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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 8

 シノハラさんに将棋で惨敗して昼食を食べて少し経った頃、ラズリィーがやってきた。

 今日はいつも通りの可愛らしいワンピースだ。


 「杉浦様、ご無沙汰しております。これは、蒼記様から言付かってまいりました」


 玄関先で深く礼をした後、包装紙に包まれた何かを杉浦さんに差し出している。


 「そうですか。わざわざありがとうございます。笈川さんを訪ねてこられたのでしょう。どうぞあがってください。私がいると若い方には気詰まりでしょうから部屋の方でゆっくりしていってください。優、部屋の方へお茶を頼みますよ」

 「ええ。かしこまりました。さあ、笈川君、彼女を部屋へ案内してあげてください。私はお茶を用意してきます」


 杉浦さんと平島さんはそれだけ言うと玄関から部屋の奥へ入っていってしまった。

 なんだかあっさり過ぎるくらいあっさりとしているなあ、と思っているとラズリィーが胸元に手を置いてため息をついているのが見えた。


 「どうかしたの?」


 ラズリィーを自分の使わせてもらっている部屋へ案内しながら不思議に思って聞いてみると、


 「とても緊張してたのよ。ねえ、吹雪さん、私変なこと言ってなかった?」

 「ええ?普通に礼儀正しく挨拶してたと思うけど、ラズさんは偉い人に会うことは慣れてるんじゃないの?」


 貴族である蒼記さんの婚約者であり、自身も春の巫女姫という大切な役職についているのだから僕よりも場数を踏んでいると思うのに、それでもやはり緊張するのだとしたら僕は一体何年かかれば堂々とした振る舞いが出来るようになるのだろう。


 「それは、まあそうなんだけど。杉浦様は特別よ。この白の領地では残り少ない純血の白の民だもの。特に代表議員を退かれてからは屋敷からほとんど出てこれらないし、はぁー、緊張したぁ」

 「ふぅーん。純血に白の民かぁ・・・、あれ、じゃあ杉浦さんは天使のエンジェルリング持ってるってこと!?」


 純血の白の民。

 つまり、天使。

 客観的に見て、よくある天使のイメージとは容姿が違うけれど、清廉潔白な性格は確かに天使らしいといえば天使らしいのかもしれない。

 部屋についてラズリィーに座布団を進めて僕も座る。


 「そうよ。さすがに実際に見せてはもらえないけどね」

 「そうなの?貴重だから?」

 「それもあるけれど、生命の根幹でもあるから壊れたら死んでしまうのよ。わたしみたいに血が混じって薄くなっていれば魂の中に刻まれて具現化しないけど、純血の方は見える形で肉体から離れた場所に具現化するから普通は人に見せないものよ」

 「それなら仕方ないか」


 僕は少しだけガッカリしたけれど、うっかり傷つけて杉浦さんの命を脅かすようなことになっても困るので仕方がないと思った。

 しかし、さすが元魔王様なのか、良さんから繋がる人脈は色んな意味で凄い人が多いなと感心する。

 ラズリィーの様子をみていても本当に緊張していたらしい。

 杉浦さんはそれを見越して自分は挨拶だけで自室へ戻っていったのだろう。

 しばらくすると平島さんがお茶とお菓子を持ってきてくれたけれど、すぐに部屋を出て行ってしまった。シノハラさんは、元々『出掛けるなら声をかけてくれ』とだけ言って部屋から出てきてすらいない。

 広い和室で2人きりになって急にドキドキしてきた。

 皆と一緒の時は普通に出来ているのに、2人だとどうして落ち着かない気分になるのだろう。

 ラズリィーが女の子だから?

 それが一番しっくりくる理由かもしれない。

 同級生の女子とだって2人きりになったことはない。

 室内で2人きりで過ごしたことのある女性は母親くらいだ。

 きっと、室内なのが問題なのだろう。

 あまり深く考えるのはやめることにして持ってきてくれたお茶とお菓子を見ると紅茶と団子だった。

 きっと、紅茶なのはラズリィーに配慮した結果なのだろう。

 団子を1つ食べてから、


 「今日、これからどうするの?」


 と、聞いた。

 夢のことがあるから余り出歩きたくないけれど、無理に外出を避けてラズリィーを1人で帰らせることになっても心配で落ち着かなくなるので諦めて自然の流れに従うつもりだ。シノハラさんもついてきてくれるし、消滅する住宅の住民さんには申し訳ないけれど、誰かが死ぬわけではないのだから無理に避けて未来が変化して被害が大きくなるよりはいい。

 先見は、余程のことがないと外れないらしいので僕が嫌がっても外出する運命になるのなら従って最善手をつくしたい。


 「夕方には家へ戻るように蒼記様から言われてるから、あまり遠くには行けないわ」

 「そっか。この近くに何かあるか知ってる?」


 ラズリィーは座布団の上にチョコンと可愛らしく座って紅茶を飲んでいる。

 僕の質問に小首を傾げて考え込む仕種も可愛い。


 「そうねぇ。この住宅街は観光地じゃないものね、私が小さい頃遊んだ小さな公園があるくらいかな?」

 「ラズさんも小さい頃はこの辺りに住んでいたの?」

 「うん。もっと端っこの方の小さな家だけどね。懐かしいわ」


 ラズリィーが微笑む。

 そういえば、彼女から両親の話を聞かないけれどどうしているのだろうか。

 しかし、不用意に聞けない話題でもある。


 「公園、見にいってみる?」

 「え?もしかしたらなくなってるかもしれないわよ?」

 「それでも、見てみたいな。ラズさんが小さい頃に遊んでいた場所」


 僕がそういうとラズリィーは嬉しそうなでも泣きそうな瞳で唇を少し噛んだ。


 「ありがとう。うれしいわ。でも、本当にいいの?特別なんでもない場所なのよ?」

 「いいよ。だって、僕はこの世界の人が小さい頃どんな遊びをするのかも知らないもの。ラズさんが教えてくれるでしょ?」

 

 嬉しそうなラズリィーを見つめながら、胸の中が温かい気持ちで少し満たされたけれた。

 しかし、冷静な一部分でやっぱり住宅街には行くようになるのだな、と思った。

 せめて、ラズリィーに怪我をさせないように警戒はしておこう。

 チラリと時計を見ると午後1時半過ぎだった。


 「歩いてどこくらいかな?」

 「そうねえ。この屋敷の敷地を抜けるのだけ車を使わせてもらえば、後は1時間程度かな。小路を歩けば車も走っていないから真っ直ぐに突き抜ければ速く着くわよ」

 「なら夕方までには間に合うね。敷地の外までは車をお願いしようか。さすがに庭広すぎるよね」

 「そうね。話には聞いていたけれど、これほどとは思っていなかったから来るとき吃驚しちゃったわ」

 「僕もだよ」


 この世界の住人のラズリィーでも驚くのだから、やはりこの屋敷が非常識なのだろう。

 寝殿造り再現のためとはいえど、杉浦さんの情熱は凄いなと改めて思った。

 普段、自分を律した生活をしている分、趣味は全力投球なのだろうか。

 そんなことを思いながらシノハラさんに声をかけるために立ち上がった。

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