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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏の祭典 1

 夏の祭典の日の早朝、僕は王城内の転送陣の間に来ていた。

 前回、中院公爵領へ行く時は、城下町の役所を使用したのに、今回は国家間移動だからなのか、王城の中でも始めて入る区画へと案内された。

 いつも僕が寝泊りしている客間の区画。

 使用人が使う生活区画や王族のプライベート区画、そのどれとも違って廊下を歩いているだけなのに何度も近衛兵さんを見かけた。かなり警備に力を入れているようだ。

 国家間移動が出来るような場所なのだから当然かもしれない。

 現在は平和だといっても、もしかしたら他国が攻めてこないとは絶対に言えない。


 「白の領地のどこに転送されるんですか?」


 良さんに質問すると、


 「代表議会議事堂だね。日本でいうと国会議事堂かな?」

 「向こう側も思いっきり政治拠点なんですね」

 「そりゃ、こちらだけリスクを負うなんてのはないよ」


 代表議会議事堂には、きっとスーツ姿の政治家が待ち構えているに違いない。

 最近は、諦めモードに入っているとはいえ、またしても男に囲まれる未来が待っていると思うとウンザリしてくる。

 癒し、癒しが欲しい。

 癒しといえば、夏の祭典にはラズリィーも出席すると言っていた。

 よかった。まだ救いがあった。


 「さて、頑張ろうね。昨夜も話した通り、俺は向こうにいったら吹雪君と話せる時間はほとんどないから、シノハラと平島さんの言うことちゃんと聞いて無理はしないようにね」

 「はい。がんばります」


 とりあえず、白の領地の皆さんに失礼がないように礼儀正しく振舞うようにするつもりだ。

 学校の職員室モードをずっと持続するのは精神的に疲弊しそうだけれど、僕の態度が悪いとお世話になってきた良さんの評価が下がるかもしれないのでふんばりたい。

 冬の巫女姫捜索については、祭典が終わって落ち着いてからでいいだろう。

 焦って色々同時進行しようとしたら失敗する気がする。

 

 本当にはサニヤを連れてこれれば即時解決だったのにな。


 原始種族の探索能力は圧倒的だ。

 折をみてサニヤから聞き出した断片を繋げると、僕の使っている捜索系能力スキルとは違うことがわかってきている。

 僕が出来るのはそこに生物がいるかいないか。

 サニヤは種族や性別、親しければ個人特定まで詳細に調べることができるようだ。

 勿論、その分エネルギーを消耗するようだけれど、とても便利な能力スキルだ。

 もしかしたら自分にも出来るかもしれない、と時々、知人がどこにいるのか探すイメージで訓練しているが知人ならばある程度の距離まで位置が把握出来ることはわかった。

 しかし、見知らぬ誰か。

 内包する魔力濃度で検索するという概念が理解出来ないせいか、未だに成功したと感じたことはない。

 まずは、男女か年齢別で練習しようと思っている。




 転送陣が発光したと思うと瞬時に景色が変化する。

 王城の転送人の間とは違ってコンクリートので出来た雑居ビルみたいな部屋だった。


 「お待ちしておりました。真王陛下」


 声のした方を見ると平島公爵と数名のスーツ姿の男性たちが立っていた。


 「やっほー。平島さん」


 良さんはいつも通りの軽い感じで挨拶しながら彼等の方へ行く。僕もそれに倣って転送陣から離れる。


 「笈川君も、久しぶりですね。シノハラさんもご苦労様です。私は真王陛下と他の来賓者たちの顔合わせがあるから神事が始まるまで応接室で休憩していてもらっていいですか?軽い食事も用意しておきましたのでゆっくりしていてください」


