真王と現魔王
昼食は、なんと!王城で食べることになりました。
役所から、三人と一匹で、のんびり歩いています。
「真王が、吹雪君に会いたいとおっしゃっていたのでね。謁見も兼ねて城に向かおうと思う」
「真王っていうのは、魔王のことですか?」
「いや、現魔王様の父上だよ。最近、代替わりしたので、便宜上、真王と呼ばれているんだ」
「なんか、それって・・・真王の方が偉い?みたいな感じがしますね」
真実の王、とも受け取れるよね。
甲斐さんは、困った風に微笑して、
「現魔王様も、十分に立派な方だよ。ただ、まあ、我々みたいな、真王の世代はまだ、代替わりに馴染めていないというか・・・」
「俺は、興味ないけどね。まあ、実力は、真王が上なのは否定できないよなー」
タテノさんが、軽い口調で言い放つ。
王都の城下町で、問題発言なのではないだろうか?
僕は、周囲をキョロキョロと見回す。
『まあ、公爵とタテノ様がご一緒なんて珍しいわね!』
『本当だわ~。城へ向かわれているご様子ね~』
『連れの少年は、どなたかしら?』
歳若い街娘さん達が、こちらを見ながらキャーキャーとはしゃいでいる。
なんだか、二人は人気者で、一緒にいるのが珍しくて?発言の内容は気にもされていないらしい。
公爵は、甲斐さんのことで間違いがないだろう。
タテノさんは、名前で呼ばれているし、貴族ではないのかな?
それにしては、と横目でタテノさんを見る。
僕より少し背が高くて、甲斐さんよりは細身なのに、威圧感があるというか、堂々としている。上位貴族である甲斐さんに対しても、遠慮のない態度だ。
一体、何者なんだろう。
「坊主、キョロキョロしてると、はぐれるぞ」
タテノさんが、僕の後頭部をペシッと叩いてきた。
「すみません。そういえば・・・謁見って、僕、礼儀作法とか全くわからないんですけど」
失礼があったから投獄される、なんて展開になったら嫌だ。
「公式謁見じゃないから、普通にしていればいいよ」
「そーそー、アイツに攻撃したって、坊主じゃ羽虫くらいなモンで、衛兵すら動かないよ」
タテノさんは、どこまでも強気だ。真王をアイツ呼ばわりしている。
僕が、羽虫レベルなのは、否定する実力もないので仕方ない。
「もし、もしもの話ですけど、お二人が真王に攻撃したら、勝てちゃったりするんですか?」
なんとなく思いついたので聞いてみる。
甲斐さんは、うーん、と曖昧に微笑んで答えてくれなかった。
「俺は、魔力制限戦、物理攻撃なら、半々かなー。魔力使われたら、ちと面倒だなあ。アイツの魔力保有量ありえないくらい多いからなー」
「えー?じゃあ、久々に模擬戦してみるー?物理オンリーでいいよー?」
後ろから、明るい口調が聞こえてきた。
振り返ると、眩い金髪の二十代くらいの男性が立っていた。色も白くて、瞳が深い青色で、悪戯っ子みたいな表情をしている。わかりやすいくらい美形だ。
でも、男。
またしても、男。
僕は、心の中で盛大にため息をついた。
「真王様!」
甲斐さんが、金髪の男性に向かって跪いた。
真王って、前の魔王だよね?
金髪で、若々しくて、邪悪というよりは、明るい快活な感じで魔王っぽさの欠片もない。
僕の中の魔王のイメージが間違ってるの?
って・・・若すぎない!?代替わりって、引退する年齢ってことだよね!?
見た目通りの年齢じゃないってことなのかな?
「甲斐は、道端で大仰なことしないの。ハイ、立って立ってー」
真王は、甲斐さんを立ち上がらせてから、タテノさんの方を向いて、
「今日さー、シノハラも城来るんだよ。本気で久々に模擬戦っちゃうー?」
底抜けに明るい。
「マジか!それはいいな!」
タテノさんも、ノリノリだ。
甲斐さんは、困った顔をしている。
街人達は、真王の乱入に慣れているのか、
『城で、模擬戦ですって!楽しそうね!』
『シノハラ様も来られているなんて。街へは降りてこられないかしら』
『オレは、真王に賭けるぜ』
『ワシは、公爵の愛猫だな!』
なんだか、とっても楽しそうである。
周囲を見ても、護衛のような人は見当たらない。もしかしたら、街人に紛れているのかもしれないけれど、王族が、一人で気ままに街を歩いてるようにしか見えない。
本格的に、この世界は平和なのだな、とシミジミ思う。
「さぁさ、キミが吹雪少ー年かな?オレは、リョウちゃん、よろしくねー。パパッっと城行ってゴハン食べよー。早くしないと食いっぱぐれるよー」
真王が、僕の肩を後ろから押してくる。
掴まれているので、肩越しだけれど、振り返って、
「はじめまして。笈川 吹雪です。真王陛下、よろし・・・」
「リョウちゃん!OK?」
出来るだけ丁寧に挨拶しようとして遮られた。
物凄く良い笑顔で、名前呼びを要求してくる。
リョウちゃん、とか年上の、しかも偉い人を呼ぶのはチョット・・・
僕が戸惑っていると、甲斐さんが、ハァッとため息をついて、
「名前で呼んであげてくれないか?こうなると、この方は引かないから」
甲斐さんの、日常の苦労が垣間見えたような気がした。