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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏の祭典 2

 夏の神事は、春の祭典と違っていかにも神聖な儀式をしますという感じの神殿ではなく、市営の体育館のような場所で行われた。

 長々と開会の挨拶が行われた後、やっとこれから夏の巫女姫が神事を執り行おうとしている。

 体育館の中央に1人の紺色の軍服を来た女性が刀を持って立っている。


 「ふぶきさん、彼女が夏の巫女姫、榊原 花梨お姉さまです」


 隣に座っているラズリィーが教えてくれる。

 体育館中央からは離れた場所に座っているのではっきりと顔は見えないけれど、榊原さんがオレンジに近い赤い髪を邪魔にならないように結い上げているのがわかった。やはり下ろすと戦うのに邪魔だからだろうか。と、彼女の少尉という肩書きを思い出してそんなことを思った。


 「ラズさんの時とは大分違うね?服装に決まりとかないの?」


 春の祭典でのラズリィーは巫女姫様というイメージぴったりの白いヒラヒラの服を着ていた。目の前の榊原さんの軍服とはかけ離れている。


 「特にないわ。それぞれが一番やりやすい方法でいいの」

 「へえ」


 そんな会話をしていると、シャーンと開始の音が鳴り響いた。

 榊原さんは、ラズリィーのように祈りを捧げるポーズをとることもなく、真っ直ぐ高々と剣を持ち上げたかと思うと、


 「ハッ」


 高く声を出してなぎ払い腰を落として突きを放ち、すぐさま背筋を伸ばして突き出した剣先を見据えるようにした後、背後へと斬りかかる。彼女の周囲には誰も居ないのに、まるで戦っているような足捌きで剣を巧みに動かしながしている。これは剣舞というヤツだろうか。実際に見たことがないのでそうだろうという曖昧な感想しか出てこなかった。

 軍人である榊原さんにとって一番集中して能力スキルが発動できるのが戦闘行為ということなのだろう。なんとも夏の象徴らしい熱気に満ち溢れた考え方だ。

 しばらく見入っていると、春の祭典の時と同じく、周囲の空間に違和感を感じ始めてしばらくするとストンと落ち着くように世界の季節が夏へと変換されたのがわかった。

 榊原さんも刀を腰に戻して周囲に礼をしている。

 メインイベントは無事終了したようだ。





 その後、平島さんに促されるまま、白の領土の議員さんたちと面会した。

 しかし、僕はほとんど会話をしていない。

 平島さんが代弁して、ついでに僕の腰にぶら下がっている『魔剣クリスタルシュガー』が牽制になったのか早々に開放された。

 議員さんたちを一通り紹介されたけれど、正直、顔と名前が一致していない。黒の領地の魔族の人達ほど種族差や個性が薄いらしく、正直に言おう、ほとんどが頭髪の薄い中年のおじさんにしか見えなかった。

 そう思うと、黒の領地の人々は、魔族だからなのか美形や若々しい人が多かった。勿論、白の領地にも若くて格好いい人はいるのだろうけれど、政治家という意味では白の領地の議員たちは日本のテレビニュースで見る政治家とあまり変わらない印象を受けた。

 その中に混じってる平島さんの鮮やかな緑色の髪と穏やかそうな笑顔が異質だった。

 見た目年齢が青年、30代くらいにしか見えない平島さんにペコペコしている中年のおっさんたち。

 見ただけで力関係が把握できるくらいだ。

 一体何をしたら自分の生まれた領地じゃない場所の政治家になって上り詰めれるのだろう。

 やっぱり平島さんは怖い。

 そんな感想だけが残った。

 議員さんとの面会の後、軽く昼食を食べた後、夏の巫女姫、榊原 花梨さんと面会することになった。

 平島さんに案内されて控え室を訪れると、榊原さんとラズリィーが談笑していた。

 榊原さんは、遠めに見たのと同じオレンジの髪を綺麗に結い上げて軍服を着たままだった。

 瞳の色は髪とおそろいのオレンジ色、軍人らしく日に焼けた健康的な肌色で色気というよりは大人のしっかりしたお姉さんという印象を受けた。


 「榊原さん、こちらが笈川 吹雪君。冬の巫女姫捜索隊長です」


 平島さんに紹介されて僕はペコリと頭を下げて挨拶する。


 「はじめまして。笈川 吹雪です。先程の剣舞、とても素敵でした」

 「それはありがとう。私が当代、夏を担当している榊原 花梨だ。よろしく」


 と握手を求められたので握り返した。

 彼女の手は、今までの誰の手よりも熱かった。

 そっと、ラズリィーにしているよりも少なめだけれど生命力譲渡の能力スキルを付与しておく。

 心配する必要もないくらい榊原さんは元気そうでホッとした。

 これが、貴族と平民の魔力保有量の違いというものなのだろうか。

 そんなことを考えていると僕の背後に立っていたシノハラさんに気付いたのか、


 「これはシノハラ殿ではありませんか。お久しぶりです。どうですか、このあと一戦」


 と、いきなり能筋全開なセリフが飛び出した。

 中院一族といい、この世界には一部、戦闘マニアがいるようだ。


 「ははは、今日はコイツのお守りだからな。また今度遊んでやるよ」


 とシノハラさんが僕の頭をクシャクシャにした。

 榊原さんは残念そうに、


 「そうですか。任務中では致し方ありませんね。しかし、笈川殿も、よい剣をお持ちのようだ。機会があれば手合わせ願いたいものですね」


 と、『魔剣クリスタルシュガー』にロックオンされた。


 「ははは・・・。これは良さ・・・真王陛下からの借り物ですから。現役の軍人の方のお相手なんて無理ですよ」


 僕は引きつった笑顔で答える。

 何度か模擬戦や迷宮ダンジョンで戦闘訓練をしてきたといっても、女性と戦ったことはない。いくら相手が軍人であっても躊躇いが出てしまう。勝てる勝てない以前の問題だ。

 女性に手を上げるのは日本人男子にはハードルが高いと思う。


 「そうかい?それがなくても君は戦えるだろう?」

 「そんな、子供の遊び程度ですよ」

 「随分と謙遜するんだね。まあ、シノハラ殿に鍛えられていれば自分を過小評価してもしかたがないのかもしれないね」


 と、何だか勝手に納得してくれた。

 シノハラさんに鍛えられてるつもりはない。

 僕の戦闘基礎の師匠は甲斐さんと、迷宮ダンジョンのモンスターです。

 しかし、この話題は終わりにしたい。そう思っているとラズリィーが助け舟を出してくれた。


 「花梨お姉さま、立ち話も何ですから。私がお茶をいれます。皆様も中で座ってください」

 「ああ、そうだったね。これは失礼、どうぞ」


 僕達はそれぞれ、適当にソファに腰掛けた。

 テーブルの上には、茶菓子ではなく物騒なものが置かれていた。

 漫画で見たことのあるそれらをジッと見つめていたら榊原さんが、


 「失礼。手入れの途中だったのだよ」


 と、手早くテーブルの上の物体を組み上げていった。

 組みあがったその黒光りする手の平よりも少し大きい物体、それは見間違いようもなく拳銃だった。

 

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