 平島さんが穏やかににっこりと微笑む。

 やっぱり僕はどうしてもこの落ち着いた大人の対応が胡散臭くて仕方がない。

 本来、貴族というものは平島さんのような人が正解な気がするのに、良さんを筆頭に中院一族とふれあったせいか毒されているのだろうか。


 「あ、はい。お世話になります」


 僕が礼をすると、平島さんが一緒にいた男性の中で一番年が若い(それでも20代後半くらいだろう)男性に僕達を案内するように指示した。


 「こちらです」


 スーツの男性の後ろについて部屋を出ると、長い廊下に出た。等間隔に扉がある。廊下には似たようなスーツ姿の男女が通行していたりして余所見をしていると迷子になりそうだった。


 「では、こちらでしばしおくつろぎください」


 そう言って男性は僕達を1つの部屋へ案内するとすぐに去っていった。

 部屋は、こじんまりとしていてシンプルなガラステーブルと椅子、壁側には軽食とドリンクの載ったワゴンが置かれていた。


 「神事が始まるまでは暇だな」


 シノハラさんはワゴンから飲み物を取って椅子に座った。


 「そうですね。神事を見学した後で夏の巫女姫様と面会して、その後は平島さんにお任せでよかったんでしたっけ?」


 ワゴンの中からリンゴジュースを見つけて椅子に座った。


 「そうだな。まあ、白の役人どもとの面会は今日中に終わらせて明日からは観光したいな」

 「観光かー。シノハラさんのお勧めはどこですか?」


 白の領土の予備知識の勉強は頑張ったのに、観光については失念していた。

 まあ、見るべき場所がなかったとしても一応は、最低限、捜索能力スキルの有効範囲までは行かなければならない。何も出来ない状態でアルクスアを訪れた時に比べれば大雑把な移動で済ませられるのはよかった。あまり長居してはサニヤと柴犬たちがさみしいだろう。


 そういえば、自力で黒の領土の王城とココを瞬間移動テレポートすることは可能なのだろうか?


 自分の中にある力を確認してみる。


 うん、出来るかも。


 しかし、今、いきなり試すわけにはいかない。

 平島さんの家に行って落ち着いて1人になれる時間があれば試してみよう。


 「観光ねえ。そういう意味では面白味のない国だな。強いていうなら大図書館か?珍しい書籍があるらしい」

 「へー」


 この世界の知識はまだまだ足りないので勉強しなきゃ、とは思うけれど、これが知りたい!という急いで図書館へ行くような理由は思いつかない。まだ、周囲の人に質問するくらいで充分間に合っている。


 「ははっ。興味なさそうだな。まあ、俺も出来れば行きたくない、暇で昼寝するかもしれない」

 「あはは。僕も寝ちゃうかも」


 大図書館は素通りすることで2人の意見は一致した。

 旅の同伴者がシノハラさんでよかったのかも知れない。

 他の知り合いを思い浮かべてみる。

 甲斐さんや暮さんは平気で何日も大図書館に篭れそう。松田さんは、長居はしないだろうけれど、案外読書しそう。マキちゃんは・・・そもそも候補に入れるだけ無駄か。

 暫く2人で世間話をしていたら扉がノックされた。


 「はーい。どうぞ」


 もう神事の時間なのだろうか、と思っていたら、扉を開けて顔を覗かせたのはラズリィーだった。

 夏らしい薄いブルーのラインの入ったシフォンブラウスと白いキュロット、短い丈からスラリと伸びるラズリィーの白い太ももが眩しい。いつもはスカートなので新鮮さも手伝って妙にドキドキしてしまう。


 「ふぶきさん、シノハラ様、おはようございます」

 「おはよう。元気そうだね」

 「はい!コレのおかげです!」


 そう言って胸元にある花形のネックレスを握った。

 アルクスアで僕がつくったお守りだ。どのくらい持続効果があるのかわからないけれど、役にたっているようで何よりだ。

 今回も、機会があれば接触するたびに生命力譲渡をしておこう。


 「そっか。役に立ててよかったよ。今日は、1人?」

 「いえ、蒼記様は真王陛下とご一緒のはずです。それで、あの、私も一緒に待っててもいい?」

 「もちろんだよ」


 僕は喜んでラズリィーを部屋へ招き入れて神事が始まるまでの間、お互いの近況報告をしあった。



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