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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 18

 魔王陛下に出会って1人戸惑い不安になっているだろうナーラを心配して足早に書庫にたどり着いた僕達が見たものは、椅子に腰掛けて黙々と本を読んでいる2人の姿だった。

 扉を開けた瞬間、本から目を離して、


 「もう帰る時間?」


 と、聞いてきたナーラに首を横に振って答えると、


 「時間になったら教えて」


 と、言って再び読書に戻ってしまった。

 僕達の心配は杞憂だったようだ。

 邪魔をしないようにそっと扉を閉めて廊下に出る。


 「なんか、普通だったね」

 「魔王陛下より本って・・・」

 「ナーラは昔からそういうヤツだったよ。前も迷宮ダンジョンの中で読み始めて動かなくなったことがあったじゃないか」

 「あー、あったわね」


 ボソボソと皆が呆れ混じりに話す。


 「あははー。高志たかしも本の虫だからねー。案外、仲良くなれるかもね」


 良さんが明るく笑う。

 高志、というのは確か魔王陛下の日本名だったなとぼんやりと思い出す。

 この世界の人の名付けのセンスについては多少物申したいと感じることがある。

 いくら『落ち人』に名乗るための名前であってもイメージというものがある。

 こう・・・魔王らしい感じの名前をつけようと思わなかったのか、と。

 中院公爵家の皆さんの名前は、この世界の中ではわりと身分が高い感じがしてマシな方だろう。


 逸勢はなやりさん。

 俊成としなりさん。

 蒼記そうきさん。

 実篤さねあつさん。


 うん、少し古風だけれど平民っぽさが薄れて良い感じだ。

 しかし、一番高貴な身分の王族の家名を思い出す。


 片岡かたおか


 至って平凡だ。

 日本には結構な数がいそうな苗字だ。

 一体、誰がどういう基準でつけたのだろう。

 不思議で仕方がない。

 そんな割とどうでも良いことを考えている間にナーラが本を読んでいる間、何をするかを皆が話し合っていた。


 「どこでもってわけにはいかないけど、普段、テレビで放映されてる範囲くらいなら大丈夫だよ」


 と、良さんに言われて皆が真剣に話し合い始めた。

 テレビが入っても大丈夫な場所なら一般公開しても良いということなのだろう。

 僕には、どこが良いという判断が付かなかったので良さんの隣に立って皆の結論を待つ。


 「そういえば、昨日気が付いたんですけど、僕、知らない間にこっちの言葉話せてるみたいです」

 「あ、そういえばそうだね。それもサニヤさんの影響なのかな?」

 「どうなんでしょう。謎です」


 良さんにもわからないのであれば、サニヤに聞いてみるしかないか。


 「そういえば、迷宮ダンジョンでは補助アイテム使えないけど、武器どうしてるの?」

 「あ、運動場の練習用の模擬剣を借りてます」

 「あれ刃が削られてて戦いにくくない?」

 「そうなんですよね。さすがに4階からは手こずるようになってきてしまって」


 刃が削られている分、手数か技量で倒すしかない。

 しかし、漫画の主人公じゃあるましし、威力の落ちている武器で簡単にモンスターを倒せるような技など持ち合わせていない。

 僕以外の皆は、それぞれ自分で武器を用意してきている。

 その価値はよくわからないけれど、僕の練習用の剣に比べれば確実に攻撃力が高い。


 「これからもゲームやるんなら一振りあげるよ。ちょっと待ってて」

 「え?あ、はい」


 僕の返事を聞いてたかどうかもわからない間に良さんがどこかへ行ってしまった。

 一振りというからには刀だろうか。

 簡単に貰ってしまっていいのだろうか。

 後で誰かに価値を聞いてみてあまりに高額なモノだったら、時間がある時にアルクスアの百貨店に行って自分の身の丈にあった値段のものを買ってきて返却すればいいか、と考えた。

 領地をまたぐ瞬間移動テレポートが出来たのだからアルクスア程度なら余裕で移動出来るだろう。

 そういえば、蒼記さんから忠告された瞬間移動テレポートの制限について良さんに確認していなかったことを思い出した。

 しかし、皆と一緒のこの状況で聞くわけにもいかない。

 また、機会があれば忘れずに聞かなければ、と強く思った。

 しばらくすると良さんが手ぶらで戻ってきた。

 いぶかしく思っていると耳元に顔を近付けて囁かれた。


 「水川伯爵の家に送っておいたから後で確認してね」

 「はい」


 どうやら現実に戻って送ってくれたようだ。

 確かに、今渡されてもゲーム終了したら手元から消えて元あった場所に戻ってしまう。

 後のお楽しみにしておこう。

 そうこうしているうちに皆の方も意見が纏まったのかこちらにやってきた。


 「どこ見たいか決まったー?」


 良さんの問いかけに皆が頷く。

 代表してアディが一歩前に進んで、


 「はい。もしよろしければ模擬戦をしていただきたいと思います!」

 

 と、力強く言った。

 どこをどうしたらそんな脳筋みたいな結論になるんだ。

 僕の困惑を他所に良さんはあっさりと了承する。


 「いいよー。場所移そうか。ゲーム内なら物理オンリー戦だね。武器あり?」

 「ええと・・・わたしたちは素手の格闘の知識がないので・・・」

 「じゃあ、普段使ってるその武器でいいかな。吹雪君もやるー?」


 ふいにこちらに話を振られる。

 少しだけ逡巡してから、


 「僕は素手の格闘でお願いします」


 まだ剣には自信がないし、最近の鍛錬の成果と、対人の接近戦の経験を積めればいいなと思った。

 シノハラさんと違って良さんなら無茶振りもしてこないだろうという安心感もある。


 「じゃあ、行こうか」


 良さんが歩き始める。

 方向的に普段使ってる運動場だな、と思った。


 「そういえば、良さんって迷宮ダンジョン何階層まで制覇してるんですか?」


 聞いたことがなかったな、と思って質問してみる。


 「良ちゃんはー、えーと、単独なら65階層まで行ったかな?」


 「凄い!」

 「さすが真王陛下だ」


 背後からそんな感嘆の声が聞こえてくる。

 僕も凄いなと思いつつ、


 「連さんが、40階層のモンスターがかわいいって言ってたんですけど、どんなモンスターなんですか?」


 と、質問したら、


 「40階層?かわいい・・・?うーん、あれをかわいいと言っちゃうのか。まあ、格好良くはない。強いて言うなら長いな、と良ちゃんは思う」


 と、物凄く微妙な顔の返答が来た。

 長い、ということは蛇のようなモンスターだろうか。

 爬虫類系ならば、一般的にはかわいいとはいわないだろう。

 連さんは少し特殊な感性をしているのかもしれない。

 そんなことを考えながら運動場への道を歩いた。


 

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