神魔族の歴史
神魔族がどうして魔力と聖力の両方を持っているのか。
その答えをサニヤならば知っているのではないかと思いついてしまった。
羽を見せる為に神域へ連れて来てくれた水川伯爵にお礼を言って転送陣のある場所へ向かう道中もそれが気になって仕方がなかったが、もしかしたら望まない結果が出るかもしれないので水川伯爵に聞いてみましょうか?とは言えなかった。
何ともいえない気持ちのまま、最後のお礼と別れの挨拶をして僕の夏季休暇は終わった。
「おかえり」
王城側に転送された場所で甲斐さんが出迎えてくれた。
「ただいまです」
「タダイマなのだ!」
「ただいま」
マキちゃんが一番最初に元気良く転送陣の上からピョンっと飛び降りる。
僕は、周囲を良く観察して、ああ、ここは役所だなと理解した。
やはり、国内移動は役所の転送陣を使うようだ。
「真王陛下から、今日はゆっくりしているようにと伝言だよ。夕食は一緒に食べる予定だからそのつもりで」
「あ、はい。わかりました。迎えに来てくれてありがとうございます」
「元気そうで安心したよ。マキは迷惑かけなかったかい?」
「マキ、いつでもイイコ!」
「ええ。サニヤとたくさん遊んでもらえたので助かりました。ね、サニヤ」
僕はサニヤに声をかけた。
「マキさんとたくさん魚を食べたの」
サニヤが嬉しそうに報告する。
この夏季休暇の間に、少しではあるが表情の幅が広がった気がする。
特に、食に関しての話題の時に喜びの表情をすることが増えた。
これは、学習なのか、それとも本来のサニヤらしさなのだろうか。
一度だけしか会っていない同じ原始種族のサミヤさんを思い浮かべても、彼(?)も余り表情が豊かではなかったように思えて参考にはならなかった。
役所を出た後、雑談をしながら王城への道を歩いた。
しかし、この夏季休暇中、ゲーム内で何度も歩いたせいで懐かしさは感じなかった。
王城へ到着すると、甲斐さんも用事があるらしく、『また、夕食で』と言ってマキちゃんを連れてどこかへ去って行った。
僕は自分の部屋へ戻って、柴犬たちと久しぶりの再会を楽しむ。
ひとしきり撫で回した後で、傍らに座っていたサニヤに声をかける。
「ねえ、少し聞いてもいいかな?」
「勿論よ。吹雪は何が知りたいの?」
一瞬の躊躇もなくサニヤがそう答える。
この躊躇のなさが水川伯爵領で確かめることを辞めた原因のひとつでもある。
サニヤは、自分の答えによっては相手がどう感じるかという意識がまったくない。
やはり、原始種族は少し普通の人とは違う感性で生きているのだろう。
僕は、思い切って疑問をぶつけてみる。
「神魔族が、両方の力を持つようになった理由を知っている?」
「ええ。勿論。それについての明確な解答をするべき?」
やはり、知っていたようだ。
僕はゴクリと喉を鳴らした。
どうする?
聞くか?
もし神魔族に伝わってる歴史の方が間違っていた場合、次に彼等に出会った時に表情に出てしまいそうで不安だ。
しかし、態々会いにでもいかなければそうそう再会することもないか?
そう思いなおして覚悟を決める。
「うん。お願い」
僕がそう答えるとサニヤは滔々と話し始めた、
「始まりは神族の女性でした。この世界の安定と波乱を司るその神は、当時繰り広げられていた戦渦の中、あまりの戦いの激化を抑える為に静寂の湖へと降臨した際、魔族の男性と出会い結ばれたのです。そして子を為した後、戦渦の終息と共に神族の住む場所へと帰って行ったのです。そして、残された魔族との間の子供には魔力と聖力、正確には神力が受け継がれたのです」
え?
今、神とか言ってなかった?
神様から神聖な力、聖力を与えられたのではなく、神様と結ばれた結果、力を受け継いだ子孫が出来た?
神様から力を分け与えられることと、神様の血族なことでは意味合いが違ってくる。
何だか色々な情報が一気にきて理解が追いつかないが、これも出来れば人には伝えないほうが良い情報なのは間違いがないだろう。
「サニヤ、これも皆には秘密ね?」
サニヤは無言で頷く。
僕が人前で質問さえしなければサニヤは話さないだろう。
その点では間違いなく安心ではある。
しかし、この世界に存在する神様というのは自由だな。
僕の中の神様のイメージは、居るけれど会えない、干渉してこない存在だ。
しかし、と白の領地で出会った神のことを思い出す。
神が一個人に殺意を抱くとか・・・。
神魔族の先祖に至っては、子供まで作っちゃってるし。
この世界の人に自由人が多いのも、神様のせいでもあるのかもしれない。
出来れば今後、かかわることのない人生を歩みたいものだ。
そう結論して、僕は気持ちを切り替えることにした。
こちらに戻ってきたらしようと思っていたこと、それは、ゲームへ接続すること。
良さんが、部屋にあると言ったのだから、間違いなくあるはずだ。
態々、嘘をつく理由もないだろう。
そのことを知ってから、夏季休暇の間にゲームに接続して王城へ行く度に部屋を探索してコレじゃないか、というものは既に見つけてある。
後は、実際に確かめるだけだ。
時間を確認したら、午後2時過ぎだった。
夕食まではまだ余裕がある、少しくらいならゲームに接続しても平気だろう。
柴犬たちを最後に軽く撫でてから立ち上がる。
部屋の奥にあるほとんど服の入っていないクローゼットを開けると中を確かめて頷く。
あった。
ここに来たばかりの頃、部屋を探索した時にも少し不思議に思ったことを思い出す。
立派なテーブルとソファーがあるのに一人用の大きめの椅子があることを。
その時は、何かの予備だろうとすぐに忘れてしまっていた。
一人用の椅子としてはかなり重量のあるソレを僕は、身体強化の能力を自分に付与して引っ張り出す。
そして、部屋の中でも邪魔にならないような壁側の置くに配置する。
ゲームの中では、重くてクローゼットの中から出せなかったので全貌が確認しきれなかった。
けれど、こうやって部屋の照明の下に出すとはっきりとわかる。
少し見た目が違うけれど、これはゲームセンターにあったものと同じだと。
座る部分などは、価格帯などで多少の違いがあるのだろうけれど、座った時に触れる位置に起動ボタンがちゃんとある。
後は、この椅子の稼動には何が必要なのか、だ。
見たところ外側にはコンセントのような物が見当たらなかった。
バッテリー内臓型なのだろうか。
長い間放置されていたのならば動かない可能性もある。
もし動いても途中で強制終了したらどうなるのかわからないので怖い。
本当はすぐにでも試してみたいけれど、諦めるしかないか。
夕食の時に聞いてみよう。
そう決めて、僕は柴犬たちと運動場に行って時間を潰すことにした。