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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 13

 昼食後、改めて良さんに僕から昨日の出来事の説明をする。

 あらましは、既に平島さん経由で伝わっているけれど、僕の言葉で聞いておきたいという良さんの意向だ。


 「・・・って感じですね」

 「なるほどねえ。吹雪君は、ここに来るまでその夢が先見だと気付いてなかったのか」

 「そうですね。夢見悪いなって思ってました。何となく普通の夢じゃないのはわかったので、今後は大丈夫だと思います」


 良さんは僕の言葉に頷いて、


 「うん、もしかしたらって思うことがあったら早めに伝えて。避けられないのは仕方ないけれど、心構えや対応は出来るからね」

 「はい」


 今回の事も、シノハラさんに聞いてから少しだけでも自分の中に覚悟が出来ていたことだからよかった。何も知らないでいきなり目の前で住宅が消えていったら僕は何も出来ずにしばらく見守っていたかもしれない。その結果、あの美女が目的を果たしていたかもしれない。

 彼女がどうして詩織さんを狙ったのか、理由を知っていそうなシノハラさんが頑として口を開かないので知りようもないけれど、それでも、どんな理由があっても人が殺されるのは良い気分じゃない。


 「まあ、議員さんたちの牽制用に持たせた魔剣が役に立ったようで何よりだよ」

 「本当に。これがなかったら早い段階で押し負けてたかもしれないです」


 僕の未熟な部分を魔剣が補ってくれたのだろうと思う。

 補助アイテムでは簡単には風を弾き返せなかっただろう。そのくらい緊張していたし動揺していたと思う。何も持たなくても常に一定の実力が出せるようになるのはいつのことだろう。

 昨日の悔しさを思い出して少し唇を噛んだ。


 「まあ、しおりんも無事だったし、吹雪君も元気そうで安心したよ。明日は学校体験行くんだって?」


 少し沈んだ空気を振り払うように良さんが明るく言った。

 僕もいつまでも落ち込んではいられないので笑顔を作って、


 「そうなんです!とても楽しみです。どんなことするんでしょうね」

 「料理の専門学校だっけ?あはは、それはきっと驚くんじゃないかな?」


 良さんは何か含みのある笑い方をした。

 何だろう?

 物凄い大きなモンスターの解体ショーでも行われるんだろうか。


 「俺も保護者枠で見学だけはするけど、昼食持参で良いんだっけ?」

 「ああ、それでしたら、保護者は持参で大丈夫のようですよ。生徒は実習も兼ねて自分で調理する予定のようですね」


 シノハラさんの問いに平島さんが答える。

 昼食は自分で作るのか。

 学校だからグループ作業になるのかな。

 完全に素人の僕が他の生徒の足手まといにならなければいいけれど。

 出来るだけ迷惑をかけないように頑張りたい。

 そんな風に僕が決意を新たにしていると戸口の方でカタリと音がした。

 視線を向けると、黒髪の女性が立っていた。

 破壊と破滅の姫。詩織さんだ。

 改めて見ると思ったよりも大人の女性だった。

 見た目30代前半くらいだろうか。

 僕から見れば大分お姉さんだ。

 肩辺りで綺麗に切り揃えられた黒髪に、シンプルな白いシャツと紺色のスカート。少し古いドラマの女学生さんのようなスタイルだ。

 平島さんがスッと席を立つと側へ寄り添う。


 「眼が覚めましたか。気分は?食事できそうなら用意しますよ?」


 詩織さんは、小さく頷いてから部屋へ入って来て、


 「ご迷惑をおかけしました」


 と深々と頭を下げた。

 平島さんは、杉浦さんに向かって目礼して部屋を出て行く。恐らく食事を用意するためだろう。

 杉浦さんが手招きしながら、


 「おはようございます。こちらへ座ってください」


 と、促した。

 詩織さんがテーブルの出入り口に一番近い場所へ座る。


 「しおりん、おっはー」

 「おはようございます」


 どうにも詩織さんのテンションは低い。

 まあ、殺されかけた後なのだからそれが普通かもしれない。


 「しおりん、彼がしおりんを助けに来たの覚えてる?」


 良さんが僕の方を指差す。

 詩織さんが僕の方へ視線を向けると小さく頷いて微笑んだ。


 「なんとなく。はっきりとは覚えてないけれど、君が来て、それから気絶した?のかな。ありがとう」

 「いえっ。無事でよかったです」

 「詩織さん、どうしてあんなことになったのか説明してもらえますか?」


 杉浦さんが少し固い口調で詩織さんに話しかけた。

 詩織さんは、杉浦さんと良さんを見て、


 「よく、わかりません。ただ、あの女性は私が邪魔だと言っていました。急な事で、動揺してしまってご迷惑をおかけしてすみませんでした」


 と、再び深く頭を下げた。

 丁寧に謝罪する詩織さんを見ていると何だか悲しくなった。

 誰だって急に襲われたら動揺する。

 ただ、能力スキルが人よりも危険なモノだっただけで、彼女自身に悪意があったわけじゃない。僕だって、いや、僕の方が暴走した時、きっと危険な能力スキルを持っているはずだ。

 自分でも把握しきれていないこの状態で、生命の危機を感じたら、絶望したら、もしかしたらこの世界に大ダメージを与えるようなことをしてしまうかもしれない。

 もしそうなって周囲に迷惑をかけたらと思うと怖くなった。

 もしかしたら彼女もそんな気持ちなのかもしれない。


 「気にしない気にしない!でも、危ないから暫くは護衛ってことで暮と一緒に生活してもらうね」


 明るい口調で良さんが言った。


 「不可抗力でしょう。原因は相手側にあるのですから気に病むのはやめなさい」


 杉浦さんが諭すように、でも優しい口調で言った。


 「空腹だから気が滅入るんですよ。さ、食事をお持ちしましたよ」


 戻ってきた平島さんがお盆に載った雑炊を詩織さんの前に置いた。


 「お、美味そうだな。平島、俺も欲しい」


 昼食を食べたばかりなのにシノハラさんがそんなことを言い出す。平島さんは苦笑して再び台所へ向かっていった。


 「おなか空いてるでしょ。暮が来る前に食べちゃおうね!」

 「はい。いただきます」


 詩織さんが行儀良く手を合わせて食事を始める。

 なんだか、胸の辺りがほっこりと暖かく感じる。

 本当に、僕は恵まれている。

 僕の周囲の大人たちは皆優しい。

 詩織さんも、能力スキルの内容は危険そうだけれど、彼女自身は大人しい普通の女性のようだ。

 だからこそ、余計にシノハラさんが神だと言ったあの女性が気になる。

 どうして詩織さんが殺したいほど邪魔なのだろう。

 他人の気持ちなんか正確にわかるはずはないのはわかってる。その上、相手は神だ。僕の想像を超えた何かがあるのは違いないのだろう。

 でも、僕にとっては敵だ。

 たとえ神でも、僕の大切な人達を傷つけるようなことをするのなら、僕は何度でも立ち向かわなければならないだろう。

 詩織さんのことも、傷つけて良いわけがない。

 この世界では、皆、自分のことは自分で決める。自分で責任を持つ。そう聞いてきた。

 だからこそ、僕も覚悟を決めよう。

 他の神様のことはわからない。

 けれど、あの女性は敵だ。

 出来れば再会したくないけれど、次は押し負けないように鍛錬と覚悟をしていよう。

 そう強く思った。

 

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