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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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総合調理師専門学校 3

 僕の名前が呼ばれたのは最後だった。

 マグニット先生は、僕を手招きして、


 「カルス君と一緒に頑張ってたみたいだけど、大丈夫だったかい?」


 と、聞いた。

 学校体験で、あくまでゲストなので心配してくれているようだ。


 「はい。カルス君に牛乳の搾り方を教えてもらいました」

 「そうか。次は調理だよ。グレートビューは狩れたのかな?」


 補助アイテムも輪にして指に戻してしまったので手ぶらに見えるせいか、マグニット先生は少し聞き辛そうにしていた。


 「大丈夫です、えーと7匹狩れました。空間収納アイテムボックスにいれてあります」

 「え?7?7匹?・・・ああ、まあ、平島さんが連絡入れてくるような子だもんな。戦闘経験があるんだね」

 「そんな経験ってほどではないですけど」

 「ははは、謙遜しなくていいよ。キミの年齢で7匹も狩れれば充分に凄いよ。じゃあ、皆の所へ行こうか」


 マグニット先生に背中をパンッと叩かれた。

 プニッっとした弾力を感じて痛くはなかった。

 肉球だろうか。気になる。

 7匹狩れたのは、次々と遭遇出来た運の部分が大きいと思うけれど、褒められたことは素直に喜んでおこうと思う。

 でも、平島さんが連絡入れてくるような子って部分が引っかかる。

 先生、誤解です!

 僕は平島さんとはまだ親しくないですからね!

 あの人と一緒に扱われると何だか悪い子になったような気がしてくるんだよね。

 どうせなら、良さんところの子、とか、松田さんところの子って言われた方がいい。

 そちらの方が屈託がない明るい感じがする。

 なんて、平島さんに失礼極まりないことを考えながら調理実習室へ向かった。





 調理実習と昼食が終了した後、20分程の休憩時間があった。

 採集実習でクラス全員分のグレードビュー狩猟数は10匹。7匹は僕が仕留めた分なので少しばかり驚かれた。カルスは我が事のように『凄かった!』を連呼していた。

 それでも他の植物系の素材は他の学生が圧倒的に多かったのでやはり慣れている学生さんは凄いなと素直に感心した。

 調理実習は、4~5人で組み分けをして取り組んだ。

 まずは、素材であるグレートビューの解体。そして、下ごしらえ、調理して盛り付けまで。

 カルスとは組み分けが違ったけれど同じ組になった人達も親切に色々教えてくれた。

 実際に食べれるようになったのが午後2時過ぎだったので空腹だったことも手伝って料理はとても美味しかった。『これも勉強だよ』と、他の組から一口分の皿が回ってきたのでこちらも同じように渡して食べ比べたりもした。同じレシピで作っているのに微妙に味が違っていたりもした。不思議だ。

 色んな人と料理の話をして、ぜひ入学するといいよ、などと言われたりしている間に20分はあっという間に過ぎた。

 マグニット先生がプリント用紙を持って教室へ戻ってきた。

 4時終了のことを思うと後1時間も時間が残っていないけれど何をするのだろうか。


 「今からプリントを配るぞ。今日の採集実習の反省と料理の反省。食べてみてレシピに対する疑問、提案などがあれば記入するように」


 そう言ってマグニット先生がプリントを配っていった。

 なるほど。今日の復習の時間らしい。

 僕は受け取ったプリントに名前を書いてから、あれ、日本語で書いて読んでもらえるんだっけ?と疑問に思ったが、考えたところで僕がこちらの言葉を書ける訳がないので諦めて書き進めることにした。


 『採集実習は、グレートビューは午前中の授業で習ったことが生かされて無駄な傷を負わせることもなく仕留めることが出来たのでよかったです。モンスターの生態が詳しく知れたことは大変貴重な体験で した。その他の素材に関しては、知識不足による不安があったので今後は植物系素材のことも積極的に 勉強していきたいです。

 調理は、不慣れな解体も一緒の組の方が親切に教えてくれたのでとても勉強になりました。あと、一度に作るのが6人分に設定されていたので今後、ちょっとしたお客様が来た時に作って振舞えるように今後も自主練習をしていきたいです。

 他の組の方の分を試食した時に味の違いを感じました。同じレシピで作ったはずなのに違ってくるのは何故なのかが気になりました。火加減か調味料の誤差でしょうか?基本的には似た味付けで皆さんとても美味しかったですが、ナルニアさんの組から分けてもらった試食分が自分の中では一番美味しく感じました。シチューに深みというか不思議な味わいを感じました。』


 こんなところだろうか。

 新たにレシピに提案をするほどの実力がまだないので感じたままを記入しておいた。

 プリントが回収された後、明日からの授業予定などの説明の時間があって解散になった。

 明日は、加工食品についての授業らしい。加工といっても工場で作るような大規模な保存食ではなくて蒲鉾や豆腐のようなものらしい。それはそれで興味をそそられる。

 本当に、本心からこの学校の生徒になりたいと思った。

 その気持ちと今日のお礼をマグニット先生に告げると『歓迎するよ!』と笑ってくれた。

 気合を入れて冬の巫女姫捜索をしなければならない。

 事務所でもお礼を言って、学校案内の資料を色々貰って校舎を出るとカルスが待っていた。


 「ごめん!おまたせ。カルス、家には晩御飯食べて帰るって連絡した?」

 「大丈夫。俺ん放任主義だから。ふーん、くらいなもんだよ。吹雪、どこ住んでるの?」


 カルスが屈託なく笑うのを見て少しだけ両親のことを思い出した。

 ウチは僕の特異体質のせいで放任主義とは正反対の過干渉気味ではあったけれど、帰宅の連絡を出来る家族がいる日常が懐かしく、そして少し羨ましく思った。

 でも、今の僕には柴犬たちもサニヤもいるしね。一人じゃない。

 気持ちを切り替えて一緒に門の方へ歩き出す。


 「えーと、今は知り合いの家に泊まってるんだ。普段は黒の領地に住んでるよ」

 「へー。学校通うことになったら、こっちに引っ越すの?」

 「そうだね。その方が便利かな?まだ決めてないよ。あ、あれが迎えの車だよ」


 僕は、平島さんの乗った車を見つけて手を振る。

 平島さんが気が付いて車から降りて来た。


 「笈川君、お疲れ様でした。彼が、連絡のあったカルスさんでしょうか?」

 「平島さん、ありがとうございます。そうです、彼がカルスです。カルス、僕のお世話になっている平島さんだよ。カルス?」


 返事がないので振り返るとカルスが目を見開いて兎耳をこれ以上はないほどにペタリと下げて硬直していた。


 「どうしたの?」


 声をかけると、カルスが急に僕の首の後ろに腕を回して顔と顔をぐっと近付けて小声で言った。


 「どうしたのって、あれ、平島副代表議員じゃないか。苗字持ちだから貴族だとは思ってたけど、吹雪、お前何者だよ」


 どうやら、カルスにとっては平島さんはかなり身分の高い人という認識だったようだ。

 副代表議員ってことは、日本でいう副総理大臣?なのかな?

 それは魔族の公爵という地位とどちらが凄いのだろう。

 僕にはイマイチ実感がない。

 とりあえず、カルスにはこう言っておいた。


 「大丈夫。今のところ、優しい人だから」 


 

 


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