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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 10

 迷宮ダンジョン入り口と違ってすっかり人気のなくなってしまった城下町を歩きながら今日の戦闘の反省会をする。


 「そうですね。吹雪さんは、まだ剣に振り回されている感じがしますね。しかし、白虎への剣の投擲は素晴らしかったと思います」

 「槍は大分投げましたからね。無我夢中だったので同じ感じで投げました。成功してよかったです」

 「瞬間的な判断としてはよかったと思いますよ。吹雪さんが追いかけるのがもう少し遅ければ私がそうするつもりでした」


 連さんはそう言って懐から大きな針のような金属の棒を取り出して見せてくれた。

 所謂、暗器といわれるものだろう。

 一体いつのまに懐に入れていたのか。

 もしかしたら、王城から持ち出したものではなく普段から持ち歩いているのかもしれない。


 「僕もそういうの持っていたほうがいいのかな?」

 「人には向き不向きがありますから。25階層突破が目標なのであれば今は剣に慣れることを優先するべきかと。幸い、アディさんの剣の腕前はあの年齢にしては中々のモノです。しばらく勉強させてもらうといいでしょう」

 「はい」


 僕は素直に頷いた。

 実際、短い時間ではあったけれどアディの実力は充分に感じ取れた。

 後は、パーティのまとめ役をしてきたせいか、周囲を冷静に見ていると思う。

 やはり何事も日々の積み上げが大事だ。精進しよう。

 視界に王城が入ってくる。


 「ゲーム終了って、スタートした場所からじゃないと出来ないの?」


 連さんに促されるまま歩いてきたけれど、ふと言葉にして聞いてみた。


 「いいえ。自分で終了の意志を示すか、ゲーム内で死亡若しくは気絶すれば終了になります」

 「へえ。出来れば死にたくはないなあ。痛覚あるんでしょう?」

 「ええ。人によっては2度と武器を持てなくなることもありますね。死に方によって苦痛の幅が大きいですからね」

 「うわぁ」


 少し想像してしまってゾッとする。

 一瞬で死ねればまだ良いけれど、生きたままモンスターに食べられて死んだりしたら悲惨だろうな。


 「まあ、パーティを組んで慎重にやれば早々死ぬことはないですよ」

 「あはは。頑張ります」


 明日からは連さん抜きでゲームすることになっている。

 あまり無謀なことをしないように気をつけよう。

 そんなことを考えていると連さんが立ち止まった。

 王城はまではまだ少しあるのにどうしたのかな、と視線を向けると連さんと視線がバッチリあって慌てて反らした。

 別に悪い事は何もしていないのに目と目が合うと気恥ずかしいのは何故なのだろう。


 「吹雪さん」

 「は、はいっ」


 改まった口調で名前を呼ばれてビクリとする。


 「貴方が我が家に来た目的をお聞きしてもよろしいですか?」


 思いもしない言葉に驚いて連さんの方を見る。

 連さんは、特に変わった様子もなく穏やかに微笑んでいた。


 「目的、ですか?」

 「ええ。真王陛下からは夏季休暇。時田公爵からは、マキさんのお菓子。そう窺ってます。吹雪さんが、夏季休暇に我が家を選んだ理由は何ですか?」


 真っ直ぐに見つめられながら問いかけられて、ああ、この質問をする為にゲーム終了せずに人のいない場所まで来たのだな、と思った。

 連さんがどんな意図でこんな質問をしたのかはわからないけれど、僕も機会があれば話をしようと思っていたのだから丁度良いだろうと思って言葉を選ぶ。


 「そうですね。夏休みをとるだけならどこでもよかったと思います。でも、ここを選んだのは、貴方の

作るお菓子がとても美味しかったから。そして、妖精の羽に興味があったから。一番の理由は・・・、貴方の妹さん。先代冬の巫女姫がどんな人だったのか聞いてみたいと思ったから、です」

 「そうですか」


 連さんは僕の言葉に少しだけ目を伏せて考えた後、


 「やはり、妹のことが気になりますか?」


 と、言った。

 僕にとっては、当代の冬の巫女姫を見つけることが一番の仕事だ。

 その為のヒントになるようなことがあれば知りたいし、昔、先代冬の巫女姫である霙さんに会ったことをしっかり思い出したいというのも嘘偽りない気持ちだ。


 「もしかしたら、良さんから聞いているかもしれないけれど、僕、霙さんと昔会ったことがあると思うんです。だから、気にならないっていうと嘘になります」

 「そうですか。恐らくそうではないかと思っていました。今、ここでお話した後は、我が家で妹の話をしないでいただけるなら何でも答えます」

 「ここで?」

 「ええ。末の妹、渚は、霙のことをほとんどおぼえていません。渚が産まれてすぐ母が亡くなって、姉である霙と母親が彼女の中では混同してしまっているのです。出来れば今はまだ、刺激したくありませんので」


 連さんの言葉に僕は頷く。

 やはり、水川伯爵夫人は亡くなっていたようだ。

 渚ちゃんのような幼い子供を父親が公務に連れまわしているのを聞いて何となくは感じていた。


 「あの、言いたくない話は無理にしなくてもいいです。ただ、どんな人だったのかな、と思っただけなので」


 亡くなった家族の話は、進んでしたい話でもないだろう。

 無理強いするつもりはない。

 連さんは、優しく微笑んで町角のベンチを指差した。


 「立ち話も何ですから座りましょうか」


 そう促されて僕はベンチに座った。

 連さんも、その隣に腰掛ける。


 「特別、話せないようなことは何もないですね。実際のところ、妹はずっと伯父の所で生活していまして、自宅にくることも冬の祭典の前後、年に数日程度しかなかったのですよ」


 伯父というと、アルクスアで警備隊長をしている『落ち人』の立野さんのことだろう。

 しかし、年に数日しか家族の住む家へ戻ってこないというのはどうしてだったのだろう。


 「妹に会ったと言ってましたね?どうですか。僕と妹は余り似ていないでしょう?」

 「雰囲気は似ていると思います。髪の色とかは大分違いますね」


 霙さんの茶髪を思い出す。

 いくら明るめの茶髪に染めたとしても、目の前の連さんの透き通るような金髪とは質が違う。

 肌の色も、白人のような白さの連さんと違って霙さんは標準的な日本人の黄色人種の肌色をしていた。


 「妹は、母親に似たのもあって伯父がどうしても日本で育てると引き取ってしまったのですよ。父は、母をこちらに連れてきた負い目もあるし、妹も伯父に懐いてましたから家族バラバラに生活することになってしまって・・・、私は人に話せるほど、妹のことを良くは知らないのです」


 何だか思っていたよりもヘビーな内容になってきてしまった。

 重い空気を払拭しようと努めて明るく振舞うことにした。


 「それでも、兄弟じゃないですか。率直に、どんな女性ひとだったのか教えてください」

 

 

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