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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 16

 翌朝、普通に起きて庭で杉浦さんと鯉に餌をやった後、朝食を食べた。

 今日からは、白の領地で通過していない場所を捜索するつもりだ。

 ルートは、平島さんが地図を持ってきて説明してくれた。


 「出来るだけ最短で捜索するならこのルートでよいと思うのですが、途中、食事はどうしますか?外食がいいですか?」

 「平島ー、俺、昼はカレーが食べたい」


 シノハラさんがちゃっかりリクエストを始める。


 「カレーでしたら、この辺りに良い店があります。笈川君もそれで良いですか?」

 「あ、はい。大丈夫です」


 サクサクと予定が決まっていく。

 こういう事務処理能力の高さをみると、優秀な政治家なのだなと実感する。

 移動も昼食も滞ることなく進み何事もなく1日が終わる。

 広範囲捜索も何度も繰り返しているうちに修練度が上がったのか、かなり広範囲をカバー出来るようになってきている。だから、本当は今日だけで白の領地お8割がたの捜索が終了しているのだけれど、平島さんに余計な情報を与えない方が良いだろうと思って最初にお願いした捜索範囲のままにしてある。

 それでも、完全な計画を立てて行動している分、アルクスアの時よりは格段に早く進んでいる。

 夕方、杉浦さんの家へ戻ってからは、夕食、基礎体力訓練、入浴、就寝の順に過ごした。

 翌日からも同じようにサクサクと捜索を進める。





 「明日ですべて終了しそうですね」

 「そうですね。平島さんのお陰で早く終われそうです」


 終了の目途がついた日の夕食後、今後の予定についての話題になった。


 「残るは灰の領地になりますが、このまま向かうのですか?」

 「いえ、一度戻って良さんと打ち合わせすることになると思います」

 「そうですか」

 「やっと、俺もお守りから解放されるわー」


 シノハラさんが座布団の上で胡坐をかいたまま伸びをする。

 結局、あれから危険なことは何一つ起こらなかった。

 ほとんどが車での移動なので外部との接触が少ないのも理由かも知れない。


 「シノハラさんは、終わったらどうするんですか?自宅に戻るんですか?」


 何気なく聞いてみたら、


 「自宅は特にないぞ?適当にその日暮らしだ」


 という衝撃の答えが返ってきた。


 「生き返ってから自分の家を特別購入したわけでもないしな。息子の家に行ったり観光したりだな」

 「え?暮さんの家にですか?」


 驚いて聞くとシノハラさんは手をパタパタと横に振って、


 「違う違う。他の息子な。洋一郎は絶対家に入れてくれないから」


 と苦笑した。

 頑なに拒絶する暮さんも凄いけれど、それでも全くめげることなく暮さんに構っていくシノハラさんも凄いなと思った。

 しかし、自宅を持たずにその日暮らしとは驚かされた。

 シノハラさんらしいといえばシノハラさんらしいのかもしれない。

 結局、シノハラさんも今後の予定は未定のようだった。

 僕は、一旦落ち着いて色々な情報の整理と、迷宮ダンジョンの攻略の続きかな。

 灰の領地には、サニヤの仲間が住んでいる塔がある。

 サニヤを連れていってもいいか良さんに相談してみようと思っている。

 後、シノハラさんには、結界内での瞬間移動テレポートについて聞いてみたいのだけれど、中々2人きりで落ち着いて話す時間がない。

 蒼記さんの言い方だと、普通は不可能なことなのだろうけれど、僕が中院公爵領から王城へ戻った時、良さんはそれについて何も触れてこなかった。まさか気付いていないはずがないし、異端ディザスターだけが出来ることだとしたら、そのことに対して注意してくれなかった理由も気になる。

 この辺りの疑問がクリアにならない間は、出来るだけ自力で移動するようにした方が無難だろう。

 もうほぼ確実に白の領地に冬の巫女姫はいないと思う。

 残るは灰の領地だけだ。

 秋の祭典より先に灰の領地へ捜索へ行くかどうかは良さんの判断次第ではあるけれど、もしも灰の領地でも見つけられなかった場合はどうすればいいのだろう。

 最初の頃に言われていた通り、僕が代打で祭事をするのだろうか?

 今まで巫女姫と呼ばれる女性だけがやってきたことを男の僕がやっても問題にならないのだろうか?

 祭典は毎回、全世界生中継されているらしいので一般の皆さんが不安に思うかもしれない。

 そんな諸々の不安要素を抱えたまま時間だけが過ぎていった。



 結局、何事もなく最終日になって僕とシノハラさんは王都へ戻ることになった。


 「お世話になりました」


 代表議会議事堂の転送陣の間まで見送りに来てくれた杉浦さんと平島さんにお辞儀をした。

 思い起こせば、杉浦さんとは庭で鯉に餌をやりながら簡単な世間話をした程度で、滞在中、一度も彼は外出しなかった。今日は久しぶりの外出のようだ。

 来た時と同じようにスーツ姿の議員さんたちがいるけれど、皆さん僕よりも杉浦さんの方が気になって仕方がないらしく落ち着きがない。

 どこの誰かもわからない子供よりは、前代表議会議員の杉浦さんに関心があるのは仕方がないことかもしれない。

 時々、平島さんがいつもの微笑みを浮かべながら議員さんたちにチクチクと厭味を炸裂させて怯えさせていた。普段はもう少しオブラードに包んだ感じに牽制してくるのに、余程、主人である杉浦さんにチョッカイを出されたくないらしい。杉浦さんは慣れているのか特別変わった様子はなかった。


 「またいつでも遊びに来てください」

 「はい。是非!」


 最後に杉浦さんと握手を交わした時に、そういえば結局、平島さんの息子さんを紹介してもらえなかったことを思い出した。まあ、そこまで親しくなるということはこちらも平島さんに色々と内情を知られることになるので欲張らないでおこう。

 転送陣が起動して、黒の領地へと舞い戻ってきた。

 見慣れた近衛兵の人達や侍女さんたちが出迎えてくれたけれど良さんの姿はなかった。

 代わりに潟元さんが待っていた。


 「おかえりなさいませ。シノハラ様、笈川様。真王陛下は公務の為、留守にしております。お疲れでしょう。お部屋への方へ軽食を用意しております」

 「ありがとうございます。あ、コレ、どうしましょう?」


 僕は、腰に下げていた『魔剣クリスタルシュガー』を軽く持ち上げて見せた。


 「そちらは真王陛下へ直接お渡しいただきたく存じます」

 「わかりました」


 さすがに宝物殿に入れておくような大切な剣を適当な人に預けるというわけにもいかないだろう。

 潟元さんなら盗難の心配はないと思うけれど、本人に断られたものは仕方ない。良さんに会って直接渡すまではしっかり管理しておこう。

 僕とシノハラさんは、潟元さんに案内されながら食事の用意されている部屋へと歩いて行った。

 

 

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