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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 19

 ハァハァと荒い呼吸が運動場のあちこちから聞こえてくる。

 かくいう僕も深く呼吸をしながら運動場の床に寝転がっている。

 良さんだけは通常通りに立っていて、次に元気なマーカスもさすがに床に座り込んでいる。

 最初は1人ずつ順番に模擬戦を始めて、気が付けば全員で迷宮ダンジョンのモンスターと戦うように良さんに挑んだけれど、結果は悉く敗退した。

 良さんの模擬戦を見たのは始めて王城に来た時だけだったけれど、シノハラさんにあっさりと負けていた印象が強くて自分だけでは勝てなくても全員でやれば勝てるかもしれないと考えたのは甘かったようだ。

 良さんは、強い。

 しかし、それを簡単に投げ飛ばすシノハラさん。

 一体、どうすればそんな高見にまで上り詰めることが出来るのか。

 今更ながらに驚かされる。


 「もう終わりー?」


 頭上からのんびりとした良さんの声が聞こえる。


 「さすがに・・・僕はもう降参します」

 「わたしも・・・」

 「俺も参りました」

 「もう充分です。真王陛下、ありがとうございました」


 アディが、座ったまた頭を下げる。


 「良ちゃんでいいって。アディ君は、真面目だなー」


 そんなことを言われても、こちらの世界の住人は僕のように思い切って名前で呼ぶことは難しいだろうな。


 「えーと、今、皆は7階まで到達したところだっけ?」

 「はい」


 アディが答える。

 7階層は、5階層と同様森林地帯で獣系モンスターが多く存在している。

 ただ、そこにコウモリのような姿をした小さいけれど10匹以上の群れで襲ってくる飛行型モンスターが加わることで戦況が混乱しやすくなって難易度が上がっている。

 現実リアル迷宮ダンジョンで戦った時は、属性獣と火の能力スキルのごり押しで突破した階層だ。

 慎重に戦うとこんなに苦戦するとはわかっていたけれど厳しい。


 「んー。吹雪君は、もうちょっと対人戦に慣れようね。後の皆は、結構前から迷宮ダンジョンで遊んでたでしょ?自分の武器にかなり慣れているし使いこなせてる部分もある。ただ、連携がまだまだだね。特に、ラッテさんは熱くなりやすいから落ち着いて。そうするとアディ君やマーカス君が君を気にかけてる部分を敵に向けられるからね」

 「はい」


 ラッテが素直に頷く。

 自分でもわかってはいるのだろう。

 しかし、性分というものは中々変えられない。

 ラッテがカッと熱くなる前に戦闘を終わらせることが出来ればそれがベストだろう。

 良さんが、それぞれの所へ行って細かい注意点を教え始める。

 お人よしというか、面倒見が良い。

 やはり、良さんが僕に敢えて教えていないアレコレは僕の為を思ってしてくれているのではないだろうか。知りたいと思ったことは自分から聞いていかないと甘やかされたままで終わってしまいそうだ。

 しかし、自分へのアドバイスを反芻する。

 対人戦に慣れるって具体的にどうすればよいのだろう?

 やはり人と戦うしかないよね?

 しかし、上位者との模擬戦は戦いというよりも翻弄されるばかりで終わってしまう。

 甲斐さんが稽古をつけてくれる時は、戦いというよりも基本講習に終始してしまいがちだ。

 同じ位の実力の相手と勝ったり負けたりしながらの方が訓練になる気がする。

 そんな相手と戦う環境ってあるのだろうか?

 考えてみたけれど名案は浮かばなかった。



 その後、いつもより早い時間だけれどお開きになった。

 ナーラだけはまだまだ読み足りないという風だったけれど、他の皆は色々経験しすぎて精神的に疲労したようだ。

 皆と明日の約束をして、良さんにお礼を言ってからログアウトするとまだ午前10時だった。

 ゲームセンターを後にして釣り場にサニヤとマキちゃんを迎えに行く。

 バケツ一杯に釣り上げた魚をお土産に水川伯爵邸へ戻ると初日に出迎えてくれた男性使用人が良さんから荷物が届いていることを伝えてくれた。

 僕はワクワクしながら部屋へ戻ってみると楽器を入れて持ち運ぶシルバーのジェラルミンケースのような箱があった。

 そっと開けてみると布で出来た袋に入れられ中で動かないように固定された刀があった。

 慎重に取り出して袋から出す。

 想像していた以上に刀身が長くて驚く。

 1メートル近くあるだろう。

 大太刀おおたち野太刀のだちに分類されるものだろう。

 拵えは黒が基調で柄と鞘によく目を凝らすと金と薄い桃色で雪の結晶の様な花弁のような優美な柄が描かれている。

 鞘から抜いて刀身を見ると、窓からの陽射しを受けてギラリと強い輝きを示した。

 暫く見とれた後、一旦元通りケースに収納してからケースの隅に入っていたメッセージカードに気付く。

 取り出してみると、


 『 吹雪君へ

  約束の剣を送ります。

  君のことだから後で返却しなきゃ、

  とか考えてると思うけれど、

 国宝ではないので

  心配無用です。

  氷属性の魔石から作られた

雪花せっか】です。

  かわいがってあげてね!』


 良さんの直筆を思われる文字が書かれていた。

 僕の心配はあっさり見抜かれていたようだ。

 本当に、甘やかされているなあ。

 しかし、魔石から作られた武器はそれなりのお値段だったと思うのは気のせいだろうか。

 何か引っかかる。

 やはり、時間のある時にアルクスアに行って相場を確かめておこう。

 メッセージカードもケースの中に元通りに入れて空間収納アイテムボックスへ入れる。

 大切な物だから常に持ち歩こうと思う。

 その後、昼食を食べてから連さんと約束のアイスボックスクッキー製作をした。

 色んな柄を作るためにココアや抹茶、時には果汁などを使って色んな色の生地を用意した。

 犬や猫、花や小鳥など生地を組み合わせている時は本当にかわいく出来上がるのか少し心配になったけれど、切り分けて焼き上げると、どれもそれなりに出来上がってホッとした。

 なんとか1人でも作れそうだ。

 後は、王城に戻った後に自分でも練習してみようと思う。



 その夜、ベットの中でまどろんでいた時に、ふいにアルクスアでのラズリィーの言葉が頭に浮かんだ。



 

 『属性結晶などで作られた魔法アイテムは、微力でも魔力を通せればそれなりに発動するけど、魔石、聖石で作られたアイテムは、異能ギフト相当の能力スキル持ちしか発動出来ないし、その火力は街一つ消し飛ばすほどになるから、基本的には戦争抑止力としての飾りなの』




 異能ギフト相当の能力スキル持ち。

 戦争抑止力になるほどの火力。



 「ってええええ!」


 思わず叫びながら飛び起きた。

 国宝ではないのかもしれないけれど、なんという危険な武器を選んでくれちゃってるの!?

 制御コントロールが出来るようになってきたといっても、緊急事態になった場合、無意識に発動したら危険過ぎる武器だ。

 良さんの意図が全く読めないけれど、雪花は余程のことがない限り封印だ。

 やはり、自分で身の丈に合った武器を購入してこよう。

 そう心に決めて眠りに付いた。





 




 


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