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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 4

 2日目の朝食は、前日と打って変って簡単なものだった。

 ワンプレートにパン、サラダ、オムレツ。そしてスープカップにオニオンコンソメスープ。

 量も控えめで食べやすかった。

 水川伯爵と渚ちゃんは僕が起きた時にはすでに出かけた後だった。

 まだ7時前だというのに随分と早起きで活動的だ。

 連さんだけは僕達に合わせてくれたようで一緒に朝食を食べた。


 「どこへ行くか決まりましたか?」

 「はい。ゲームセンターへ行ってみようと思ってます」


 ぼくの返事に連さんは一瞬だけ不思議そうな表情をして、


 「そういえば、そのような施設もありましたね」


 と微笑んだ。


 「連さんはゲームセンターで遊んだりしないんですか?」


 見たところ成人している男性が毎日ゲームセンターで遊ぶことはないだろうけれど、幼い頃に遊んだりはしなかったのだろうか。


 「そうですね。私はゲームはあまり。どちらかというと読書をしていることが多いですね」

 「あー。そんな感じしますね」


 本を読んでいる姿がパッと頭に思い描ける程度には彼らしい趣味のような気がした。

 まだ、出会ったばかりだけれど彼がアウトドア派ではないことだけは感じ取っていた。

 ふと、思いつきで、


 「一緒に行ってみますか?」


 と誘ってみた。


 「そうですね。ご一緒させてもらいます」


 意外にも誘いに乗ってきたのに少し驚いたけれど、これで妹さんの話、渚ちゃんではなく霙さんの話を聞くきっかけが出来るかもしれないと思った。

 皆そろってゲームセンターへの道を歩く。

 やはりというか、伯爵家の長男である連さんといるとすれ違う人が全員もれなく此方を見る。そして目礼する。そしてそれが彼にとっての日常であり普通なのだろう、特に気に掛けている風でもない。

 ふと、カルスのことを思い出す。

 杉浦さんや平島さんの前で硬直していたカルス。

 良さんから繋がる人脈はどれも凄いのだということはわかっているけれど、実感が伴わない。

 僕にとっては王や貴族は、漫画やゲームの中の登場人物だ。

 その地位がどのように凄いのかを僕には理解出来ていない。

 この世界の権力者が高圧的でないせいもある。

 それはやはり、僕がこの世界の住人ではないということだろう。

 日本でなら、高校の校長先生相手でもカルスのように緊張してしまうと思う。

 もっとこの世界での生活が普通で自然な状態に感じるようになれば物の見方も今とは違ってくるのだろう。

 ゲームセンターは、3階建てのこじんまりとしたビルだった。

 入り口にはクレーンゲームが置いてあったのですぐにわかった。

 まず、クレーンゲームの景品を見つめる。

 やはり無難に小さなぬいぐるみだった。プレイ金額は、50円。とても良心的なお値段だ。

 店内に入るとまず目に付いたのがアーケードゲームだ。

 ラインナップも定番の格闘、パズル、クイズなど至って普通だ。

 やはり若い世代には人気なのか格闘対戦ゲームのところに僕と近い年代の中高生くらいの少年たちが数人固まって遊んでいる。僕もなんとなくプレイを見学しているとワイワイと騒がしかった少年たちが寡黙になった。不思議に思って彼等の視線を辿ると連さんがサニヤと表のクレーンゲームを眺めている方をみていた。

