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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 20

 駄菓子屋へ行ったり、ゲーム内で迷宮ダンジョン攻略を楽しんだり、お菓子作りに励んでいるとあっという間に時間が過ぎていった。

 昨夜、良さんから帰還要請が入ったので午前中アディ達に説明とお別れをしてから王都へ戻る予定だ。

 行きと違って帰りは、水川伯爵邸の中の転送陣を使わせてもらうことになっている、

 僕1人ならば自力で王都まで飛べると思うけれど、異端ディザスターのことを悟られない為にも公共機関を使用する方がいいと思う。

 連さんは、朝食が終わってすぐにお土産用のお菓子の製作に台所に篭ってしまった。

 何だか気をつかってもらって申し訳ない。

 マキちゃんとサニヤはワクワクした顔でその様子を見ていた。

 これはしばらく放っておいても大丈夫だな、とそっと水川伯爵邸を出てゲームセンターへ向かった。

 1週間と少し、ほぼ毎日通った道だ。

 もう地図がなくても迷うことはない。

 何事もなくゲームセンターへ到着し、ゲームを起動する。

 いつもなら王城から始めて武器を借りてから迷宮ダンジョンへ向かうけれど今日は直接入り口へ降りた。

 いつも通り入り口周辺にはたくさんのプレイヤーで賑わっている。

 この賑わいも現実の王都へ戻れば無人になる。

 そう思うと少し寂しい。

 しかし、留守にしていた間、柴犬たちと遊んでやれていないから、その分、たくさん連れていってあげなければ、と思う。

 しばらくすると、4人が現れた。


 「おはよう!」


 声を掛けると、


 「おはよう」

 「あれ、今日は吹雪が先に着いたんだ」

 「おはよー」

 「おは・・よう」


 ナーラは寝不足のようであくびをかみ殺しあがらの挨拶だ。


 「うん、急なんだけど、王都に戻ることになって。これからのことを話そうと思って」


 僕がそう告げると皆はそれぞれ残念そうな顔をして、


 「そっか」

 「夏休み終わっちゃうんだ」

 「仕方ないよね」

 「残念だね」


 口々に感想を言う。


 「今後のことなんだけど、どうしようか?連絡ってどうやって取ればいいのかな?王城へメッセージ送ってもらっていいのかな?」

 「あー、そうなるよね。俺達は念話出来るほど魔力保有量がないから、それしかないか」


 アディが小さなため息をつく。

 自分の魔力保有量を把握していないけれど、僕も出来ないから大丈夫だよ、と心の中で呟く。

 いずれ誰かに教えてもらって練習しよう。

 

 「どうせ、マーカスがもうすぐ王都行くし、その時に私達も便乗しちゃおうかな」

 「あー、それもいいかもな」


 マーカスと王宮専属庭師のお嬢さんとのお見合い話は、ご両親も大変乗り気でサクサクと進んでいるようだ。


 「じゃあ、王都で通信石買って皆で連絡先交換したらいいんじゃないかな?」


 ナーラがポツリと呟いた。


 「ああ!それでいいかもな」

 「お小遣い足りるかな」

 「ラッテは普段から無駄使いし過ぎだよ」


 僕だけ話についていけなくて戸惑う。


 「通信石?」


 聞くと、小さなビー玉くらいの大きさの魔道具で、お互いが登録しあった相手と短い時間なら通話が出来るアイテムのようだ。

 自分の魔力ではなく、魔道具の力なので魔力がなくても使えるけれど5分程度が限界だという。

 しかし、用件だけ伝えるならば5分もあれば充分だ。

 マーカスのお見合いも兼ねて皆が王都に来る時に一緒に購入しに行くことになった。

 急な話で申し訳ないなと思いながら皆と別れの挨拶をして水川伯爵邸へ戻ると、マキちゃんとサニヤは出来上がったお菓子を早速つまみ食いしていた。



 昼食後、すべての荷物をまとめて水川伯爵へ別れを挨拶を済ませる。

 伯爵と渚ちゃんは毎日忙しく出かけていることが多くて夕食の時に少し雑談をするだけで終わってしまった。

 それでも、渚ちゃんはお別れが悲しいのか少し瞳がウルウルしていた。

 僕に妹はいないけれど、可愛らしい幼女を喜ばせたい衝動を感じた。

 今度来る機会があれば、渚ちゃんに何か持ってきてあげよう。

 連さんにも先代冬の巫女姫である霙さんの話を聞かせてもらったり、お菓子のレシピを教えてもらったりとたくさんお世話になった。

 遣り残したことはないはず・・・あ!

 なんだかんだでバタバタして羽を見せてもらっていないことを思い出した。

 目の前の水川伯爵と渚ちゃんに視線を向ける。

 さすがに伯爵や幼い子供に頼むのはずうずうしいだろうか。

 今回は諦めて次の機会にお願いしようか。

 今の今まで忘れていた程度の関心なのだから、是非にというほどの情熱もない。

 そんなことを考えていたら、横からマキちゃんが、


 「オイ!そういえば羽見せてもらったのか?」


 と、絶妙のタイミングで言い始めた。


 「いや・・・すっかり忘れてて・・・」

 「羽ですか?」

 「そう!オマエラの羽、キラキラ!フブキ、みたことない!」

 「ああ、なるほど。そういうことですか」


 マキちゃんの言葉で水川伯爵は頷いて、


 「それなら、せっかくですから神域へまいりましょうか」


 と、僕についてくるように行って歩き始める。

 神域というものがよく理解できないままついていくと、水川伯爵邸から少し離れた場所に円形の建築物が見えてきた。

 教科書で見たことのあるコロッセオのようだ、と思って少しドキっとする。

 まさか、今の今まで穏やかな雰囲気だった水川伯爵まで模擬戦しようと言い出したりするんだろうか。

 羽を見たいなら俺を倒してみろ?ってことになったらどうしようか。

 ドキドキしながら内部に入ると、中央の開けた空間は水没していた。

 いや、もしかしたら元々合った池の周りを建物で囲んだものかもしれない。

 その周辺に神魔族と思われる人々がその背中に美しい羽を生やして飛んだり椅子に腰掛けて談笑したりしていた。

 中院公爵邸で見た俊成さんの鳥を思わせるような立派な羽とは違って、薄いトンボのような形の羽がキラキラと虹色に光っている。数も片側3枚計6枚あるようだ。

 まさに妖精の羽、そう表現するに相応しい幻想的な美しさだった。

 言葉もなく見入っていたら、水川伯爵が神域の説明をしてくれた。


 「ここは我等が一族の神域です。はるか昔、先祖が魔族であった我等に神が聖なる力を与えた場所と言われています。『落ち人』の方は、時々、逆ではないのかと言われる方がいますけれど、本当のことはわかりませんね」

 「逆?」

 「元々は、聖なる力を使う白の民だった者が魔に染まったのではないかと」

 「ああ。なるほど、そういう話がこちらにあります」


 僕は、水川伯爵に答えながら、その時々、余計なことを言っちゃう『落ち人』さんを忌々しく思った。

 神魔族にとってはここは神に聖力を与えられた大切な場所なのだ。

 部外者が余計なことを憶測で口にするのはよくない。

 どうせ、歴史に埋もれた出来事ならば誰も知りようがないのだから。

 

 その時、ふと、サニヤならわかるかもしれない、と思い浮かんだ。



 



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