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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏季休暇 3

 駄菓子屋さんは、日本の駄菓子屋とは少し違っていた。

 けれど、子供相手の商売なのは同じらしく所狭しと瓶に詰められたキャンディーやラムネ。小さなチョコレートなのが並んでいる。

 どこかでこんな光景を見たな、と少し考えて昔、洋画で見た子供がお菓子を買いに行く場面だと思い出した。商品のラインナップが洋菓子の割合が高いせいと、日本の駄菓子屋につき物のお面や蛸などが飾られていなかったせいもあるのだろう。

 水川さんと一緒の時と、僕達だけで散歩していた時と違ってマキちゃんは話さなくなった。

 それで久々にマキちゃんが普段、猫になるという公爵家の呪いを秘密にする為に猫のフリをしているということを思い出した。

 王城ではたまに僕が疲れるくらいペラペラしゃべるので沈黙されると何か機嫌を損ねたのだろうかとドキッとしてしまう。

 マキちゃんは器用に尻尾で僕にアレを買えと指示を飛ばしてくる。

 サニヤは、チョコレートの並ぶ棚に釘付けだ。

 僕は自分が気になった幾つかのキャンディーとサニヤにチョコレート、マキちゃんの欲しがっているものを手に取ってレジへ行く。

 店番をしていた老婆は、やはり神魔族なのだろう、白髪に近い薄い金髪で青い瞳をしていた。

 黒目黒髪の僕が珍しかったのか、この島へ客人が来るのがめずらしかったのかはわからないけれど幾つかお菓子をオマケしてくれた。

 購入金額は、僕の迷宮ダンジョンで集めた属性石の売却貯金で余裕で足りた。

 そこそこの貯金が出来ていると自負しているので足りないのではという心配はしていなかったけれど、想像していた金額よりも安かったので少し驚いた。

 食品を扱う店で買い物する時もなんとなく安いのではないかと思ったことがあったけれど、日本に居た頃は野菜なんて買う機会がなかったので確信が持てなかったけれど、この世界の食料品関係はやはり日本より安いのだろうと思う。

 農村で栽培している分だけではなく食卓の迷宮ダンジョンという食材調達の場があるのだから当然なのかもしれない。

 駄菓子屋を出て僕達はそれぞれ買ったものを食べながら歩く。

 僕の選んだ見た目では何の味がわからない虹色のキャンディーは口に入れるとふんわりと優しい甘さがしてシュワッとラムネみたいにすぐに溶けてしまった。

 果実の甘味とは違う甘さだったので結局、何の味なのかはよくわからなかった。

 サニヤの食べていたチョコレートを少しだけ分けてもらったけれど、かなりミルク多めの甘いものだった。少し苦めかサッパリしたお茶が飲みたくなった。

 その後ものんびりと歩いて日が傾きかけた頃、水川伯爵邸へと戻った。





 夕食の場で、水川伯爵と会った。

 水川伯爵は、息子の連さんよりも少し色の濃いオレンジに近い髪色をしていた。

 そして、その隣には小さな少女。伯爵と同じような色でクルンと軽くウエーブした髪が肩の辺りまである。10歳くらいだろうか?


 「ようこそ。我が家へ。私が水川 柾士だ。そして、これは娘のなぎさだ。渚、お客様にご挨拶なさい」


 水川伯爵に促されて少女がペコリとお辞儀する。


 「水川 渚です。よろしです」

 「こちらこそ、よろしくです。笈川 吹雪です」

 「サニヤです」

 「マキだぞ!」

 「猫ちゃんがしゃべった!父様とぅさま、猫ちゃんが話してる!」


 渚ちゃんはマキちゃんがしゃべったことが不思議で仕方がないらしくキャッキャッとはしゃいでいる。

 僕も初めてマキちゃんが話したのを聞いた時は驚いたのだから自然な反応だろう。

 楽しそうに笑う渚ちゃんを見ていると、どことなく先代冬の巫女姫、霙さんの面影を感じる。

 姉妹なのだから似ていて当たり前だ。

 しかし、この家でもまた夫人不在だ。

 僕の行く先々で女性が少ないのはどういうことなのだろう。

 そして、相手にも確認しにくい話題でもある。

 もしかしたら、良さんが意図的に選んでいるのだろうか?

 別に、僕は特別マザコンではないので他所の家の奥様と会っても母親を思い出してメソメソしたりはしないと思う。思うだけで実際に母親の面影を感じる人がいると多少は落ち込むかもしれない。

 しかし、そこまで良さんが気を回してくれているだとしたら僕は余程、子供だと思われているということだ。今度、さり気なく良さんに確認してみたい。

 挨拶も済ませたので食事を始めようと水川伯爵が使用人に声を掛けると昼間と同じように順番に皿が配られていく。

 今まで旅先では気楽なメニューだったことが多かった分、昼、夜と続いたコース料理にもしかして滞在中ずっとこんな感じなのだろうか、と一瞬不安になる。

 出来るだけ上品に食べるようにしているけれど、正式なテーブルマナーを知らないので失礼なことをしてしまったらどうしよう。

 そんな僕の不安などお構いなしにマキちゃんは手馴れた仕種で食事を進める。

 いつも思うけれど、猫の手で器用だな。

 僕の食が進んでいないのに気付いた連さんが、


 「テーブルマナーに拘る必要はないですよ?」


 と、声をかけてくれる。

 しかし、その隣で幼い渚ちゃんまでが上品にナイフとフォークを使いこなしているので甘えたことが言っていられない。出来るだけの努力はしよう。

 悪戦苦闘しつつ何とか食事を進めて最後はデザートの時間だ。

 本当にこの世界の人って食後には確実にデザートつけてくるよね。

 知らない間に体重が増加しそうで少し怖い。

 今夜のデザートは生クリームとフルーツたっぷりのパンケーキだった。

 連さんが作ったのではなく厨房の調理人さんが作ったもののようだ。

 幸いにもパンケーキの大きさや量を聞いてくれたので小さめでお願いした。

 パンケーキって普通に一食分くらいのボリュームがあると思う。

 マキちゃんとサニヤ、そして渚ちゃんは大盛りで頼んでいた。

 水川伯爵と連さんは、僕と同じで小さめ。

 自分だけが少なめを頼んだわけじゃなくて良かったと安堵する。

 デザートタイムは、主に渚ちゃんの今日のお出かけについての話を聞いて終わった。

 どうやら父親である水川伯爵と一緒に他の島へ出かけていたらしい。

 パンケーキを食べながら舌足らずな口調で話すから内容はよく理解できなかったけれど非常に楽しかったようだ。親子関係が良好なのは良いことだ。

 そんな風に1日目は終了した。

 自分に割り当てられた部屋へ戻って明日以降に備えて地図を再確認する。

 そういえば、この島以外の周辺の島へ行くことは可能なのだろうか?

 その辺りも確認しておかなければならない。

 良さんから2週間程度ゆっくりしておいで、と言われていて明確な帰還日時を聞いていない。

 急なことで驚いたりしないように7日目以降はいつでも帰還できるような心構えでいようと思う。

 

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