表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
114/382

白の領地 3

 予定通りの時刻に夕食開始となった。

 最初に杉浦さんと話した部屋にお膳を並べて皆で食べた。

 メニューは、何故か冷やし中華だった。

 てっきり本格的な和食になると思っていた。


 「夏が始まりましたから、夏らしいメニューにしてみました」


 平島さんがにっこりと微笑んでいる。

 何だか弄ばれている気分だ。

 しかし、作法に自信がない分、これはこれでよかったのかもしれない。

 もぐもぐと咀嚼する。

 普通に美味しい。


 「いつも平島さんが作るんですか?」


 ふと思いついて聞いてみる。

 そういえば、ここも中院公爵家並みに広いのに使用人の気配を感じない。


 「そうですね。仕事がたてこんでいなければ私が作ります」

 「家政婦さんはいないんですか?」


 侍女さんを日本式に表現するならば家政婦さんだろうと思って聞いてみた。


 「この家の維持は私の趣味でもあるから必要ないですね。料理は普段は2人分だけですし」


 と杉浦さんが答えた。

 どうやら、この広い家に2人だけで住んでいるようだ。

 一体、どういう経緯で2人が一緒に生活をすることになったのか皆目検討もつかない。

 僕が不思議そうな表情をしていることに気付いたのか、平島さんが笑いながら、(笑っていない時があるのだろうか)


