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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 14

 僕が決意を新たにし、詩織さんは1日ぶりの食事を摂った後、何事もなかったかのように談笑して過ごす。

 午後4時過ぎくらいに暮さんがお土産を持って詩織さんを迎えにやってきた。

 暮さんは、皆に挨拶をした後、お義理程度にシノハラさんにも挨拶をして、


 「オヤツの時間には少し遅くなりましたけど、これをどうぞ」


 と、平島さんにお土産を手渡した。


 「ありがとうございます。お茶いれてきますね」


 と、平島さんは中身を確認した後、台所へと出て行った。

 さすがに人数が増えたので1人では大変だろうと思って僕も一緒についていった。

 もちろん、大変だろうと思ったのも本当だけれど、少し台所に興味があったのと、あの親子と一緒にいると何かに巻き込まれそうな予感がしたので逃げた部分も少しだけある。

 台所は、聞いていた通りごく普通の台所だった。

 もし平安時代仕様だったら火を熾すのも大変だろう。

 平島さんがコンロにやかんを置いてお湯を沸かす。


 「笈川さん、そこの棚から湯呑みを出して盆に載せてもらえますか?」

 「はい、これですか?」


 僕は言われた通りに棚から湯呑みを出して盆に載せる。

 平島さんは急須とお茶の葉の入っているらしい缶を取り出してきて別の盆に載せた。

 缶を見ると『玄米茶』と書いてあった。

 暮さんのお土産は和菓子の予感がする。

 平島さんが湧き上がったお湯を急須にいれて盆に載せて持つ。僕が湯呑みの載った盆を持って元居た部屋へ戻ると良さんが待ちきれなかったのか、お土産の箱を開けて皆に配っていた。


 「おまたせしました」


 平島さんが急須から注いだお茶を1人1人へ配っていく。

 全員に配り終えて落ちついてお土産のお菓子を見たら最中だった。


 「これも暮さんが作ったんですか?」

 「さすがに今日は近所の和菓子屋で購入してきたよ。急だったからね」


 なるほど、そういわれればそうだ。

 急に呼ばれたのにノンビリお菓子を作っている場合ではなかっただろう。

 杉浦さんの好みに合わせて和菓子にしておいたということだろうか。


 「興味があるなら今度作り方を教えてあげようか?」


 ふいに暮さんがそんなことを言った。

 確かに興味あるけれど、そんなにわかりやすく顔に出ていただろうか、と首を傾げる。


 「明日、調理師専門学校へ見学へ行くんだろう?」


 なるほど、お茶を入れている間にそんな会話がなされたようだ。


 「はい。えっと、最中のこの外側って家でも作れるんですか?」

 「作れるよ。白の領地から戻ったら、良さん、城の台所をお借りしても?」

 「いーよーいーよ。その時は良ちゃん、毒見役するから!」


 良さんが気楽にOKを出してしまう。

 クッキーと違って最中の作り方は想像出来なかったので楽しみではあるけれど、王宮料理人さんたちのピリピリした空気のことも少し思い出してしまった。

 最初に出会った時に振舞ってもらった夕食といい、お土産のお菓子もとても美味しかったし、最中も手作りできてしまうなんて暮さんは本当に多彩だな、と感心する。

 シノハラさんは、マキちゃんと同じで食べることに集中するようで、お昼ご飯の後に雑炊まで食べたのにもう最中がなくなろうとしていた。

 僕も最中を頬張る。

 中の餡子が甘いけれど玄米茶との相性はバッチリだ。


 「暮さん、夕食はどうしますか?」


 平島さんが時計を見て問いかけた。

 つられて僕も時計を見ると5時半になっていた。しかし、夏なので外はまだ明るい。


 「お気遣いありがとうございます。しかし、家に人がいますので夕食までには帰らないといけません」

 「そうですか。真王陛下はどうなさいますか?」

 「残念ながら良ちゃんもしおりんが暮さんと一緒に行くのを見届けたら帰らないと駄目なんだー」

 「わかりました。では、私は夕食の準備がありますので失礼させていただきますね」


 平島さんは軽く目礼をして部屋を出て行った。

 どうやら皆さん忙しいようだ。

 まあ、良さんは元々、白の領地で僕と顔をあわせている暇はないと言っていたところに、今回の事件での呼び出しだ。それも仕事とはいえ大変そうだ。

 その後、少しだけ世間話をした後、暮さんと詩織さん、良さんはそれぞれ帰って行った。

 僕は夕食までの間、庭に出て昼間、シノハラさんに教えて貰った通りに剣を振る。

 今までは闇雲に振り回すだけだったけれど、今回は相手がいることを意識して振るう。

 どこを狙う?

 相手が武器を持っているならば武器を振り落とすために。

 手、胴体、肩、さまざまな部位を想像して振り方を変化させてみる。

 モンスター相手ではなく人を相手にする覚悟はまだ余りない。けれど、日本と違って命のやりとりをする可能性がこの世界は高そうだと感じた。

 何もせずに殺されるのは嫌だ。

 周囲の大切な人達を傷つけられるのも嫌だ。

 だから、覚悟が足りていなくても、いざという時に最低限の抵抗は出来るようになっていたい。

 実際に、攻撃された経験が僕を駆り立てているのかもしれない。

 結局、夕食後も眠くなるまで自主トレーニングを続けた。

 疲労感の中でもそもそと布団へもぐりこみながら、そういえば瞬間移動テレポートの実験をするつもりだったのにしていないな、と思い出した。

 出発前は瞬間移動テレポートでサニヤと柴犬たちの様子を見に行けたら、と考えていたのに色々とあわただしくてすっかり失念していた。

 これから試してみようか、と思ったけれど睡魔が強かったし、疲労感もあったので後日にまわすことにした。王城まで行ったはいいが戻れませんとなると、また良さんに迷惑をかけてしまう。

 長距離移動する時は万全の体調で挑むべきだろう。

 それに、明日は学校体験だ。

 日本とは違うけれど、久しぶりの学校という場所だ。

 楽しみだな。

 もし、体験が面白くて頑張れそうなら、冬の巫女姫捜索終了後に本当に学生になるのもいいな。

 学費ってどのくらいかかるのだろう?

 その辺りの資料も貰っておこう。

 出来れば今年の冬の祭典までには見つけて、来年の春からは独り立ちしたい。

 夏が始まったのだからノンビリかまえていたらすぐ冬になってしまいそうだ。

 僕自身が捜索系の能力スキルの精度を上げるのと、サニヤが万全の状態になるのと、どちらが早いだろう?そもそも、サニヤが完全な状態で活動するにはどのくらいの食事が必要なのだろうか?もっと手っ取り早く食事以外で補給出来たりはしないのだろうか?生命力の譲渡を試してみたいけれど、ラズリィーの時とは比較にならない程、もっていかれそうな気がする。それこそ、命丸ごと。

 それは怖い。他に何か名案があればなぁ・・・。

 布団の中でそんな風に色々なことを考えながら眠りについた。

 

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