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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 11

 杉浦さんの家へ着いた後、平島さんに破壊と破滅の姫を預けた。

 急な出来事にも係わらず平島さんはいつものように笑顔を絶やすことはなかった。

 寝殿の庭が見える和室の一角で僕達は座って事の顛末を杉浦さんに話した。


 「そうですか。皆さん無事でなによりです」


 杉浦さんも、特別驚いた風もなく落ち着いている。

 この世界は平和だと思っていたけれど、僕が知らなかっただけで日常的にああいう事件が起こったりしているのだろうか。


 「あの、消えていった家とか、どうなるんですか?」


 僕達は近所の住民が来る前に帰ってきたのでどうなったのか知らないけれど、きっと今頃、家がなくなって驚いているに違いない。


 「大丈夫です。その辺りのことは私が対応します。笈川さんは何も心配しなくて大丈夫ですよ」


 そう言って杉浦さんは、懐から何か端末のような物を出して少し操作してから、


 「これで関係各所に連絡はすみました。笈川さんも、お疲れ様でした。彼女を守っていただいてありがとうございます」


 と深く頭を下げた。


 「いえっ。たまたま何とかなっただけです」


 杉浦さんは頭を上げて僕の目を見て微笑んだ。


 「それでも、立ち向かっていった勇気に感謝します」

 「ありがとうございます」


 真正面から向けられる感謝の言葉に僕は少し恥ずかしくなった。


 「杉浦様、詩織お姉さまは大丈夫でしょうか?」


 今まで黙っていたラズリィーが意を決したように杉浦さんに問いかけた。


 「大丈夫でしょう。何事かあれば優がすぐにこちらに戻ってくるはずですから」

 「よかった」


 ラズリィーが安堵のため息をつく。


 「あの人は詩織さんというの?」

 「ええ。私の数度しかお会いしたことはないけれど、とても素敵な方よ。なのにどうしてあんなことに」


 ラズリィーが悲しそうな顔をする。

 本当に、どうして彼女は狙われたのだろうか。


 「相手は、彼女を殺すと言っていたのですか?」

 「そうだな。はっきりそう言っていたな」


 僕の代わりにシノハラさんが答える。


 「あの、相手の女性はどういった人なんですか?シノハラさんは知っているんですか?」


 あの美女は、シノハラさんを知っているような口調だった。

 シノハラさんは、少しだけ杉浦さんの方へ視線を向けた後、


 「そうだな。まあ、知らない仲じゃない」


 と、言った。


 「僕が巫女姫なのかって聞いたら否定されたけど、あれは一般的な能力スキルで出せる強さなんですか?」


 今まで迷宮ダンジョンで風系の力を使うモンスターと何度かやりあった事があったけれど、あの女性はそのどれよりも強かった。しかし、迷宮ダンジョンのモンスターは一般人には強敵だと聞いていたのだから彼女が一般人だとは僕には思えなかった。

 暫くの沈黙の後、シノハラさんは言いにくそうにしながらも教えてくれた。


 「ここだけの話だ。あれは、神の1柱だ」

 「は?」


 神?

 神様?

 僕が戸惑っていると杉浦さんとラズリィーが次々に質問していく。


 「姫が神に狙われたというのですか?」

 「神に逆らっていいのでしょうか」


 2人の意見に僕も同意だ。

 神様に死んで欲しいと言われるのも驚きだけれど、神様に正面から喧嘩売った僕はどうしたらいいのだろう。

 割と深刻な事態なのに、シノハラさんは落ち着いている。


 「まあ、気にするな。神と言ってもこの世界に干渉する力は持ってない。原始種族と同じ、ただ存在するだけだ。特にあの女はどうでもいい」

 「どうでもいいって・・・危なくないんですか?」


 シノハラさんは、うーんと唸りながら、


 「俺は問題ない。まあ、吹雪も頑張ればなんとかなる。不安なら、詩織は俺か息子が預かってやってもいい。あの女の本当の狙いは詩織じゃないから、俺が確保した後で追い回す可能性は低いだろうけどな」


 杉浦さんは、怪訝そうな表情をしている。

 僕だって不思議だ。


 「詳しく教えてくれないんですか?」


 そう言ってみたけれど、シノハラさんは、


 「話したくない。お前達が知ってもどうしようのないし、意味がない」


 と、言ったきり詳細は教えてくれることはなかった。



 杉浦さんも何度も抗議したけれど、シノハラさんの決意は固く諦めたようだった。

 とりあえず、シノハラさんか暮さんが保護していれば詩織さんは安全だと約束してくれたので、杉浦さんはそこを落としどころにしたようだ。

 現段階、シノハラさんは僕の護衛中なので、急遽、暮さんに連絡を取って保護をお願いすることになった。

 ラズリィーも、今後のことが気になって仕方がなかったようだけれど、夕方には帰っていった。

 蒼記さんと相談して、許可が出ればもう一度様子を見にくるつもりのようだ。

 僕も、色々なことが気になって落ち着かなかったけれど、夕食前に入浴してくるといいよ、と杉浦さんに促されて一旦、自室へ戻った。

 大人たちだけでしたい話があるのかもしれない。

 僕は、言われた通り入浴して夕食の声がかかるのを待ちながら今日のことを反芻していた。

 祭典の前から見ていた先見の夢。

 破壊と破滅の姫。

 シノハラさんが神と言った女性。

 なんとか押さえるだけが精一杯だった自分。

 悔しい。

 強くなりたい。

 色々な感情が渦巻いて苦しい。

 でも、ここで考えていても仕方がない。

 わかっている。

 自分の今、やるべき役目は、冬の巫女姫捜索だ。

 これを忘れてはいけない。

 その合間に、少しづつでも勉強して鍛錬して、そして、いつかシノハラさんに追いつく。

 助けてもらうばかりじゃない。

 自分のことは自分で出来るように。



 夕食後も、詩織さんが目覚めたという話はでなかった。

 今回の件は、良さんにも連絡がいったらしく、明日こちらに良さんが来るらしい。

 僕の学校体験は、幸い明後日で予約していたので明日は良さんに会うことが出来るようだ。

 学校体験については、杉浦さんがとても喜んでくれた。

 自分の領地の学校に興味を持ったことが余程嬉しかったらしい。

 しかし、僕はどこか上の空だった。

 色んな情報が一気に入ってきて飽和しているのかもしれない。

 こういう時は眠って一旦リセットするべきだ、と思って布団に横になって、ふと大勢の人がいるオフィスのような場所で必死に何かを探す夢のことを思い出した。

 バラ園や、消滅の夢と同じで目覚めた後も気になっていた夢だ。

 もしかしたら、近いうちに遭遇するのかもしれない。

 一体、僕は夢の中で何を探していたのだろう。

 思い出せない。

 もう一度、詳しい夢を見れればいいな、そんなことを考えながら眠りについた。

 


 


 

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