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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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テレビの中の噂話

 僕は慌ててクッキーを拾い上げて口に放りこむ。

 サクサクしたバターの香ばしい食感のクッキーと一緒に必死で言葉をのみ込んだ。


 サニヤ、その質問の仕方だと、僕にそれが出来るって言ってるように思うよ?

 しかし、言葉にして確認するのが怖い。

 そもそも、そんな能力スキル、一体何に使うんだ。

 確か、シノハラさんが、この世界にあるすべての能力スキルが使えるって言っていたけれど、もし僕に使えるのならば、この世界にその能力スキルを所持している人物がいるということだ。

 それって、使い方によってはとても危険な能力スキルなのではないだろうか。

 ひたすら自分にとって都合が良い世界ばかり追い求めて移動し続けたり出来るわけだ。

 人を殺しても殺してない世界に行って、また殺してと繰り返すことも出来る。

 どうしても好意的な使用方法が思い浮かばない僕の心は病んでいるのだろうか。


 「えーと、サニヤは、その能力スキルを持っている人を知ってる?」


 僕に使えるのか?とズバリ聞くのは止めておいた。

 この世界にいる、と言われたらそれが答えだ。

 サニヤはあっさりと、


 「この国の現在の国王がそうよ」


 と、言った。

 現在の国王、というのは・・・・ええと・・・

 ポンッと頭に良さんに良く似た顔をした黒髪の青年が思い浮かんだ。


 「え?本当に?」

 「本当だよ」


 サニヤは何でもないようなことのようにクッキーを食べる。

 何だか知ってはいけないことを知ってしまったような気がする。

 やはりサニヤに迂闊な質問をするのは危険だと再確認させられた。


 「サニヤ、この話は誰かに聞かれても答えちゃ駄目だよ?」


 現魔王陛下が自分の持っている能力スキルを自己認識しているのかもわからない状況で迂闊なことは出来ない。

 サニヤは僕の内心の焦りにはお構いなしで、


 「私は吹雪のモノだから。吹雪の質問にしか答えないよ」


 と微笑んだ。

 僕がこの情報地雷というべき相手と慎重に付き合うしかないようだ。

 一気にドッと疲れたような気がする。




 結局、25階のボスである貝を倒す名案が浮かぶことはなく夜になった。

 考えてばかりいても進まないので、明日の午後は現地で試行錯誤してみることにした。

 貝だから火に弱いという訳でもないのでローテーション通りに柴犬たちからは光の属性獣、灯を連れていくことにしよう。サニヤは、何も言わなくても当然のようについてくる。

 就寝前にテレビをつけて観る。

 テレビ番組は、講義で習ったこの世界の常識の復習になるし大切な情報源でもある。

 番組ラインナップは日本とほとんど変わらない。チャンネル数もBSやケーブルテレビ並みにある。

 ニュース、バラエティ、ドラマや映画、教養番組、アニメもあった。

 この世界は、本当に概ね平和だ。

 国内だけではなく世界規模で平和だ。

 少なくとも国家間戦争は現在行われていないようだ。ただし、3領地以外の辺境や小国では小さな諍いもあるようだ。でも、それは文明社会では避けて通れない道なのかもしれない。

 何気なくニュース番組を観ていたら平島さんが映った。

 白の領地での新しい公共事業の為の会合がどうとかニュースキャスターが話している。

 画面越しに見ると穏やかな微笑みを浮かべて隣のスーツの人と歓談している平島さんは格好良かった。白の領地へ行った時にも思ったけれど、黒の領地の人、特に魔族貴族の人は美形が多い。

 白の領地の平凡なオッサンたちが霞んで見える。

 きっと有権者の女性陣の人気が高いんだろうな、と思った。

 次に良さんの白の領地での訪問先の話題になった。

 どこか知らないけれど大きな建物の前でスーツのオジサンたちと一緒に映っている良さんを見ると『あ、ちゃんと仕事してた』という謎の安堵感に包まれた。

 仕事をしている良さんを見る機会がないせいか、いつも遊んでいるような感覚がある。

 こうやって報道されているところを見ると本当に元魔王様なんだなという実感が湧いてくる。近くにいる時はあまり威厳を感じたりしない。

 テレビの中のコメンテーターが雑談を始めた。


 『このように本日は全日程を終えられた真王陛下ですが、先日、急に予定をキャンセルされて半日程、公の場に姿をお見せにならないことがありましたねー』

 『そうですね』

 『実は、真王陛下には新しい恋の噂がありまして、そのお相手に会いに行かれたのではないかという噂があるんですよー』

 『そうなんですか!』


 ええー!

 そうなんだ!

 そういえば良さんの子供が三桁いるという話を以前に聞いたな、と思い出す。

 1人の女性が三桁も産めるはずがないので、やはり相手の数もそれなりなのだろう。

 でも、僕と一緒に居る時の良さんからはそういうイロコイの気配を感じないのですっかり記憶から飛んでいた。

 テレビ画面に良さんとお相手らしき相手が並んで歩いている画像が映し出される。

 見慣れた背景だ。

 城下町だとすぐにわかった。

 相手はモザイクがかかっている。


 『こちらがお相手の少年ですね。2人で仲睦まじく城下町を歩く姿などが国民に目撃されています』


 ぶっ


 僕は思わず吹き出した。

 どこかでみたことあるはずだよ。

 これ、僕じゃない?

 夏の祭典前に良さんと迷宮ダンジョン25階に行った日の帰り道じゃない!?


 『この少年はどうやら城内で生活をしているようで、もしかしたら婚約間近なんてことも!』

 『ええー!』


 イヤイヤイヤ!

 こっちこそ、ええー!って言いたいよ!?

 僕はとてもこれ以上、テレビを観ていられる気分ではなくなってテレビを消してベッドにダイブした。

 どうしてそんな話になってるんだろう。

 わからない。

 マスコミの報道の信憑性が僕の中ではグッっと下降していった。

 なんだよ!お相手の少年って!

 この世界が同性婚OKなのは、本人たちの自由だとは思うけれども!

 そもそも、僕と良さんでは年齢差も酷い。

 良さんに会ったら是非、否定会見をするようにお願いしよう。そうしよう!

 そう決意を固めた後、ふと、明日の迷宮ダンジョン行きをどうしようか、と少し悩んだ。

 テレビの中のくだらない噂話なんて気にしなければいいのだろうけれど、もし城下で誰かにこの話題で話しかけられた時、どう対処していいのかがわからない。

 バッサリと否定しても信じて貰えなければ意味がないわけで・・・。


 ハッ


 ラズリィーがこの話を聞いて誤解していたらどうしよう。

 知らない城下町の人々よりも仲の良い女の子に『良さんと交際中』だと思われることの方がダメージが大きい。

 想像しただけで、かなり凹んだ。


 やっぱり、明日は城内で大人しくしていよう。


 そう決めて眠って現実逃避することにした。おやすみなさい。


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