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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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2人きりの夕食

 甲斐さんが言っていた通り、良さんが城に戻ってきたようだった。

 でも、実際に姿を見たわけじゃない。

 ただ、城内の雰囲気で何となく察した。

 昼食を作りに行った時、厨房の王宮料理人たちが昨日よりは確実にピリッとしていたし、城内の衛兵さんや侍女さんもどこか違う雰囲気だったからだ。

 普段、意識して見ていなかったけれど、やはり良さんの影響力というのは大きいようだ。

 戻ってきてすぐには、他の仕事もあるだろうから声はかからないだろうと判断して午後は運動場で柴犬たちと基礎訓練に取り組んだ。

 ある程度、疲労感が出た所で部屋に戻って休憩していると侍女のアマリカさんから『夕食を一緒に』という良さんの伝言を聞いた。

 てっきり他のお客様がいて食堂でという話かと思っていたら、良さん1人で僕の部屋に来ると言う。

 事務的に伝えて去っていったアマリカさんを見送って部屋の扉を閉めた後、僕は頭を抱えて座り込んだ。


 あんな噂がある最中に部屋で2人きりとか!


 アマリカさんが事務的なのは普段通りだけど、逆にそれが不安を煽る。

 侍女仲間と変な妄想していないといいけれど。

 同性婚が認められているこの世界では、日本よりも腐の付く女性が多く存在しそうだ。

 美味しいお菓子の誘惑で薄れ掛けていた気持ちが再燃する。

 夕食の時間まで僕は鬱々とした気持ちで過ごした。




 午後7時。

 夏なのでまだ外は明るい。窓を閉めていなければ明かりをつけなくても大丈夫なくらいだ。

 夕食を食べる時刻としては早いのか遅いのかは個人差があるだろうからなんともいえない。

 僕は自分の部屋のテーブルの上に所狭しと並べられた夕食に目を背けたかった。

 良さんに会いたくない訳じゃない。

 今後の事も含めて色々話すこともある。

 ただ。

 ただ、場所が僕の部屋じゃなければなぁぁぁ。

 気分を紛らわせようと柴犬たちを撫でてモフモフセラピーを実行する。

 モフモフ。

 モフモフ。

 コンコン。

 モフモフ。

 モフモフ。

 コンコーン。

 モフモフ。

 モフモフ。

 黙々とモフっていると急に背後から頭を撫でられた。

 ビクッとして振り返ると良さんが立っていた。


 「ただいまー。何でそんなに真剣に撫で回してたの?寂しんぼうさん?」

 「うわっ!あっ・・・はい。おかえりなさい。これは別に何でもないです・・・」


 現実逃避している間に部屋へ入って来ていたようだ。

 僕は洗面台で手を洗ってソファーに座る。

 良さんはいつもと同じだ。

 大丈夫。

 所詮、無責任な他人の噂話だ。


 「色々話もあるけれど、まずは食事にしよう。ダーリン」


 ガタッ


 僕は思わずソファーに座ったまま後退った。勢いでソファーが少し動いた。

 恐る恐る言葉の真意を確かめようと良さんの方を向いたら困ったような微笑を浮かべていた。


 「やっぱり、テレビみちゃったんだねー。爺から吹雪君の様子がおかしいって連絡来てそうじゃないかと思ってたんだよねー」

 「あ、はい。見ました」


 出来るだけ周囲に悟られないように部屋の外では平静を装っていたつもりだったのにバレバレだったようだ。もしかして、昨日の甲斐さんが久しぶりに僕の所に来たのはこのせいだったのかもしれない。


 「別に良ちゃんが吹雪君にそういう感情を持ってるわけじゃないから安心してね。テレビ局もねー、最近コレって話題がないから暴走しちゃったんだろうねー」


 良さんの口から確かなことを聞けてホッと胸を撫で下ろす。


 「いくら話題がないからって、王族のそういう話題ってアリなんですか?」


 地球ではどうだっただろうか、と考えてみたけれどスキャンダルを取り扱うような週刊誌をそもそも読む機会がなかったのでよくわからなかった。


 「うーん。魔族ウチは基本、お祭り好きが多いからねえ。何でもいいから盛り上がりたいっていうか」


 盛り上がるためならば王家に叱責されることも辞さないというのか。

 なんていうか、この世界の人々は色々と自由過ぎる。

 後ろ向きな性格の人は生き残れないかもしれない。


 「さすがに今回は対象が『落ち人』である吹雪君だし。未成年者を巻き込むのは不謹慎ってことで正式に否定と注意勧告はしたけどね」

 「ええと、それってこの世界の子供だった場合はアリってことなの?」

 「恋愛に年齢とか普通は関係ないからね。ただ、『落ち人』は国賓だから扱いは相手の国の法を考慮することになってるんだよ」

 「へー」


 なんていうか、日本人でよかった?のかな?

 報道も訂正してもらえるなら少しだけ安心だ。

 それでも噂を信じる人が少数はいるかもしれないけれど、良さんがしっかり否定してくれるのなら一部の人のことは気にしないようにしよう。

 多少、ヒソヒソされるくらいは慣れているからね。

 特異体質だったおかけで。


 「さあ、食べよう。良ちゃん、お腹ペコペコだよー」

 「あ、はい。いただきます」





 心の錘が取れたせいか、夕食はとても美味しかったし食も進んだ。

 食後は、僕は珈琲、良さんは白いワインを飲みながら話をした。

 『魔剣クリスタルシュガー』は一旦、返却した。

 辺境都市や小国へ行く時に必要だろうから持っていてもいいと言われたけれど、ずっと持っているのは怖かったので必要な時に再度借りるという形でお願いした。

 迷宮ダンジョン25階層下の情報が載っている書籍に関しては一般書店では取り扱っていないらしい。一般人が日常で必要としない知識に関しては図書館にも置いていないらしい。すべての専門的なことは役所の管理下にあるので必要な人は自ら役所へ行くことになっているらしい。

 役所。

 この世界に来て最初、冒険者組合ギルドみたいなものだろうか、と考えてことがあったけれど強ち間違っていなかったようだ。

 『落ち人』のことも。

 世界中の技術や知識、特許的なものも含めてすべて。

 ついでに医療機関としても役所が数多の部署をまとめて管理しているらしい。

 そうすることで領土が違っても一般人は基本的な公共福祉を平等に受けられるようになっているようだ。勿論、誰でもすべての資料が閲覧できるわけではない。前もって許可証を発行してもらうか、役所で申請手続きをして許可をお願いすることになるおようだ。

 僕が知りたいのは迷宮ダンジョンについての資料なのでその部分の閲覧許可証は後日、良さんから貰えることになった。

 後日、というのは、短いけれど夏季休暇として水川伯爵領へ遊びに行くことになったからだ。

 遊びに行くといっても一応目的はある。

 もちろんお菓子にも非常に興味はあるけれど、その作り手と話がしたいからだ。

 先代冬の巫女姫、立野 霙さんの実のお兄さん。

 彼に会って霙さんのことを聞いてみたいと思っている。

 そうすれば、何か思い出せるかもしれない。

 同行者は、サニヤとマキちゃん。

 安定の食欲コンビだ。

 出来るだけ楽しく過ごしたいと思う。

 

 

 


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