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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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食卓の迷宮 3

 僕とカルスはお互いに頷き合ってシノハラさんが決めた初期位置へ行く。

 ビッグポールスは、草を充分に食べ終わったのか、のんびりと寝そべり始めていた。

 僕は手の中の剣をしっかりと握り締める。

 振り下ろした時に確実に肉を斬れるように意識を集中する。

 あれだけの巨体だ。

 一撃で仕留めようと思わずに確実な一撃を倒せるまで何度も繰り返すしかない。

 カルスが、弓に矢を番える。

 その立ち姿は、松田さんほどの安定感はないけれど、僕よりは確実に習熟を感じさせる姿勢だった。


 ヒュッ


 風を切るような音を出して矢がビッグポールスの大腿に刺さる。

 急な敵襲に慌てふためいて立ち上がるビッグポールスは、自分に矢が刺さったこと、矢を放ったのがカルスであることに気が付くともの凄い勢いで走りこんできた。

 猪に似たその姿には小さいけれど鋭い牙が生えている。正面から衝突されたら大怪我をしそうだ。

 カルスは、充分に引き付けしてから素早く避ける。

 避けられるとは思っていなかったのか、ビッグポールスは後ろ足で力強く土を蹴ってカルスを威嚇している。

 確実に、カルスのことしか見えていない。今だ!

 僕は素早く飛び出して渾身の力で斬りつける。

 ザシュッとなんともいえない手ごたえを感じる。

 少し血飛沫が上がった。

 しかし、まだ倒れてはいない。躊躇している時間はない。

 僕は剣を引き抜いて再び振り下ろす。

 何度目だったろうか、必死だったので数えてはいないがビッグポールスは反撃に転じることはなく力尽き倒れた。


 「やったー!やったよ!」


 カルスが喜んでハイタッチをしてくる。

 それに右手でパチンと答えてから安堵のため息をつく。


 「おつかれ。初戦にしては中々の出来だったぞ」


 シノハラさんはのんびりと近付いてくる。

 僕は、戦果を確認してから自分の服についた返り血を見る。

 大量に汚れたわけではないけれど、ちょっと街中を歩くのは出来ないくらいには赤く染み付いている。

 グレートビューの傷は槍の一突きだけなので、マグニット先生に不審に思われるかもしれない。もう1匹グレートビューを見つけて剣で倒す?

 それは少し厳しい。

 グレートビューと接近戦が出来る気がしない。


 「これ、どうしよう」


 僕は、シャツについた赤い染みを指差して2人の顔を見る。


 「それなら大丈夫だよ。食卓の迷宮ダンジョンは退場する時に軽傷や服装の汚れとかを治してくれるから」


 と、カルスが教えてくれた。


 「そうなんだ。それ凄い便利だね」


 さすが迷宮ダンジョン、1階層しかなくても不思議パワーに溢れているようだ。


 「じゃあ、これは夕食分ってことで。カルス、本当に料理してもらってもいいの?」

 「もちろんだよ!自分も一撃入れることが出来た獲物の調理なんて腕がなるよ!」

 「あはは。凄いよね。綺麗に刺さってるよね」


 僕は、ビッグポールスに刺さっているカルスの矢を見た。

 補助アイテムは、集中出来てさえいれば確実に命中するけれど、カルスのは普通の弓だ。確実に命中させられるようになるまでどのくらい修練に励んだのだろう。尊敬に値する。


 「弓だけは、小さい頃からやっていたからね。さー、残り時間で他の素材を集めないとね!」

 「そうだね」


 僕は頷きながらビッグポールスの死体を空間収納アイテムボックスへ放り込んだ。


 「おい、お前ら、牛があっちにいるぞ」


 いつのまにか大きな木の上に上っていたシノハラさんが牛を発見してくれたようだ。


 「ありがとうございます。あ、そういえば、牛乳を入れる入れ物がないや」

 「大丈夫。俺が持ってる」


 カルスが、腰に下げた袋から空の1リットルくらい入りそうな瓶を取り出した。

 牛の傍に行って雌であることを確認してから手早く乳を絞る。

 牛も嫌がる素振りもなく落ち着いている。


 「手馴れてるね」

 「あはは。そりゃ、牛乳を使うレシピは多いからね。最初はおっかなびっくりだったよ」

 「僕も、少しやってみてもいい?」


 僕はカルスに教えて貰いながら、そっと乳を絞った。

 キュッと握ると瓶に牛乳が入っていく。

 牛の体温と弾力を感じる。

 凄い。

 何故だか無性に感激した。

 知識として知っていても、やはり実際に自分の手で牛から牛乳を得るという機会が早々ない。

 こういう勉強なら頑張れそうな気がする。

 やっぱり、自分の興味のある事柄だと素直に吸収出来るのか、学校体験に来てよかったなあ、とシミジミ感じた。

 王城での講義は、面白い時もあるけれど、常識詰め合わせって感じで今日のような感動とか実感が薄い。勿論、この世界で生きていく為に必要な最低限の知識だからしっかり勉強しないいけないことはわかっているけれど、わかっていても身が入らないのは、異世界でも日本でも同じだ。


 「すごい、楽しい」

 「あはは。わかる。この後も楽しいよ。やっぱり自分で集めた素材を調理すると思うと気合が入るよ!」

 「そうだね!美味しく出来上がるといいね!」


 牛乳を適度に搾った後は、その他の素材を探して集める。

 その途中で時折、カルスに今日は使わないけれど定番の素材を教えてもらったりもした。

 王都の迷宮ダンジョンでも何度か見かけたことのある植物が食べられる素材だということがわかったので忘れずに今後に生かしたい。

 そうこうしているうちにあっという間に1時間が経ったようで急に足元に転送陣が浮かび上がった。

 この後は、学校に戻って素材を提出して調理して試食。

 午後からの授業内容は聞いていないのでわからない。

 ただ、午後4時には終了するということがわかっているので平島さんがその頃に迎えに来てくれることになっている。

 カルスがビッグポールスを使った夕食を作ってくれることになったことをどうにかして平島さんに連絡しておきたい。急に来客が増えて不愉快に思ったりしないだろうか。

 あとでシノハラさんに連絡をしてもらえるようにお願いしよう、そんなことを考えているウチに調理師専門学校の転送陣の間へ戻って来ていた。

 直ぐに自分の服装を確認したけれど、カルスの言っていた通り、血の染みは綺麗に消えていた。

 よかった。

 他の学生たちもほとんどが戻ってきているようで、各々、収穫物を持っている。

 グレートビューを狩れた人が何人かいたようで皆がそれぞれの戦果を褒め称えあっている。

 こうやって調理師専門学校生たちは鍛えられて育て上げられて、いずれは王宮調理人たちのような最前線に旅立っていくのかと思うと、感慨深い。


 「皆、揃っているか!?点呼を取るぞ。終わったら調理室へ行って調理を始めるー。まず、アリアナ!」

 「はい!」


 マグニット先生が点呼を取る声と学生の返事が聞こえてきた。

 この後は調理実習だ。

 次回からは1人で作れるようにしっかり覚えて帰りたい。

 

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