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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 9

 ラズリィーが幼い頃に遊んだという公園はあった。

 これといって特徴のない住宅街の中にある小さな公園。

 ブランコと砂場。鉄棒や小さな滑り台もある。


 「懐かしいわ」


 ラズリィーが嬉しそうにブランコに座る。

 僕も隣のブランコに座って揺れてみる。


 「この近くに住んでいたの?」

 「うん。6つくらいまでね」

 「そっか。日本にも似たような公園があるよ」

 「どこも子供を遊ばせる場所は似通ってくるもんだよ」


 シノハラさんは、おもむろに一番高さのある鉄棒にぶら下がって、そのままクルリと回転するのかと思えばグイッと身体を持ち上げて鉄棒の上に立ち上がった。そして、周囲を見渡す。


 「危ないですよ」


 鉄棒の上に立ち上がるなんて怖いことをどうしてやろうと思ったのか。

 シノハラさんは僕の焦りを気に留めることもなく、


 「お前もやるか?」


 と、誘ってくる。


 「やりませんよっ」

 「なんだ、つまらないな」

 「鉄棒はそうやって遊ぶもんじゃないですからね!」


 そんなやりとりをしながら暫く公園で遊んだ跡、僕達は来た道を戻ることにした。

 僕とラズリィーが並んで、その後ろをシノハラさんが着いてきている。


 「もう少しゆっくり出来ればよかったけど、夕方までに戻らなきゃいけないから仕方ないわね」

 「そうだね。僕はしばらく白の領地で捜索してから戻るから、ラズさんとは暫く会えなくなるね」


 アルクスアの時のように一緒にいようよ、と言いたいけれど、彼女は冬の巫女姫で、蒼記さんの婚約者だ。僕の都合で付き合わせるわけにはいかないだろう。言葉をのみ込んだ。

 ラズリィーも少し寂しそうに見えたけれど、優しく微笑んで、


 「秋の祭典ではまた会えるわ。秋は、灰の領地でやるから、神殿へ案内するね。他のお姉さま方にも紹介したいわ」

 「他の巫女姫様かー。茉莉花さんもいるんだよね?」


 我がままお嬢様の茉莉花さんを思い出す。

 黙っていれば大和撫子風少女なのに言動が残念で仕方がない。

 ラズリィーもアルクスアでのことを思い出したのか少しだけ苦笑して、


 「大丈夫よ。他のお姉さまに叱られるのに忙しくて、ふぶきさんと会話する余裕もないと思うわ」

 「ええ?そんなに?」

 「ええ。いつも何かしらで叱られているわ」


 神殿にいる他の巫女姫の皆さんは大変そうだな、と思っていると前方に自動販売機が見えた。

 瞬間、僕は腰に下げている『魔剣クリスタルシュガー』の柄を掴んだ。


 「少し暑いから冷たい飲み物を買おうかな」


 同じく自動販売機に気がついたラズリィーが呟く。

 ここまで来てしまえば流れに逆らうことは出来ない。

 僕は覚悟を決めてポケットから小銭を取り出して、


 「僕が出すよ。何がいい?」


 と、聞いた。

 自分には炭酸飲料を、ラズリィーには紅茶、シノハラさんには珈琲を買ってそれぞれに手渡した。


 「ラズさんは、ここでお茶飲みながら待ってて!」


 僕はそう言って夢で見た方角へ走りだした。

 後ろからラズリィーの困惑した声が聞こえるが振り返っている余裕はない。

 せめて1軒でも消滅する住宅を減らしたい。

 必死で走っていると最初に一軒目の消滅が始まった。

 夢では気がついてから走ったから、先に走り出した分だけ消滅していく住宅と僕の距離は近い。

 走る。

 夢中で走る。

 そして、走った先に、2人の女性の姿を確認する。

 夢と同じように奥側の女性から黒い霧が住宅に伸びていくのが見える。


 「待って!それ止めて!」


 僕は、『魔剣クリスタルシュガー』を引き抜いて能力スキルを発動する。

 そして、買った炭酸飲料の缶を空中に投げてそれを刀身で叩き切る。


 パンッ


 缶が軽快な音を立てて裂ける。

 噴出した炭酸飲料に魔剣の力が反映していくのを感じる。そのまま、破壊と破滅の姫ではない方の女性の足元に向かって出来上がった幾つもの氷の小さな針が突き刺さっていくのを確認しながら、破壊と破滅の姫を庇うように2人の間に割って入る。

 後ろは振り返らないで僕は剣を構えたまま叫ぶ。


 「落ち着いて!能力スキルの発動を抑えてください。そして、貴方!どうして彼女の制御が崩れるようなことをしたんですか!」


 叫んで、目前の女性を改めて見つめる。

 20代くらいの茶髪ロングヘアーの線の細い美しい女性だった。

 蒼記さんみたいに圧倒的な美ではなく、そこにいるのが自然で過不足のない芸術品のような神秘的な美しさだった。

 僕の介入に驚いたようで、足元の氷の針と僕を何度か交互に見つめてから冷ややかに微笑んだ。


 「いきなり乱入してきて、私が悪いと決め付けるのは何故?」


 言葉から怒りは感じられないけれど、不愉快そうではあった。

 当然だろう。

 僕は2人の事情を知らない。

 けれど、


 「喧嘩の理由は知りませんけど!彼女の能力スキルが制御不能になれば危険なことはこの世界の人なら重々承知しているはずでしょう!あんな風に家がなくなったら困る人だっているんです!喧嘩は周囲の迷惑にならない所でするべきでしょう!」


 破壊と破滅の姫は、出来るだけ制御不可能にならないように気を使って生活しているはずだ。

 そうしないと、社会から疎まれ排除対象になることは自分自身が一番知っているはずだ。

 だから、僕は夢を見て、姫のことを知ってから考えていたんだ。

 どんな理由があっても、諌めるべきはもう一人の女性の方だと。

 自分が割って入ることで破壊と破滅の姫が冷静になって制御してくれれば被害は最少で済むと。

 僕の言葉を聞いて、目の前の美貌の女性は、


 「あら、そうね。そういう意味では私が悪いのかしら?」


 と、小首を傾げた。


 「わかってもらえたなら引いてもらえませんか。後日、お2人が冷静な時に平和的解決をお願いしたいです」


 これで納得してもらえるのなら、後は後ろの女性に冷静になってもらうだけだ。

 しかし、


 「イヤよ。平和的解決はないわ。私、その女に死んで欲しいの」


 と呟いてフワリと30cm程、宙に浮かんだ。

 彼女の周囲には中院公爵領で見た風の膜が浮かびあがってくる。

 風の能力者。

 僕は、剣を構えたままで彼女の言葉を反芻する。


 『私、その女に死んで欲しいの』


 こんな白昼堂々と命を狙われたらどんな修行僧でも精神集中乱れるに違いない。

 僕の中で、諌めるべき対象だった女性が完全な敵だと認識された。

 しかし、相手は人だ。

 この世界の法であれば、自衛の為に人を殺しても処罰されることはないだろう。

 ましてや、破壊と破滅の姫を暴走させた相手だ。

 しかし、長い間日本人として生きてきた倫理観が僕を躊躇させる。

 やれるのか?

 女性を斬ることが本当に出来るのか?

 そんな葛藤をしている僕に向かって鋭い風で出来た刃が飛んでくるのが見えた。

 間一髪で避ける。

 迷宮ダンジョンでの経験が無駄にならなくてよかった。

 ホッと息をつく僕をみて美貌の女性が笑った。


 「あら、残念。避けなければ楽に死ねたのに」

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