 無邪気な子供の憩いの場に伯爵家長男が突然現れたのだから仕方がないのかもしれない。

 僕だって学校の先生と外で会うと悪い事をしていなくても何となく居心地が悪い。

 つい誘ってしまったばかりに彼らには申し訳ないことをしてしまった。

 しかし、まさか連さんにもう帰れとも言えないので考えることを放棄することにした。

 なんとなく居心地が悪くて2階へ上がった。

 このフロアはメダルゲームが主流のようだ。

 異世界だというのに何だか普通のゲームセンターだな。

 プリクラがあれば日本のゲームセンターと本当に変わらない。

 微妙に物足りない気持ちで3階にあがると、異様に静かだった。

 下の階はBGMとゲームから出る効果音で小さい声で話すと聞き取れないのではないかと思う程だったのに3階はまったくの無音だった。

 そこに少し大きめの椅子が幾つも並んでいた。

 近付いてみてみると肘掛の部分に端末のようなものがある。それを触って何かをするのだろうけれど、今は自分以外にこのフロアに誰もいないようで実際に座って確かめるしかないようだ。

 しかし、どんな仕掛けなのかわからないのに座る勇気はない。

 ホラー系サウンドを聞かされたら嫌だ。

 店員さんに聞いてみようと周囲を見回してもやはり誰もいない。

 お客さんがいないから下の階で仕事をしているのかもしれない。そう思って2階に下りると丁度、連さんが登ってきたところだった。


 「サニヤとマキちゃんはまだ下ですか?」

 「ええ。お菓子が取れるクレーンゲームを見つけたようでサニヤさんが頑張ってましたよ」

 「あー」


 自分で好きに遊べるようにと少しばかり小銭を持たせておいて正解だったようだ。


 「笈川さんは遊ばないのですか?」

 「全部を見てから決めようと思って見て回ったんだけど、3階によくわからないものがあって。連さんわかりますか?椅子が並んでるだけなんだけど」

 「椅子?」


 見てもらった方が早いだろうと判断して一緒に3階へ行く。

 連さんは椅子の横に立って端末部分を確認して小さく頷く。


 「これは、オンラインゲーム用の端末ですね」

 「オンラインゲーム?」


 つまり、テレビと同じで座って端末を触れば映像が目の前に浮かび上がるようになっているのだろうか。しかし、コントローラーなしでどうやってプレイするのだろう。


 「ええ。しかし、これは地球のオンラインゲームとは少し違います。これに座って仮想現実の世界へと意識をリンクするのですが、その際、プレイヤーの使えるキャラクターは現実の自分自身のみになります。名前も本名で登録されます。ステータスも現実の自分自身のものですね」

 「えーと・・・それってゲームとしてどうなのかな・・・」


 微妙な顔をしている僕に連さんが苦笑する。


 「元々は、仮想空間を使った会議などに使われるために開発されたシステムですからね。戦争が頻発していた時代に各国の王族や議員などが暗殺などを避けて話し合うために用意されたものです。なので、限りなく現実に近い、けれど能力スキルは一切使えない。その環境を生かして魔力保有量は少ない平民や能力スキルが戦闘系ではない者でも自分自身の体力、技量だけで平等に戦えるゲームとして再利用されるようになったのですよ」


 なるほどな、と感心する。

 生まれつきの能力スキルではなく、自分自身の力で戦うというのはこの世界で喧嘩をする時に良いかもしれない、と思った。

 負けても自分の身体でぶつかった結果であれば後で気持ちの整理がつけやすい。

 どうしても勝ちたければ自分自身を鍛えればいいのだ。努力はいつか実を結ぶかもしれない。


 「あの、この仮想世界で戦闘訓練をすることも出来るのかな?」

 「ええ。素の体力については現実で鍛えるほかありませんが、安全に経験を積めるという点では訓練として使えますね。ゲーム終了後にはダメージは残りませんがプレイ中は痛覚もリアルに感じ取れますからね」


 現実のモンスターと戦う場合、一度の失敗で死んでしまうかもしれない。

 しかし、このゲームならば何度でも繰り返してやれば技術という点では学習出来るだろう。

 じっと椅子を見つめていた僕に連さんが、


 「試しに一度やってみますか?」


 と、言ってくれた。

 お言葉に甘えて試してみることにする。

 この最近のトレーニングの成果どのくらいなのか知る良い機会だ。

 


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