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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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急転直下

 テレビやネットで見たことのあるコスプレの人々とは一線を隠した、明らかに日本人離れした容姿のメイド服の少女を前に、僕は思考停止していた。

 そんな僕を見かねたのか、松田さんがサニヤに、


 「サニヤさん、この国ではその髪色は目立つので視覚阻害をかけるか、俺みたいな色に変化出来ませんか?


 と、言った。

 慌てて僕も頷く。


 「わかった。これでいい?」


 サニヤは、あっという間に髪の色を黒へと変化させた。

 その素早さにも驚いたが、黒髪になったことでより肌の白さを際立たせて輝きをましたことにも驚愕した。

 うかつに繁華街へ行ったらナンパされたりスカウトされたりして面倒なことになりそう。

 それほど、日常から乖離した美少女ぶりだった。

 サニヤでコレなんだから、蒼記さんがこちらに来たらもの凄いことになりそうだな。

 蒼記さんの性別を超えた美少女ぶりを思い出して身震いする。

 あちらでは美形に囲まれることが多くて麻痺しかけていたようだ。

 今の自分の感覚が日本では普通だったはずだ。

 慣れとは非常に恐ろしい。

 松田さんは、サニヤの髪色を確認した後、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。


 「あ、松田です。しょうくん、今、家かな?うん、急で申し訳ないんだけど、今からお客さん連れていくから。前に話した笈川くんとサニヤさん。うん、そう、よろしくー」


 どうやら、家人に僕達の訪問を連絡していたようだ。

 確か、甥っこさんと住んでいると聞いていた。


 「本当に急ですみません」


 申し訳なくなってきて謝った。


 「うん?大丈夫だよ。慣れないうちは色々あるからね。さ、もう少し先だよ」


 松田さんは笑顔でそう言った。

 やはり僕は周囲の大人に甘やかされているなあ。

 能力スキルを試す時はしっかり結果も想定して行動するようにしないと、また同じ失敗をしてしまいそうだ。

 公園から5分程歩いた所に松田さんの家が合った。

 家屋はごくありふれた一軒家。

 僕の住んでいた家よりは少し大きくて、あと庭が広い。車2台止まっているのにまだ余裕がある。

 周囲の家の敷地と比べても、この周辺は少しだけ経済的に余裕のある世帯が多そうだ。


 「どうぞ、あがって」


 松田さんに促されて玄関からリビングへ案内される。

 リビングには、液晶テレビがあった。

 懐かしい。

 子供の頃に比べると確実に薄くなっているけれど、しっかり物質として存在しているテレビを見ると、『ああ、日本だ』と心底感じた。

 木製のローテーブルとソファが置いてあって、壁にはシンプルな丸い時計が飾られておる。

 必要な物しか置いていないという感じで全体的にあっさりしている。

 男の2人暮らしだからだろうか?

 僕の家のリビングには母親がどこからか貰ってきた置物や雑多に物が入ってる棚などがあって少しゴチャゴチャしていた。

 そんな風に思いを馳せていると、松田さんともう1人の男性が茶菓子を運んできた。


 「笈川くん、彼が甥で、同居人のしょうくん」

 「笈川です。急におじゃましてすみません」

 「サニヤです」


 僕が頭を下げながら挨拶をするとサニヤもそれに倣うように頭を下げた。


 「いらっしゃいませ。いつも伯父がお世話になってます。ゆっくりしていってください」


 そう言って微笑んだ承さんは、見た目40代前半くらいだろうか。

 ガッシリした体型の松田さんと並ぶと華奢に見えるけれど、今時の普通によくいる青年に見えた。

 やはり親戚だからなのか、目元辺りは松田さんと似た雰囲気を感じる。


 「まあ、とりあえず暑いから麦茶にしたけど、よかった?」

 「あ、麦茶久しぶりで嬉しいです!」


 松田さんから麦茶を受け取り飲んでみる。

 懐かしい香ばしい味がした。

 あちらの世界にも麦茶に良く似た飲み物はあるけれど、やはり実際に飲むと違うことがよくわかった。

 何もかもが懐かしいと身体が訴えてきた。





 お茶菓子に出されたゼリーを食べた後、どうして日本に来たのかを話した。


 「あー、なるほどねえ。そういえば良さんからそれらしい打診がきてたよ」

 「やっぱり危険な場所なので松田さんがイヤなら無理強いはしたくないな、と思ったので」


 僕がそう言うと、松田さんは笑って、


 「心配してくれたの?大丈夫だよ。良さんは無理な采配はしないから」


 と、僕の頭をポンポンと撫でた。

 松田さんは本当によく頭を撫でてくる。

 優しい手つきで撫でられるのは決して不快ではないけれど、これは女性が相手でもやるのだろうか。

 こんなに気軽に触れられると、松田さんに好意を持っている女性を無駄に期待させてそうだ。

 見た目若く見えても定年過ぎているのだから、女性もそんな対象にはしていないのかな?


 「しかし、冬の巫女姫捜索の場合、戦争用地域はあまり現実的ではないですね。本命は、女帝の国でしょうか?」


 承さんが、僕と同じ疑問を口にした。


 「まー、そうだね。軍人の女性で自己の能力スキルを把握していないなんてことはまずありえないだろうからねえ」


 松田さんも同意する。


 「女帝の国ならありえるんですか?」

 「あそこは閉鎖的だから、役所の健康診断受けてない人も多くいるしね」

 「健康診断?」

 「あー、あちらの世界の人の大部分が、貴族平民関係なく役所の健康診断には定期的に受診することになってるんだよ。肉体的なデータから能力値のデータまで記録されてる。勿論、守秘義務があるから本人と担当医しか閲覧許可はでないけどね」


 僕の疑問を松田さんが説明してくれる。

 つまり、役所の健康診断を受けている人であれば自分の能力スキルを把握出来るし、数値に疑問を感じれば自覚していない能力スキルについて自分でも考える余地があるわけだ。


 「じゃあ、女帝の国に行くべきかなあ」


 僕がそう呟いた時、それまで静かにゼリーを食べていた(6個目だよ)サニヤが、コトリとスプーンを置いてこう言った。


 「冬の巫女姫、みつけた」






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