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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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発見

 サニヤの発言に誰も何も言わなかった。

 聞き違いだろうか?

 僕には、『冬の巫女姫、みつけた』と言ったように聞こえた。

 ジッとサニヤを見つめると、彼女は不思議そうな表情をして、


 「ふぶき、冬の巫女姫、みつけたよ?」


 と、もう一度言った。


 「え、と。どこ、に?」


 なんとも間抜けな反応をした僕に、サニヤは、


 「あっち」


 と、右手を上げた。


 「ちょっと、まって。サニヤさん、それは、あちらの世界ではなくて、この地球上に居ると言っているのかい?」


 松田さんがそう問うとサニヤはコクリと頷いた。

 承さんがスッと静かに立ち上がりリビングを出ていったと思うとノートパソコンを持って直ぐに戻ってきた。

 ノートパソコンを起動してインターネットへアクセスすると地図を出す。

 日本地図だ。


 「サニヤさん、僕達は今、ここ、大阪にいます。冬の巫女姫の正確な位置はわかりますか?」


 承さんが、画面の大阪を指差す。

 サニヤは、その画面を覗いて方角を確かめるような素振りをした後、そっと人差し指で地図のある場所を指した。


 「東京、だね」


 松田さんが確認するように呟く。


 「東京まで行けば、より正確な場所がわかりますか?」


 承さんの言葉にサニヤは頷く。

 まさか、こんなにあっさりと居場所がわかるなんて。

 僕は驚いて何も言えなかった。

 考えてみれば、サニヤはそれなりに広い黒の領地でさえ一瞬で居ないことを突き止めたのだ。


 「あー・・・、そりゃ、こっちにいるんじゃ向こうで見つからないわけだよねえ」


 松田さんが脱力している。


 「そうですね。さて、どうしましょうか。真王陛下に報告して、現地へ確認へ行きますか?」

 「そうだねえ。うん、サニヤさん、案内してもらえるかな?」


 サニヤは松田さんの問いに、


 「お腹空きました」


 とポツリと呟いた。


 「あは。そりゃそうだね。もう夕方だし、今夜は美味しいもの食べて、明日は東京に美味しいもの食べにいく、ついでに冬の巫女姫のところへ案内してくれたら、帰り道にも何かご馳走するよ?それでどうかな?」


 松田さんは、今にも吹き出しそうになりながらサニヤへ提案した。


 「それならいいわ」


 今度は、力強い答えが返ってきた。

 しばし放心状態で皆のやり取りを見守っていた僕は、サニヤの堂々としたおねだりに、


 「なんか、すみません」


 と、松田さんに頭を下げた。

 本当に、ウチの子がすみません。


 「気にしないで。たまには大勢で食べた方が楽しいしね。真王陛下には連絡しとくから今夜は泊まっていくといいよ。と、言ってもこの家には客用の布団がないからホテルを取ろう。ついでにサニヤさんに洋服を買って、どこかで外食でもしようか」

 「あ、じゃあ、僕が真王陛下へ連絡しておきます。松田さんは宿泊先の手配を」

 「はーい。じゃあ、2人はしばらくここで待ってて。サニヤさんは、これでしばらくお腹誤魔化しておいて」


 承さんは素早くどこかへ出て行き、松田さんは少しだけ席を外した後、大量のスナック菓子をサニヤの前に置いて出て行った。




 約1時間後、僕達は、大阪市内の某有名焼肉店で夕食を食べていた。

 4名席で僕の隣に座るサニヤは、ホテルを予約するついでに購入してきたという松田さんチョイスの裾がレースになっているレイヤートップスにショートパンツ姿だ。

 ついでに髪の毛も両サイドに軽く結んでもらっている。

 メイド服も似合ってはいたけれど、今風の少女らしい服装も新鮮で、そして可愛い。

 こんな可愛い服を、松田さんが1人で購入したのかと思うと若干、頭痛がしてくるが、あえてふれないでおこう。

 そう、松田さんは立派な大人だ。そして、僕達からすれば祖父ほどの年齢の人だ。

 洋服屋の店員さんだって孫にプレゼントだと思ったに違いない・・・多分。


 「笈川くん、ちゃんと食べてる?足りないなら追加するけど?」


 サニヤを見てぼんやりしていたら松田さんに声を掛けられた。


 「いえ。もう充分です。お腹一杯です」


 僕は胸元で両手をヒラヒラして断る。

 遠慮じゃない。

 本心だ。

 サニヤが結構食べることはわかっていた。

 松田さんも、以前、一緒だった時に、僕よりは食べるな、と思ってはいた。

 けれど、あれは控えめだったようだ。

 目の前で大量に焼かれて消えていった肉たちを思い出すとギョとする。

 松田さんも、承さんも、サニヤに負けない程、よく食べている。

 ちょっとお会計のことを考えたくない程に。

 ちなみに、この焼肉店、食べ放題コースもある。

 けれど、注文時に松田さんが『俺達だとお店に迷惑かけるかもだから』と食べ放題を選ばなかった。

 サニヤ1人がたくさん食べるくらいなら問題ないんじゃないだろうか、とのほほんと考えていたあの時の自分を殴りつけたい気分だ。


 「明日の朝はホテルで食べてね。10時くらいに迎えに行くから」

 「あ、はい。お手数かけます」


 本当は、ホテル代も洋服代も自力でなんとかしたかったけれど、悲しいかな、僕は日本円はまったく持っていない。

 今度、あっちで松田さんに何かお返しをしなくてはいけないな。

 その時の僕は、これでもまだ認識が甘かったのだと思う。

 食後、松田さんが運転する車で到着したホテルの入り口で凍りつき、案内された部屋の広さ、翌朝の朝食ブッフェと、1泊の料金を想像するだけで震えて来そうな場所だった。

 そして、東京までに移動は大阪駅から新幹線。

 もう、昨日と今日だけで松田さんにどのくらい迷惑をかけているのだろうと思うと落ち着かなくて仕方がない。

 え?

 中院公爵領でも世話になってただろ?って。

 そうなんだけど、でも、あれは良さんから経費が出てると思っていたし、今回だってきっと何かしら保障はあるのだろうけれど、あちらの世界のお金貰っても、日本では役に立たないよね?

 良さんは、今回の件で、松田さんにどういう対応をするのだろう。

 僕も、時間がかかっても、いつか日本円を獲得して、こちらで何かお返しをしよう。

 そう真面目に考えている僕の横の席でサニヤは駅弁を食べていた。

 



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