秋の祭典までに
運動場で柴犬たちと走ったり、補助アイテムをフリスビーにして遊んだりしていて時間を潰していたら侍女のアマリカさんがやってきて、夕食は僕の部屋で食べることになったという伝言を聞いた。
少し早めの夕食になるが、午後6時には良さんと甲斐さんが部屋へ来るらしい。
時計を確認したら、もうすぐ5時だったので部屋に戻って一度シャワーを浴びることにした。
運動場でほこりだらけになったままで食事するわけにもいかないだろう。
手早くシャワーを浴びて髪を乾かす。
そうこうしている間に、食事が運ばれてきた。
しかし、量が多い。
いや、サニヤの分もあるのだから、量が多いのはわかるが、グラスの数も多い。
1、2・・・5?
僕と良さんと甲斐さんとサニヤで4人。
後の1人は誰だろう?
その答えはすぐにわかった。
「マキ、お腹空いた!」
マキちゃんがそういって部屋に飛び込んできたからだ。
「マキ、先に食べたら駄目だよ?」
マキちゃんの後から甲斐さんが部屋に入ってくる。
甲斐さんは、心なしか疲れているような感じがした。
僕と別れてからの仕事が大変だったんだろうか。
しばらくお茶を飲みながら待っていると良さんが来たので食事を開始する。
当たり障りのない世間話をしてあっという間に食事が終了する。
わざわざ部屋で食事をするのだから、きっとこれから何かしらの話があるのだろう。
そんなことを考えながら食後の珈琲を飲んでいたら、良さんが出してきた椅子を見て、
「早速発見したんだね」
と、笑った。
「ええ!重かったけど頑張りました。でも、コンセントが見当たらないんです。あのまま使っても大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫だよ。定期的にメンテナンスはしてるからね。あと半年くらいは使い続けても大丈夫なくらいの余裕はあるよ」
「それなら安心です」
しかし、充電なしで半年稼動し続けれるのか。
どういう構造なんだろう。
「ゲームもいいけど、これからの予定を軽く説明するからちゃんと聞いてね」
そろそろ本題に入るらしい。
「はい」
「もう一月もすれば秋の祭典の準備が始まる。秋の祭典は灰の領地で変更なし。本当なら、その間に黒の領地で未捜索地域を潰していくはずだったんだけど、サニヤさんが調べた分にはこちらには存在しないんだよね?」
「そう言ってました。サニヤ、それで間違いない?」
サニヤは、残っていたパンをマキちゃんと頬張りながら頷く。
「原始種族の捜索ならまず間違いないだろう。だから、予定を変えて3領地以外の場所へ行ってもらおうと思ってる」
「え・・・と、大丈夫でしょうか?」
3領地以外は治安があまりよくないと聞いている。
「私も賛成しかねます」
甲斐さんが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「甲斐は諦め悪いなー。大丈夫だって」
どうやら、甲斐さんの表情に疲労感があったのはこの所為だったようだ。
きっと、ギリギリまで僕を心配して反対してくれていたのだろう。
でも、良さんが一度決めたことを撤回するとは思えない。
それに安全が確保出来ないなら提案してきたりはしないだろう。
これまでの過保護ぶりから考えてもそう思う。
「具体的には、どこへ行くんですか?」
覚悟を決めて聞いてみたら、
「辺境都市はかなり数があるから全部潰すのは容易じゃない。なので、比較的大きいところからと思ってるんだけど、とりあえず2つ選択肢を用意したよ。まずは、どこの所属でもない、戦争用地域。普段、自分達の領地に戻らない軍人達が各拠点で生活しているところ。後は、厳密には魔族なんだけど独立国家として扱われている女性しかいない国。どっっちがいい?」
明るい口調で選択を迫られて困惑する。
単純に考えると戦争用地域は危険すぎて怖い。
けれど、女性しかいない国っていうのも怪しすぎる。
「その、戦争用地域というのは、今、戦争しているんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「いいや。今は正式な国家間戦争は行われてないよ。だから、戦争が行われていると過程した模擬演習が行われているね。訓練は大事だからね」
つまり、各領地合同の軍事演習場のような扱いなのだろうか。
演習ならば、危険は少ないのかもしれない。そんな僕の考えを打ち砕くように、
「笈川君、訓練といっても本物の武器を使ってるからね?」
と、甲斐さんが教えてくれた。
確かに、軍事演習なのだから模擬戦のような緩い雰囲気とは違うのかもしれない。
「じゃあ、その女性だけの国っていうのはどういう感じなんですか?」
そもそも魔族なのに魔王の配下にならずに独立しているという部分が危険信号を感じさせる。
「んー。女帝が治める国だよ。ただ、ものすっごい好戦的。予告なしで国内に入ったら拷問されちゃうくらい」
「ええ・・・」
なにそれ、アマゾネス?
「好戦的なので、現王族の平和な施政方針と対立してしまって、辺境へ移住してしまったんだよ」
ここでも甲斐さんからの注釈が入った。
「どっちも怖いんですけど・・・」
僕の苦情を、良さんはアハハと笑って、
「だよねー」
と、軽く流した。
「選ばないと駄目ですか?っていうか、いずれは両方行くんですよね?」
「そうだねえ、灰の領地でも冬の巫女姫が見つからなければそうなるね」
良さんの言葉にガクリと膝をつきたいような気持ちになる。
実際にはソファーに座っているので背もたれに深く身を沈めるだけにした。
どちらだ。
どちらがマシだ?
そもそも、冬の巫女姫は女性だ。
軍人にも女性はそれなりにいるだろうけれど、確率的には女性だけの国の方がいいのか?
しばらく考えてから、
「ちなみに、同行者はどうなるんですか?」
と、聞いてみた。
「戦争用地域なら、甲斐か松田さん。女帝の国なら良ちゃんの娘をつけるつもりだよ」
良さんからの答えにまたも考え込まされる。
男性が多いだろう戦争用地域なら、甲斐さんか松田さんという僕の中で安心感あふれる同行者。
女帝の国なら、会ったこともない良さんの娘さん。
しかし、何故に危険そうな場所に娘さん・・・。
不思議に思って聞いてみると、
「女帝が男嫌いだからねー。良ちゃんもボコボコ殴られたことあるよ」
と、いう恐ろしい言葉が返ってきた。
どっち・・・どっちが正解なの!?
考えて考えて考え続けた結果、僕は、
「少し時間を下さい」
としか言えなかった。