う意味で人見知りしない人懐っこいタイプのようだ。
お陰でというか、賑やかに雑談を交えながら夕食を食べることが出来た。
食後のデザートをサニヤが食べている中、松田さんが木戸さんを真っ直ぐに見つめた。
そろそろ今日の本来の目的を話すようだ。
僕も思わず背筋を伸ばす。
「あまり遅くなると奥さんが心配するだろうから、単刀直入に話を進めるけれど、木戸くん」
「はい」
「当代の冬の巫女姫が見つかった。というか居場所がわかった。君の自宅だ」
「・・・はい?」
「つまり、君の奥さんか娘さんかのどちらかが冬の巫女姫だ」
木戸さんは、目を見開いた後、額に手をやって暫く考え込んでいるようで沈黙した。
僕も松田さんも何も言わないで木戸さんの様子を窺っていると、紫雲さんが、
「なにそれ?立野が死んで3年も経って今更?」
と、呆れたような表情をして言った。
「兄さん」
承さんが、嗜めるように名前を呼ぶ。
紫雲さんは、先代冬の巫女姫である霙さんと親しかったのだろうか?
僕がそんな感想を抱いていると、木戸さんが覚悟を決めたように松田さんを見た。
「恐らく、それは娘の方でしょう。妻には魔力は全くありませんが、娘からは、俺よりも多い魔力保有量は感じますが、属性は不思議なくらい感じないのを気にはしていました。発見が遅れた原因はそのせいでしょう」
そう言った木戸さんの声は少し震えていた。
木戸さんなりに、自分の娘さんに違和感を感じていたようだ。
「封印、されてる。だから、表面化してない」
サニヤが、ゴマ団子を摘みながらポツリと呟いた。
その場にいた全員の視線がサニヤに向けられるが、言いたいことは言い終わったとばかりにゴマ団子を頬張る。
「それ、どうすればいいの?」
意を決して僕がサニヤに質問した。
「時限式なら時が来れば解除されるわ。そうじゃないなら、かけた本人に解除させる?」
時限式という可能性は低そうだ。
四季の巫女姫不在の期間を作ろうとすること事態に世界に対する悪意を感じる。
「かけた人が誰か、わかったりする?」
そう聞くとサニヤは、恐らく木戸さんの自宅のあるだろう方向を見て少し考えた後、
「ちょっと遠いからわからないわ。もう少し近くにいればわかると思う」
と、言った。
僕は、松田さんと木戸さんの顔を見てから、
「どうしますか?」
と、大人たちの反応を待つ。
木戸さんが、サニヤに向かって問いかける。
「巫女姫の重要性は勿論、よくわかってます。わかっているけれど、あえて教えて欲しい。このままの状態を維持すれば、娘は普通の人間として人生を全うできるのでしょうか?」
「無理。器に溜め込んだままでいる方が寿命を削るわ」
バッサリと無慈悲にサニヤが言い切る。
それは、僕が、ラズリィーにしているみたいに生命力譲渡で引き伸ばせないものなのだろうか。
しかし、この場でそれを言い出すわけにはいかない。
僕の異端については良さんから緘口令が出ているし、ラズリィーと状況が違うのだから同様に出来るという確信があるわけでもない。
後でサニヤに確認をとって、もし出来るのならば助力が惜しまないつもりだけれど、今は沈黙を守る。
「この話を妻や娘に話すかは、今すぐには決められません。少し考えさせてもらってもいいでしょうか?」
「うん、当然だよ。ただ、サニヤさんの言ってる封印ってのが気になるから、直接会えなくてもいいから、自宅前くらいまで行って確認作業はさせてもらってもいいかな?」
松田さんがそう提案した。
確かに、封印という状態が気になる。
僕と同じなら、バランスがおかしいと表現したはずだから、サニヤには治せないのは前提なのだろう。
「もちろん、構いません。娘に負担がかかるような封印ならば、どうにかしなければならないですし」
木戸さんも快く同意してくれる。
「サニヤさん、調べてもらえるかな?」
「サニヤさん、お願いします」
松田さんと木戸さんにお願いされているのにサニヤは僕の方に確認を取るように視線を向けてきた。
「サニヤ、僕からもお願い」
「ふぶきがそう望むなら、いいわ」
僕が言うとアッサリと頷いたサニヤに、紫雲さんが呆れたように、
「すげーな。原始種族がこんなに従順なの始めてみたわ」
と、目を丸くしていた。
そりゃ、僕はサニヤのご主人様だから、ね。