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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 8

 簡単な自己紹介の後、とりあえず3階で連携の練習をすることになった。

 連さんが皆に簡単な戦闘経験を聞いた後で当面の方針を決めた。


 「では、私がモンスターを引き付けます。1匹ならば、アディさんか吹雪さんのどちらかが攻撃を。複数いる場合は、ラッテさんと吹雪さん。アディさんとナーラさんがペアで1匹に。マーカスさんは、皆の動きをよく見て援護をお願いします」


 一番、年長者で到達階層が深い連さんの指示なので皆、素直に頷いた。

 日本でのゲームとは違って魔法ナシの物理攻撃戦になるので必然的に弓以外は全員前衛になる。5階層までのモンスターならば1人でもそれなりに倒せる。複数出現した場合は2人で倒した方が効率がいいと判断したのだろう。

 自らが囮役になることを引き受けてくれたのはやはり実力差だろう。

 あまり楽をして5階層まで突破してしまうと今後、彼等が自分達だけで狩りをする時にモンスターが急に強くなったような感覚がしてしまいそうだ。きっと、連さんはそれをふせぐために自分は攻撃する役から降りたんだろう。

 しばらくするとキノコが跳ねているのに遭遇した。

 僕はアディさんと視線と身振り手振りでどちらが攻撃するのかの確認をする。

 アディさんが、自分がやりたいと拳をつくったので頷く。僕達の意思確認を見た後で連さんがキノコのほうへ駆け出す。キノコは連さんを見つけてピョンピョンと高く跳ねながら胞子を振りまいている。

 アディさんは、剣を構えて慎重にキノコの背後に回りこんで斬り込む。

 さすがに何度もプレイしているからなのか、一撃で倒した。


 「アディ、凄い!」

 「一撃だったよ!」


 ラッテさんが歓声をあげる。


 「俺も吃驚した!こっちに気が付いてなかったから抵抗が少なくて簡単に斬れたよ!」


 アディさんも興奮気味に声をあげながらこちらに戻ってくる。

 その背後から連さんが穏やかに微笑むのが見えた。

 わいわいと賑やかにはしゃぐ少年少女たちを見ていると、ふと、寂しさを覚えた。

 日本にいた時は、特異体質のせいで友人と会話をすることはあっても彼等のように身体を動かす遊びをしてはしゃぐこともほとんどなかった。

 現在は、大人に囲まれて、恵まれているといっていいのか微妙だが持て余すほどの能力スキルもあるから彼等のように無邪気にゲームを楽しめていない自分を感じている。

 勿論、実際の迷宮ダンジョンに比べれば安全な遊びに過ぎないことも理解しているし、自分なりに夏季休暇を満喫しようと思ってはいる。けれど、これは純粋な遊びではなくて今後の生活の為の訓練だという気持ちが少しある。

 周囲の大人が優しいから、余計に早く自立しなきゃと焦っている自分がいる。

 それに今更ながら気が付いて小さく深呼吸した。

 せっかくの夏季休暇なのだ。

 今は、あまり考えずに楽しくやっていこう。

 そう決めて僕もアディさんを称える輪へと向かっていった。





 「ナーラ!左後方からも1匹!」


 弓を構えたマーカスさんの声を聞いてナーラさんが目前の敵を素早く切り裂いて背後からのモンスターの対応に回る。

 僕とラッテさんは、唸り声を上げる白虎が皆の方へ行かないように牽制している。その間に、連さんがひきつけていくれている他の小さな獣系モンスターをアディさんが処理していく。


 「頑張って!もう少しで終わる!」


 マーカスさんが皆に声を掛ける。


 「おう!」

 「こっちも終わるぞ!」

 「早くしてっ!もう危なそうっ」


 僕達は、4階の終盤に差し掛かっていた。

 3階でそれなりに陣形のようなものを形にした後で4階に降りて来た。

 しばらくは、数組のパーティがいたので囲まれても3~4匹だったのだが、さすがに5階近くの深い場所までくると人が減った分、モンスターの出現数も増えて大変な状況になってしまった。

 小さな個体ばかりならば、すべて連さんが注意を引いている間に倒してしまえばよかったのだが、他のモンスターに比べて一際大きな白虎に遭遇してしまい現在の状況になった。

 さすがに白虎と他のモンスターを引きつけておくのは危険が大きい。

 なので、僕とラッテさんが白虎が皆の所へ行かないように立ちはだかって牽制しているのだ。

 こういう状態になると、やはり自分は能力スキルに依存していたのだな、と思い知らされる。

 囲まれ過ぎないように索敵することが出来なければ現状のような圧倒的不利な戦況に簡単に置かれてしまう。柴犬たちも、弱い固体を近付けさせない威圧のようなものを持っていて非常に優秀な相棒だったのだな、とここに来るまでの間に痛感した。

 現実の迷宮ダンジョンでここまで囲まれたことがないので最初は驚いたけれど、悠長に驚いていられる余裕もなく必死で戦った。


 「よしっ!おまたーせっ!」

 「こっちも終わったぞ!」


 アディさんとナーラさんの声が聞こえてくる。

 これで、余分な敵はいなくなった。

 後は目前の白虎を倒せば一息つける。

 僕は、白虎から目を離さずに皆の体制が整うのを待つ。後は、このまま白虎が僕とナーラさんに集中している間に他の皆が攻撃してくれるのを待とう、そう思った瞬間、ラッテさんが棍棒を振り上げて走り出した。


 「ちょっ」


 自分に向かってくるラッテさんに白虎の意識は完全に向いてしまった。

 僕は慌ててラッテさんと追いかける。しかし、思いのほかラッテさんは俊足で距離が縮まらない。

 白虎の目前まで行って棍棒を振り下ろそうとする背中と、その大きく開いたわき腹に爪を叩き込もうとする白虎の姿が見えた。

 このままでは、ラッテさんが危ない。

 瞬間的に僕は、剣を槍を投擲するように投げた。

 ラッテさんを狙う白虎の手に向かって。


 「ギャンッ」


 幸運にも剣は白虎の腕に突き刺さった。

 痛みで怯んだ隙にラッテさんが棍棒を振り下ろす。

 しかし、この階層での一番の難敵である白虎はそう易々と倒れてはくれなかった。すぐさま、次の攻撃をしようとラッテさんに狙いをつけるのが見えた。

 僕は無我夢中で走り寄り、刺さったままの剣を掴んで思い切り引き抜いてそのまま勢いで胴体を斬りつけた。しかし、他のモンスターに比べて強靭な肉体には練習用の模造剣では致命傷に至らない。

 しかし、ここで離脱することは自殺行為だ。

 僕かラッテさんのどちらかは確実に傷を負うことになる。


 「ラッテ!むやみやたらに攻撃しないで!一旦、牽制!」


 再び殴りつけようとするラッテさんに苛立ち混じりに叫んだ。

 ラッテさんは、僕の声を聞いてハッとしたように一瞬止まった後、棍棒を振り下ろさずに構えた。

 それを視界の端に入れて、僕は安堵しながら同じように剣を構えて白虎と少し距離を取る。

 ヒュッと風を切るような音がしてマーカスさんの放った弓が白虎の後ろ足に刺さると同時にアディさんとナーラさんが後方から斬りかかって行くのが見えた。

 ドサリ、と重い肉の塊になった白虎が崩れ落ちていく。


 終わった・・・!


 僕はようやく終わった戦いに深く安堵のため息をついた。


 

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