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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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東京 1

 新幹線は定刻通りに東京へ到着した。

 僕は、初めての東京を堪能する余裕もなく必死に松田さんの後について改札を抜ける。

 大阪駅でも思ったけれど、都会こわっ!

 どこからあんなに人が出てくるの!?

 アルクスアの中心地も人が多いなと思ったけれど、大阪と東京はそれとは比べ物にならないくらい密度を感じた。

 うーん、これは人口の差ではなく土地の広さの差だろうか?

 アルクスアのビジネス街は少し建物と建物の間や歩道の広さに余裕があった気がする。

 地球規模でみても日本は小さな国だし、都会に建物や人口が集中しているのから仕方がないのかもしれない。

 改札を抜けて駅を出ると承さんが待っていた。


 「お疲れ様でした」

 「こんにちは。先にこちらに来てたんですか?」

 「そう、昨夜先について家を片付けてました」


 僕はてっきり、松田さんだけが一緒に東京へ来るものだと思っていた。

 承さんの言葉の意味がわからなくて不思議に思っていると、


 「僕は、元々は東京に住んでいたんですよ。その頃の家はそのままにしてあるのでこういう時に仕えるので重宝してます」


 と補足してくれた。

 普通は、引越ししたら元の家は売るとか貸すとかするものなのではないだろうか、と少しだけ思ったけれどあえて言葉にはしなかった。

 どういう理由であれ東京にも拠点があれば便利なのは間違いない。


 「さて、先にお昼ご飯にしようか。サニヤさんは何が食べたいかな?」


 松田さんがサニヤに気を使ってくれる。

 サニヤは、僕の機嫌を伺うような視線を向けてから、


 「甘いもの」


 と答えた。

 昨夜、ホテルで眠る前に松田さんにあまり迷惑をかけちゃ駄目だと言い聞かせた成果なのだろうか?

 甘いもの、とは何とも判断に困る抽象的な回答だ。

 肉!と言われるよりははるかにマシではある。


 「甘いものか。それはお昼ご飯というよりデザートだね」


 松田さんが苦笑する。


 「チョコなら僕の家にセラーがあるから後で好きなだけ食べて良いよ」


 承さんが、甘いものから連想したのかそんなことを言った。

 セラーって、貯蔵庫のようなものだろうか?

 留守にしている家にチョコを貯めこんでいるのは何故なのだろう。

 承さんは、時々つかみどころのない言動をするなあ。

 甘いものが好物なのだろうか。

 サニヤがよく食べるのは、活動に必要な体調のエネルギー摂取のためだから仕方がない。

 生命力や記憶を齧られるよりはいい。

 松田さんも、体格が良くて、しかも土の王という特性上、人より大目の食事量なのはさほど違和感を感じない。けれど、承さんは、違う。

 体格も、どちらかというと小柄だし、その身にまとう能力スキルの欠片は、土というよりも中院一族に近い。特に実篤さんが見せた風の能力スキルに良く似ていると思う。

 単純に、痩せの大食いというヤツなのだろうか。


 「うーん、移動で疲れただろうし、手近なファミレスにでも行こうか。各々好きなもの食べればいいし」

 「そうですね」


 松田さんの提案に乗って僕達はファミレスへ向かった。

 僕でも馴染みのある大衆的なファミレスに腰を落ち着けて昼食を食べる。

 ちょうど昼のピークが終わり始める時間だったようで空席があってよかった。

 ドリンクバーで入れてきたメロンソーダを飲んでいたら、


 「この後は、一旦、承君の家へ行って正確な位置を確認しようと思うんだけど、それでいいかな?」

 「そうですね。それで大丈夫?」


 松田さんの提案に頷きながらサニヤの意志を確認する。

 サニヤは、フライドポテトを片手に、


 「大丈夫。移動してないからわかりやすいわ」


 と、言った。


 「移動していない?」

 「動いても範囲10キロ程度よ」

 「ああ、なるほど。生活範囲圏からっていう意味か」


 松田さんがウンウンと頷く。


 「そういえば、新しい巫女姫って何歳くらいなんだろう?」


 今まで考えたことがなかったけれど、想定しておくべきだったことに今更気が付いた。

 食後のホット珈琲を飲んでいた承さんが、コトリとカップを置いてから、


 「一般的には先代よりも若く、一番、対象属性の能力スキルの強い者が選ばれますね。なので、先代の在位が長い場合、次代がそれだけ高年齢になる可能性が高くなります。立野さん、先代の冬の巫女姫の年齢を考慮しても最大で20代だと思われますね」


 と、答えてくれた。


 「つまり、もしラズさんに何かあった場合は、ラズさんより年下の女の子が選ばれるってこと?」


 考えたくない例だが、身近でわかりやすい対象なので確認作業の為にラズリィーを選んだ。

 出来れば何事もなく過ごしたい。


 「そうなるね。能力スキルが強すぎたり暴走しやすい姫の場合は、俺の知ってる限りでは最年少で3歳で選ばれた例もあるよ」


 松田さんの発言に僕は心底驚いた。


 「3歳!」


 そんな低年齢で先代が維持できなかった能力スキルを受け継いだら制御コントロール出来る出来ないという状態ですらないだろう。


 「だからこそ、基本的には神殿が保護することになっているんだよ。姫同士にしかわからないこともあるだろうし、一族継承の王とは違って姫は身内でフォローするのも難しいからね」


 松田さんの言葉に、そういえば王は一族に出やすいという話を昔聞いたな、と思い出した。


 「じゃあ、松田さんも遺伝なんですか?」

 「それが、土の王の血族が絶えたみたいで、松田の家では私が最初の『落ち人』であり『土の王』だよ」


 土の王の血族が絶える。

 そんなこともありえるのか。

 日本でも未婚の若者が増えて少子化の話題が出るくらいだ。

 異世界だって、一族が絶えることもある、のかな?

 受け継ぐべき一族の能力スキルという目に見える確かな権威があるのに?

 若干、そこが気になったけれど、松田さんが家では始めての『落ち人』だという話題の方に僕の関心の多くは流れた。


 「じゃあ、落ちる《それ》までは、僕みたいに普通に生活してたんですか?」

 「そうだよ。まさか、こんな道に進むとは思ってもいなかったよ」


 松田さんが昔を思い出したのか苦笑する。

 何だか今まで以上に松田さんに親近感を覚えた。


 「何がきっかけであちらへ行ったんですか?」


 僕は好奇心のままに質問した。


 「きっかけねえ。うーん、言葉にすると恥ずかしいんだけど、その頃、好きな人だった人が『落ち人』だったからだよ。距離を詰めようとして、どうにか自分も行けないものかと頑張ったんだよ」


 松田さんは照れたようにはにかんだ。

 僕は少しだけ驚いた。

 目の前の落ち着いた大人の男性が、『恋』のためにそんな情熱を見せたということに。

 勿論、素養があったから結果として現在があるわけで、松田さんに魔力の欠片もなければ徒労に終わったのだろう。

 『恋』という感情は、人の人生を変えちゃうんだ。

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