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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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白の領地 7

 朝食は、完全に和食だった。

 白いご飯、焼き魚、卵焼きに味噌汁。

 そして、何より目を引いたのが、梅干。

 今まで、他のメニューはたまに王城でも食卓に上ることがあった。

 おそらく、僕のために敢えて和食をメニューに取り入れてくれているのだと思う。

 微妙に素材が違うのでよく似た何か、だったけれど。

 しかし、平島さんが作った朝食は完全に、本当の意味で和食だった。

 魚も僕が良く知っている鯖だ。

 この世界の少しカラフルな魚ではなかった。主食として利用されないだけで鯖もこの世界に存在しているのだろうか。

 しかし、一番気になることを質問する。


 「あの、梅干ってどこかで売っているんですか?」


 お漬物は、それっぽい物を何度か食べた。

 少し色合いが違うけれど沢庵っぽいものが多かった。

 目の前の梅干は、どこから見ても梅干だ。

 平島さんはいつものように微笑みながら、


 「いいえ。これは日本から購入してきました」


 と、言った。


 「え?」

 「この世界で完全な和食を作るのは少々無理がありますから。日本へ行って私が購入してきました」


 聞き返した僕により詳細を教えてくれる。

 購入してきた?

 平島さんが?

 日本へ行って?

 僕は目の前でご飯をよそう平島さんを見つめた。


 「その・・・平島さんの髪の色だと目立ちませんか?」


 平島さんの鮮やかな緑色の髪は、いくらサブカルチャーが浸透してきている日本でも少々目立つのではないかと思う。少なくとも、イベント会場ではない、日常のスーパーに存在していい雰囲気ではない。

 そんな僕の戸惑いを感じ取ったのか、


 「勿論、仮初の姿で行きますよ。目立つのは本意ではありませんからね」


 と、言った。

 行き来出来るとは聞いていたけれど、まさか主人の和食のために魔族の貴族様が日本で買い物をしていたなんて想像もしていなかった。

 本当に色んな意味で自由過ぎるな、この世界。



 朝食後、平島さんに白の領地の観光ガイドを貰ったので部屋で読む。

 しかし、さすがお堅い国民性の白の領地、どこを見ても社会科見学のような場所ばかりだった。

 遊園地とかがあればいいのに。

 どこに興味を持てばいいのかわからずにペラペラとページを捲り続ける。

 山の多かった黒の領地と違って白の領地は平地部分が多いようで自然観光のような場所も見当たらない。

 一番多い施設は学校だろうか?

 色んな目的で設立された学校名が並んでいる。

 常時生徒募集中で校内見学を受け入れている学校がガイドにたくさん載っていた。

 お堅い職業を目指す学校が多い中で僕が興味をひかれたのは調理師専門学校だった。

 専門的な学校で学べばプロ級とまではいかなくても自分と柴犬たちとサニヤの分くらいはパパパッと作れるようになるだろうか。

 どうやら見学コースと体験コースがある。

 どちらも1日限り、無料だ。

 僕はガイドブックを持ってシノハラさんの部屋の障子の前まで行く。


 「シノハラさーん」

 「おう、入れよ」


 返事があったので障子を開けるとシノハラさんが1人で将棋盤の前に座っていた。

 平島さんか杉浦さんと遊んでいたのだろうか?


 「どこ行くのか決まったのか?」


 シノハラさんに聞かれて我に返る。


 「これ、この学校の体験コースやってみたいです!」


 そういって学校紹介のページを見せる。


 「うん?」


 シノハラさんは僕の手の中のガイドを見つめてから、


 「まあ、やってみたいならいいんじゃないか。体験コースなら事前申し込みが必要だろう。明後日くらいでいいか?」


 今日は、ラズリィーが訪ねてくるのを待っているし、あの夢のことを思えば明日は学校どころではないかもしれない、そう思って頷く。


 「そうですね。この学校、ここから近いんですか?」


 地図を見せられても距離感がわからないのでピンとこない。

 シノハラさんは、しばらくページを見つめてから、


 「ここから学園地区だと、1時間もはかからないな。行き帰りは平島に車出してもらえばいいだろ」

 「そっか。平島さんの都合は大丈夫かなぁ」

 「あいつなら、お前の接待役なんだから、吹雪がここに滞在中はずっと暇だろ。後で申し込みも頼んでおくよ」

 「お願いします」


 一応、冬の巫女姫捜索という名目があっても、僕みたいな子供の接待役は退屈だろうな、と少しだけ平島さんに同情する。


 「学園地区を見るついでにその道中もサッと捜索して、残りは後日だな。施設見学せずに通り過ぎるだけなら1週間もかからないだろ」

 「そうですね。さっきからガイド見てるんだけど、他にコレっていう場所がなくて。この世界、遊園地とかないのかなぁ」

 「ん?白の領地にはなかったかもな。図書館、美術館、歴史資料館くらいか」

 「白の領地の子供は退屈そうですね」


 一体、どんな子供時代を過ごすのだろう。

 まさか、ずっと勉強勉強なのだろうか。


 「はははっ。そのかわり、技術的な分野は3領地のなかでも随一だぞ。このガイドには載っていないだろうが、医療技術系は地球の何倍も進んでいるぞ」

 「へー」


 へー、としかいえない。

 地球より進んでいるといわれても、回復の能力スキルがあることの方がすごいような気がする。

 しかし、能力スキル持ちが近くにいない場合は、やはり普通に病院へ行くという選択になるのだろうか。


 「この世界のお医者さんは、治療系の能力スキル持ちがやるんですか?」

 「いや?普通に日本と同じだよ。治療系の能力スキル持ちの人数じゃあ、普通に対応しきれない。あー、周囲に能力スキル持ちが多くて麻痺してるようだけど、一般人は気休め程度の能力スキルしか持ってないからな?」

 「え?」

 「やっぱり少し麻痺してるな。お前の周囲に居るのは、基礎魔力保有量が高い王族、貴族、巫女姫や王がほとんどだろう。あれと一般を同じに思ったら駄目だぞ?」

 「あ・・・、そうですね」


 よく考えれば能力スキル持ちじゃない人に出会ったことがなかった。

 皆が出来るから自分も普通に出来るべきだと思いかけていたけれど、そもそも当然のように誰でもがそれなりに能力スキルを使えるのならば、使用できる能力スキルが多いくらいで異能ギフトだの異端ディザスターだの言われて区別されたりはしないだろう。


 「ふむ、それを考えたら学校体験はいいかもな。一般人が普通の人間と余り変わらないってことがよくわかるだろう」

 「そうですね」


 別にそんな目的で学校体験に行きたいといったわけではないけれど、丁度良い機会なので普通の学生生活を覗いてみるのは悪くないと思った。

 なんとなくではあるが予定が決まったのでよかった。


 「そういえば、将棋してたんですか?」


 シノハラさんの前に置かれている将棋盤に目をやりながら聞いた。

 僕は昔、祖父からルールを教えてもらって数度だけやったことがあるくらいで目の前の盤面の中の攻防の勝敗はよくわからなかった。

 シノハラさんは、歩の駒をパチリと前進させた。


 「暇だったからな。お前、出来るのか?」

 「一応、ルールは知っています」


 そう答えると満面の笑顔で、


 「よし、つきあえ」


 と、言って対面に座るように促しながら盤面の駒をすべて回収した。




 結果?聞くまでもないよね。


 



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