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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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迷宮25階

 夏の祭典出席の為の出発の前日、朝食を食べて講義に使わせてもらっている小さな会議室に入ると、講師の先生はいなくて、かわりに良さんが待っていた。


 「今日は、俺と模擬戦しようか」

 「は?」


 唐突な良さんの申し出に思わずキョトンとしてしまった僕に、


 「ほら、前、話したでしょ?宝物殿。思い出したから忘れる前に模擬戦やっとこうかと思って」

 「あ、ああ・・・ありましたね。そんな話」


 僕も言われて思い出した。

 そういえばそんな会話を以前にした。


 「そんなわけでー!さすがに吹雪君に本気でこられたら良ちゃん泣いちゃうかもしれないんでー、戦う相手はー、迷宮ダンジョンのモンスターさんにしてもらいます!」

 「ええ?」

 「ええー、じゃないよ。良ちゃんも遊びに行きたいんだよー!明日は面倒くさい外交とかやらないといけないんだよー。一緒に遊ぼうよー」


 どうやら、宝物庫云々は口実らしい。

 万が一、僕が模擬戦で勝利したって良さんが泣くとは到底思えない。単純に、息抜きがしたいようだ。


 「これからですか?昼過ぎにはシノハラさんが来る予定なのでは?」

 「やーだー。シノハラと一緒に迷宮ダンジョン潜ったらスパルタされちゃうじゃない!」


 至極ごもっともな判断です。僕もそれに関しては異論ありません。


 「さあさ!今日は良ちゃんが吹雪君の属性獣だよー!戦うよー!がおー!」


 僕は半ば拉致される勢いで良さんと迷宮ダンジョンへ行くことになった。

 講義だから、と部屋で留守番していたはずのサニヤは野生的な感で城を出る前に僕等と合流してついてきた。迷宮ダンジョンへの道中、城下町の食料品店で昼食用のお弁当を購入する。

 本当は自分で用意したかったのだけれど、良さんに急かされたからだ。

 城を出てからかなりの距離を進むまで良さんの歩く速度について行くのに大変だった。

 やっと通常通りの速度になったので、


 「何をそんなに急いでたんですか?」


 と、聞いたら、


 「爺に見つかったら怒られちゃうから」


 と悪戯っ子のように笑った。

 どうやら執務を投げ出してきたらしい。

 余程、ストレスが溜まっているのか。

 しかし、そんなことをしたら迷宮ダンジョンから戻ったら、確実に怒られるのではないだろうか。

 爺、と呼ばれる人物にあったことはないけれど、きっと、宰相とか、ご意見番みたいな人なのだろう。

 甲斐さんと同じく良さんに振り回される人生にさぞ苦労していることだろう。

 今回、共犯にされた僕にまで飛び火しないことを祈ろう。



 迷宮ダンジョン25階層は、海岸フィールドだった。

 どこまでも続く砂浜と浅瀬の海だけで構成されている。

 主なモンスターは、砂浜に潜んで隠れている貝型と甲殻類型だ。

 良さん曰く、すべて食材になるモンスターらしい。

 貝型が吐き出してくる砂と海水のコンボと、甲殻類の爪攻撃にさえ気をつけていれば特別危険な階層ではなかった。

 良さんは、甲殻類の爪を毟り取って「これ、美味しいんだよー」と楽しそうにしている。

 気分は、潮干狩りだ。

 実際に体験したことはないけれど、モンスターであるとはいえ、砂浜で海産物をゲットしているという行動だけみれば同じようなものだろう。

 全く危険がないわけではないけれど、これでは修行にはならない。

 息抜きという点では、今日の良さんにとってこれ以上ない階層なのかもしれない。


 「26階層への入り口ってどこにあるんでしょう。9階のもぐら叩きゾーンと同じ時間制だったりするんですか?」


 どこを見ても階段のような場所は見当たらない。

 9階と同じ仕様だとすれば、時間制か、モンスターの討伐数か、長い時間がかかりそうだ。


 「ん?確か浅瀬のどこかに大きな貝型モンスターがいて、それを倒したら貝殻が階段に変化するんだったと思うけど?」

 「大きいんですか?」

 「うん。階段と同じくらいの大きさはあるはずだよ」


 良さんの言葉に、階層を繋いでいる階段の広さを思い浮かべる。

 大人2人が余裕で並んで通れる、そんな大きさの貝殻のモンスター。


 「それって、ボスじゃないんですか!?」

 「あー、ゲーム?とかだとそういうポジションかな?この階層辺りから階層主の出現階層が増えてくるよ。倒せないと進めない。じゃないと逃げ足だけ速い人がどこまでも下りていけるでしょ?」

 「そうかもしれないですけど、ええ・・・この小さい貝のモンスターと同じ攻撃パターンですか?」


 僕は、足元の砂から這い出してくる貝を火炙りの刑にしながら問いかける。


 「基本パターンは近いけれど、階層主は階段がモンスターに変化してるだけだから、基本動き回らないよ。その代わり、防御力が硬めが多いかなー」


 良さんは、のんびりと新しい甲殻類を追い回している。

 どうやら、積極的に階層主を探して下りるつもりはないようだ。

 サニヤは、僕が能力スキルで貝を丸焼きにしたそばからヒョイヒョイと食べている。

 マキちゃん2号って呼んじゃうぞ。


 「ちなみに、26階はどんなモンスターが出るんですか?」


 戦えそうなら少しでも進んでおきたい。そんな僕の希望を打ち砕くように、


 「鮫」

 「さめ?海で泳いでる鮫ですか?」

 「そう。26階層は、水中だからね」

 「ええ・・・呼吸どうするんですか?」

 「気合?吹雪君なら能力スキルでカバーできるかもね。まあ、水中だから、鮫の速度、これまでの階層のモンスターよりも速いけどね」

 「ええー」


 呼吸については、風呂場で潜水でもして能力スキルの実験をすればいいとして、水中生物と相手の得意フィールドでの戦闘となると作戦を練る必要が出てくる。

 今日試しに少しやってみる、というわけにはいくまい。

 うっかり怪我でもしてしまえば、明日からの夏の祭典での予定が狂ってしまうことになる。


 もしかして。


 「良さん、僕が今日から25階なのを知ってたんでしょう?」

 「えへへー」


 どうやら図星だったようだ。

 困った元魔王様だ。


 「もう!じゃあ、たくさん獲ってお城の皆さんへのお土産にしますよ!」

 「そうだねー!がんばろー!」

 「サニヤも、がんばります!」


 僕達は夕暮れまで25階で乱獲しまくった。

 バッグに入りきらない分は空間収納アイテムボックスに容赦なく突っ込んだ。

 これで、爺と呼ばれる人の怒りが少しでも緩和されるといいけれど。

 無邪気に甲殻類と遊んでいる良さんを横目で見て、少しはお説教される方が甲斐さんの心労の為には良いかもしれないな、と少しだけ思った。

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