夏季休暇 7
僕達はのんびりと森林の中を歩く。
危険だと警告があったわりに平和なのは人口密度のせいだろう。
周囲では僕達以外のパーティがモンスターと戦闘をしているのがチラホラ見受けられる。
「人多いですねー」
何気なくもらした感想に、
「一般だとここで頭打ちになるパーティが多いですからね。余程の熟練者パーティでも5層到達するのは稀ですよ」
と、衝撃の情報を聞いた。
確かに4層には白い虎とか熊のような大型獣出始めて能力なしの身体能力だけでは難易度が高いのかもしれない。実際、僕だって柴犬たちの援護を貰って抜けたようなものだった。
だとすれば、そこそこの戦闘が出来る3階層が人気なのも頷ける。
周囲の戦闘に何気なく視線をやると1人の少女が目に止まった。
仲間と思われる少年数名と一緒に胞子キノコを囲んでいる。見た感じ僕と同じくらい、日本なら高校生くらいの年齢のパーティのようだ。
「女の子でもこんなゲームやるんだ」
日本でも女子ゲーマーはそれなりにいた。
あの有名なネコっぽいオトモと一緒に狩りをするゲームをやっている女子ゲーム実況者の動画を見たことが何度かあったなぁ、と懐かしく思い出す。
「むしろ、女性の方が到達階層の平均値は高いですよ?」
「え?」
連さんの言葉に驚く。
「素の身体能力は男性の方が恵まれていることが多いですが、能力は女性の方が高いことが多いですし、性格も女性の方が苛烈な方が多いですからね」
「ええ~」
僕の知っている女性を思い浮かべる。
ラズリィーは、ほわほわだよ?あ、能力は高い。春の巫女姫だし。
侍女のアマリカさん。必要以上の会話をしないので謎多し。王城の中にいるのだからもしかしたら?
茉莉花さん、は、苛烈というよりは幼稚で我がまま。もう少し大人になってから再会したい。
夏の巫女姫、榊原 花梨さん。確か普段は軍人で役職は少尉。なんだか戦闘マニアっぽかった。
あれ・・・?
うーん、確かに一部、当てはまらなくもないのかな。
「勿論、すべての女性がそうではありませんが、姫と王では姫の方が同じ能力でも威力も強いですし、いざという時は女性の方が頼もしいのも事実ですよ」
「母は強し!みたいな感じなのかな」
「そうですね」
なるほどなーと感心しながら先程のパーティへと再び目を向けるとどうやら無事討伐終了したようで仲間達とハイタッチを交わしていた。
いいな、楽しそう。
安全なゲームという状況でならラズリィーと一緒に迷宮へ来てもいいかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
しらばくすると僕達の前にもモンスターが現れる。
キノコと猪だった。
なんとなく僕が猪に向かって剣を構えると連さんは黙ってキノコに向かって走っていった。
ダダダッと勢いつけてこちらに向かってくる猪に慌てずに剣を叩き込む。
こちらは立ち止まったままだったけれど、相手がスピードを出していた分、ダメージがあったようですぐに倒れて動かなくなった。連さんの方をみるとあちらも無事討伐終了のようだ。
ここまで何度か戦闘して、連さんと一緒だとやり易いなと思う場面が何度かあった。
柴犬たちのように声で指示を出さなくてもこちらの思惑を察して行動してくれる。
他の知人のように完全な前衛ではなく、後衛として動くのが連さんの得意とするところなのかもしれない。こちらの動きをよく見てるな、と感心させられることも多かった。
お陰で僕はたまに剣を空振りしても安心して戦ってこられた。
自分が連さんのように年少者と狩りをする状況になったとして、同じようにフォローできるかというと無理だろうな、と思う。
今後、パーティーを組んでの戦闘をすることになった場合を想定して自分の特性をハッキリさせて伸ばしておくべきなのかもしれない。
その後も続いてモンスターに遭遇する。
今の自分に出来る精一杯で剣を振るう。
幾度目かの戦闘の後、やっと途切れたな、と一息ついているとふと視線を感じた。
視線の元を辿ると先程僕が見ていた少年少女のパーティがこちらを見ていた。
相手は僕が気付いたことに気が付くと何事かを話し合った後、全員でこちらに向かってきた。
「あのっ」
近付いてきて最初に声を出したのは少女だった。
間近で見るとやはり同じくらいの年齢に見えた。
明るい栗毛をポニーテールにしてピョコピョコ揺らしている。瞳が大きくて元気が良さそうな感じの印象だった。しかし、何か違和感がある。不思議に思いながら返事をする。
「何か用ですか?」
「この後、下の階に行く予定があるなら一緒に行かせてもらえませんか!お願いしますっ!」
「「「お願いしますっ!!!」」」
少女に唱和するように他の少年も声を上げる。
ようするに、共闘、臨時パーティのお誘いのようだ。
僕は連さんに確認する。
「どうします?」
初めてのゲームプレイなのでルールは把握していない。
判断を丸投げしようと思った。
連さんはアッサリと、
「私は構いませんよ。ただ、時間を忘れて長居してしまわないように5階層へ降りたら終了にしましょうか?」
と、言った。
5階層に降りるまでという条件は恐らく転送陣のことを考慮したのだろう。
一度5階層まで降りてしまえば、現実の迷宮と同じように次回からは5階から開始出来るのだろう。
そうなのだ。
僕は初めて迷宮へ行った時、4階でシノハラさんの裏技で途中退場してしまったが故に後日1階からやりなおしたのだ。シノハラさんにお願いして5階まで連れていってもらっておけばよかったと少しだけ悔やんだ。でも、あの日はそんな余裕もなかったので仕方がない。
連さんが良いというのなら僕も貴重な大人数での戦闘経験にもなるし異論はない。
「僕もそれで構わないです。えっと、僕は吹雪。こちらは連さんです」
僕は少年少女に向かって自己紹介する。
フルネームを名乗らなかったのは、ゲームだから。
ゲームプレイに身分を持ち出す必要はないし、恐らく低層で停滞しているパーティの殆どは貴族ではないだろうと思ったからだ。
貴族ならば魔力保有量も多く、能力持ちも多いだろう。低層で立ち往生するようなことはなさそうだ、となんとなくの判断だ。
僕の自己紹介に彼等も慌てて自己紹介を始める。
棍棒を持つポニーテール少女が、ラッテ。
僕と同じように剣を持っている黒髪の少年が、アディ。
弓を持っている銀髪の少年が、マーカス。
海賊映画で見かける湾曲した刃、カットラス(?)を持っている黒髪のボサボサ頭の少年が、ナーラ。
色んな武器を持ったパーティメンバーになった。
4階層は大型獣系モンスターが大量出現するのだから人数が増えたからといって油断は出来ない。
気を引き締めて頑張りたい。