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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 12

 昼食後、僕と連さんは台所でお菓子作りを始めた。

 サニヤとマキちゃんは、食べる係なので部屋で待機中だ。

 おそらくゲームセンターの帰り道に寄った駄菓子屋のお菓子を食べているか、昼寝しているのかのどちらかだろう。


 「吹雪さん、そのくらいで結構ですよ」


 連さんに声を掛けられてハンドミキサーで泡立てていた生クリームの入ったボウルを作業台に置く。

 ボウルの中のクリームをヘラで掬うと最初の液状だった時とは違って確かな手ごたえを感じる。

 料理は科学ってよく言われるけれど、本当に不思議で面白いなと思う。

 そもそも、最初に牛乳遠心分離させて乳脂肪分を濃縮しようと思った人が凄い。

 他にも、河豚とか、普通に焼いただけで食べれなかったものを食べれるように努力した過去の人々に驚愕する。数多の料理への探求と研鑽の結果、僕達は色々な味覚の美味しい食事が出来ている。

 知れば知るほど奥深く面白い、それが料理だ。

 まあ、僕としてはプロの料理人になりたいわけではなくて、自分と周囲の人が美味しく食べられれば良いな、程度なので新しいメニューを開発するつもりはない。

 自分が食べたいなと思うものが作れるようになれれば充分だろう。

 それにしても、と連さんに視線を向ける。

 僕が生クリームと奮闘している間、恐ろしいほどの手際の良さで作業をしていた。

 時折、僕に注釈をくれながらも動きが止まることはなかった。

 あれよという間にクッキーだのスポンジケーキだのが出来上がっていく。


 「次は、冷蔵庫に寝かせておいた生地があるのでそちらを出していただけますか?」

 「はい」


 連さんに言われるがままに僕は働いた。


 「サニヤさんは、少し甘さ控えめな方がお好きなようですから・・・」

 「マキさんは、時田公爵から量を控えるようにと承っておりますから、食べ応えのあるものを・・・」

 「吹雪さんは、食感の軽いモノの方がお好きではないですか?」


 次々と出てくる連さんの言葉に圧倒されるように頷く。

 まだ、一緒に食事した回数も数える程しかないのに良く見ているものだ。

 最後の焼き菓子をオーブンに入れて一息ついている時、ふと言葉がこぼれた。


 「凄いですね」


 お世辞でも何でもなく本心からそう思った。


 「ありがとうございます。これは私の趣味で、皆さんに押し付けている部分もありますから。折角なら少しでもお好みの味にしておこうかなと。もう要らないと言われたら困ってしまいますから」


 そういって苦笑する。


 「え、マキちゃんとか大喜びですよ?連さんのお菓子目当てでココに来ようって言い出したのマキちゃんだし」

 「それはとても光栄ですね。さて、そろそろ焼きあがりそうですね」

 「おー。綺麗に出来てる!」


 僕はオーブンの窓を覗きこんだ。

 主導権は連さんに握られたままだったけれど、自分で型を抜いたり並べたりしたものが上手に焼きあがっているのを見るととてもうれしかった。


 「今日は比較的簡単なものを幾つか作りましたけれど、一人で作ってみたいものはありましたか?」

 「んー。そうですね。クッキーとかカップケーキは1人で作れるようになりたいかな。ホールケーキはお土産にするには持ち運びは不便そうだし」

 「ああ。ラズリィーさんなら、アイスボックスクッキーが良いと思いますよ。見た目も可愛らしくて食感も好みのようですし」


 予告もなく出たラズリィーの名前に僕は大きく目を見開いて口をパクパクしてしまう。

 そんな僕にお構いなしに連さんが冷蔵庫の奥から生地を取り出して作業台に載せる。

 棒状になっている生地を包丁を入れれば、白い生地の中央に可愛らしい花柄が描かれたモノが切り分けらていく。


 「これは焼きあがりも可愛いですからね。他にも工夫次第で色んな柄が作れますよ。明日はこれを作ってみますか?」

 「あ・・・はい。じゃあ、それでお願いします」


 僕は肯定の返事をするのが精一杯で、どうしてラズリィーの名前が出てきたのか追求することは怖くて出来なかった。




 出来上がったお菓子を皆で食べた後、少しだけ昼寝して夕食前に散歩をした。

 夕食は水川伯爵も渚ちゃんも帰宅したので全員で賑やかに食べた。

 その後、お風呂に入って現在は自分の部屋で寝転がっている。

 あっという間に時間は過ぎていく。

 明日は、朝の9時から11時まで2時間、つまりゲーム内時間で2日間迷宮ダンジョン攻略へ行く約束になっている。

 5階層からスタートする案もあったけれど、僕達はまだ出来たばかりのパーティだし、連さんもいないので安全と練習も兼ねて1階から始めることになった。

 その間、サニヤはマキちゃんが一緒に遊んでくれることになった。

 何でも釣りに行くらしい。

 大きな猫とメイド服の美少女が釣りをしている光景を思い浮かべる。

 2人してその場で焼いて食べ始めたりしなければ絵になる光景なのかもしれない。

 しかし、と昼間の連さんの口からラズリィーの名前が出たことを思い出す。

 勿論、僕の交友関係は良さんには筒抜けだということはわかっている。

 けれど、まさか連さんから言われるとは思っていなかったので驚いてしまった。

 よくよく冷静に思い出せば、初日の夕食の時、マキちゃんがサニヤと中院公爵領の湖で釣りをした話をしていた時に松田さんの名前と共に話題に上っていた。

 それでも、ピンポイントで僕がお土産を渡したい相手が彼女だと思った理由はわからない。

 別に、相手は松田さんや蒼記さんであっても良かったはずだ。

 そういえば、ラズリィーにだけお土産を渡すのは蒼記さんに何か言われてしまうかもしれない。

 蒼記さんが婚約について今後どうするつもりなのかわからない現状、迂闊に彼女だけにお土産を渡すのはトラブルの元になりそうだ。

 連さんに、蒼記さんが好きなお菓子のレシピも教えてもらおう、そう決めてから眠りについた。

 



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