 「不思議そうですね。ふふ、私達は学校の同級生でね、私が涼の妹さんと結婚したのでこちらで生活するようになったのですよ」


 と答えをくれた。

 なるほど、姻戚関係だったのか。

 平島さんが杉浦さんを名前で呼ぶのを初めて聞いた。

 職務中は『主人』で、今はプライベートということだろうか。

 しかし、今現在2人暮らしということは、杉浦さんの妹さんについては話題に出さないほうがよさそうだと判断した。

 離婚ならば、義理の兄と一緒に同居を続ける意味もないのだから、自ずと答えは出てくる。


 「学生の時代からですか!ずっと仲良い友人がいるのは羨ましいです」


 嘘偽りのない本心だ。

 僕にだってそれなりに友人はいる。今となってはいた、と表現するべきだろうか。

 休日に満足に一緒に出歩くこともできない僕には真実の意味で『親友』と呼べるほどの友人はいない。

 実際、こちらに来てから両親のことは何度も思い出すけれど、友人のことはさほど思い出すこともなかった。つまり、その程度のつきあいだったということだろう。


 「そうだね。私は優に出会えてとてもよかったと思っているよ。感謝している」


 杉浦さんがストレートに気持ちを言葉にした。

 照れている様子も煽てている様子もない。本当に心からそう思っての言葉だとわかった。

 平島さんは特に動揺することもなく通常通りに微笑みを浮かべて、


 「そういっていただけると嬉しいですね。私も貴方に出会えて感謝していますよ」


 と返答した。

 同じようなセリフなのに、なぜか腹の内を勘繰りたくなってしまう。

 なんていうか、純粋な少女を言いくるめて犯罪行為をさせようとしている詐欺師を連想してしまう。

 どうしても、僕の中の平島さんの腹黒のイメージが払拭されない。

 杉浦さんとセットで見ると余計にそう感じてしまう。

 しかし、この場でそんなことを考えているのは僕だけのようで、


 「相変わらずイチャイチャと。平島がそんなんだから杉浦に嫁が来ないんだろうよ」


 とシノハラさんがビールを飲みながら言った。


 「こればかりは縁ですからね。私の主人に手を出すなら覚悟を持って挑んでいただかないと」

 「怖い番犬がいたら女は逃げていくだろうに」


 平島さんの言葉にシノハラさんが呆れている。

 どうやら平島さんが良い人なのかどうかは別として、杉浦さんに対する忠誠のような気持ちは本物のようだ。しかし、重い。杉浦さんはそれでいいのだろうか。

 チラリと視線を向けてみたけれど、特別気にしている風もなく食事を続けている。

 自分の婚期が遅れている理由が明確に目の前に存在しているのは問題じゃないのだろうか。

 懐が大きいのか、単に恋愛に興味がないのか、杉浦さんも少々不思議な人だ。

 そんなことを思いながら夕食を終えた。

 夕食後は、お風呂に案内された。

 僕達の泊まる区画にも小さいけれど浴場があったけれど、どうやら庭の中に露天風呂があるらしい。


 「源泉掛け流しだから好きな時に利用してください。夏季なので若干温度が高めかもしれません」


 平島さんが着替えを置く場所やタオルなどの備品について説明してくれた。


 「今日は、移動したばかりでお疲れでしょう。私は寝殿に戻りますから何かあれば声をかけてください。朝食は7時でよろしいですか?」

 「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 「では、失礼しますね。おやすみなさい」

 「おやすみなさい!」

 「おう、おやすみ」


 平島さんが去っていった後、シノハラさんが、


 「出直すのが面倒だからもう入る、吹雪、お前も付き合え」


 というので少し早い時間だけれどお風呂に入ることにした。

 平島さんの言っていた通り、お湯の温度は少し高めだったけれど入れなくはない。

 こうやって熱めのお風呂に余裕で入れるのはサニヤのお陰だ。

 補助アイテムにも勿論お世話になった。

 湯船に浸かって夜空を見上げたけれど元々星座に詳しくないので地球との違いはわからない。

 しかし、この世界は惑星ではないという話だが、では、夜空の星や毎日上る太陽はどういう扱いなのだろう。ゲームの背景と同じだたのオブジェクトなのだろうか。

 ふとそんな疑問を感じた時、シノハラさんが湯船に入ってきたので質問してみる。


 「あの夜空に光ってる星って宇宙船つくったら行けたりするんですか?」

 「うん?ああ、世界構造の話を誰かに聞いたのか」


 シノハラさんが夜空を見上げる。


 「うん、惑星じゃないのに朝晩がちゃんとあるのが不思議だなって」

 「この世界で見ている太陽や宇宙は地球と同期だから、物理的に行くことは可能だろうな」


 言葉の意味がよくわからなくて首を傾げる。


 「地球とこの世界は限りなく近いんだよ。地球の別次元の空間がこの世界だと思えばいい。だから落ち人が発生しやすいし、銀河系の太陽が爆発したらこの世界も消し飛ぶだろうし、この世界の季節が極端に狂えば地球も異常気象になりやすい。だから、冬の巫女姫不在は、ぶっちゃけこの世界の住人だけじゃなく地球にも影響が出ている」


 僕は驚いて言葉が出ない。

 冬の巫女姫は早く見つけたいと思っていた。

 それは、それが僕にわかりやすく与えられた任務だったからだ。

 正直なところ、秋の次が春でも問題ないんじゃないかとさえ思ったことがある。

 夏の巫女姫の榊原さんに季節を飛ばして繋げることの負担について教えてもらったから、ラズリィーの為に見つけなければなぁ、くらいの感覚だった。

 しかし、冬の巫女姫不在が地球にも影響しているなんて誰も教えてくれなかった。

 どうしてなのだろう。

 考えるまでもないことか。

 僕に余計なプレッシャーを与えないための良さんの配慮だろう。

 それを容赦なく打ち砕いてくるシノハラさんに今回は少し感謝しよう。

 今まで以上に冬の巫女姫捜索に集中するようにしよう。


 「ははは、やる気満々な感じだな。多少の援護はしてやるから頑張れ」


 シノハラさんが暢気に笑っている。

 そこでふと、


 「よく考えたら、シノハラさんが見つけることも可能なんじゃないですか?」


 僕に出来るのならば、僕よりも能力スキルを使いこなしているシノハラさんや暮さんの方が確実かつ迅速に捜索できるのではないだろうか。

 今まで思いつかなかった自分の頭の悪さにガッカリする。

 しかし、シノハラさんの答えは『NO』だった。


 「知っているヤツの現在位置なら把握出来るが、見知らぬ相手の隠蔽された能力スキルまでは把握できないな。あと、巫女姫の覚醒にはお前が必要だろうよ。この間までの吹雪の不自然なまでの氷の具現化が鍵になっていると思う。おそらく意図的に誰かがやったと思うけど・・・わからんな」


 それは以前にも少し話題に上ったことがある。

 この状況の鍵、それは先代冬の巫女姫だろう。

 彼女のことをもっとしっかり思い出せれば何かわかることがあるのかもしれない。 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