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僕の異世界(?)見聞録  作者: ナカマヒロ
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夏の祭典の準備

 神殿発見とサニヤに関する大まかな雑事が片付いて数日、柴犬たち(毎日ローテーションで交代制)とサニヤ(勝手に毎日ついてくる)と迷宮ダンジョンで小銭稼ぎをしていたある日、良さんから夏の祭典の日程が知らされた。

 一週間後、白の領地で開催されることは、たまに見ていたテレビで知ってはいたので覚悟は出来ていたけれど、良さんから告げられた詳細に僕は少なからず衝撃を受けていた。


 夏の祭典における僕の予定は、

 1:白の領地入りし、冬の巫女姫捜索を行う。

 2:夏の巫女姫との面会。

 3:宿泊は、平島 優公爵邸。

 4:サニヤは留守番。

 5:同行者はシノハラさん。


 と、なっている。


 1と2は予想通りだ。

 3は、噂の日本庭園には興味があるけれど、平島公爵が少し怖い。僕の心のメモ帳にそう書いてあることは忘れていない。

 4は、珍しい原始種族を連れていくには要人が集まりすぎて面倒事になりそうだというのは理解できる。

 5に一番驚いた。シノハラさんが同行するのは危険地域の予定ではなかっただろうか?え?白の領地は危険地域なの?良さんの中ではそういうことなの?


 僕の中での白の領地は、議会制民主主義であることと、平島公爵の家が日本家屋であることから日本的なイメージで固まっていたのだけれど、シノハラさんが同行するということは黒の領地よりは危険であると宣言されたようなものだ。

 さすがに、世界的な神事の来賓に危害を加えるような大事件が起こるとは思いたくない。

 しかし、実際の白の領地を知らない僕に異を唱える権利はない。

 せめて、良さんの杞憂であることを祈るばかりだ。


 祭典が目の前に迫ってきたこともあって、講義でも夏の巫女姫について教わった。


 榊原さかきばら 花梨かりん 25歳。


 ラズリィーと同じく白の領地出身だが、名門のご令嬢で生まれつき魔力保有量も多く、現在の四季の巫女姫の中では一番年齢が上らしい。

 普段は、軍人として辺境地域での治安維持活動に従軍しているらしい。

 階級は、少尉。

 軍隊モノにあまり興味がなかった僕は、少尉がどのくらいの地位なのかはわからなかったが、訓練兵よりは確実に偉いはずだということと、巫女姫様が軍隊で活躍しているという事実に戸惑いを覚えた。

 世界の気候を支えている巫女姫様が危険な目にあってもいいのだろうか?

 この世界の自由意志尊重の結果なのだろうか。

 講師の先生は、巫女姫のひととなりについては言及しなかった。あくまで知識として淡々とデータを提示されただけだ。

 春を具現化したようなラズリィーのことを思うと、夏の巫女姫もその季節らしい気性の持ち主かもしれない。

 夏、夏といえば、暑い。エネルギッシュ?

 自分の貧困な想像力では明確なイメージが浮かばなかったので考えるのを止めた。どうせ、会うのだ。会えばわかる。それに大人の女性だ。かなり消耗する大切な祭典の日に、出自のよくわからない子供と面会させられて申し訳ないくらいだ。もし握手をするタイミングがあれば、そっと生命力を譲渡しておこう。

 他に白の領地についての歴史と政治形態についての講義も受けたけれど、父親が呼んでいた経済新聞のような文字列の多さに、お堅い国なんだなという感想だけが残った。

 過去の戦争による外部からの侵略の結果による、純血の白の民族の激減で社会システムはそのままに、しかし、実際の政治の場には、平島公爵のように他領地の貴族が紛れ込んでいたりと少しキナ臭い。王政である黒の領地よりは政治家にややこしい人物は多いだろうと思われる。出来れば、そういう人達はスルーして冬の巫女姫捜索と観光だけしたいものだ。

 しかし、サニヤを留守番にする以上、あまり白の領地に長居も出来ないな、と思う。

 良さんや侍女のアマリカさんから聞いたところによると、僕のいない時のサニヤは、ほとんど話さない。それどころか、半分眠っているようで静止状態であることが多いようだ。


 「笈川くんにしか興味がないのだろうね」


 と、良さんは言っていたけれど、そんな状態で長く留守をするのは良心が咎める。

 しかし、動き回って食費ばかり増やすのも気がひける。

 どうにも、サニヤの扱いに困っているのが現状だ。

 もちろん、面倒をみる覚悟を決めて連れて来たのだから、そこは後悔していない。むしろ、良さんに迷惑とかけている現状なのが問題なのだろう。

 早めに冬の巫女姫を見つけて、そして、自立するのがベストだろう。

 頭ではわかっている。急に何でも出来るようになるわけがない。

 色んな感情がグルグルと渦巻いて自分でも持て余しているのか最近、夢見が悪い。

 覚えていて目覚めた時に気持ちが悪くなるものがいくつかある。

 見たこともないバラ園で迷子になって手が傷だらけになったり、大勢の人がいるオフィスのような場所で必死に何かを探し続けていたり、一番最悪なのは、住宅地にある平凡な住宅が、目の前で塵のように四散して消滅していくパターンだ。

 そもそも、僕は余り夢の内容を覚えていないことのほうが多いのに、夏の祭典が近付くほど、ハッキリとリアルな質感で僕に迫ってくる。

 どうしてこんな夢ばかりが続くのか。

 柴犬たちとサニヤは敏感に僕の鬱々とした気分を嗅ぎ取ったらしく、可能な限り僕の側を離れようとしない。そのせいで荷造りも中々進まない。そんな僕の様子が侍女のアマリカさん経由でそれとなく伝わったらしく、夏の祭典の2日前の夜に久しぶりに甲斐さんが僕の部屋を訪ねてきた。

 サニヤは、部屋の隅っこで柴犬たちと甲斐さんの様子を窺っている。

 外敵かどうか警戒しているようだ。

 心配しなくてもいいのに。

 甲斐さんは、そんな彼等のことに言及することもなく僕の出したお茶を飲んで一息ついた後、


 「祭典の同行、シノハラさんになったんだって?私の手が空いていればよかったんだけど、暫く仕事が忙しくて無理そうなんだ。護衛という点ではシノハラさん以上の人物は中々居ないから問題ないと思うけれど、無理なことはハッキリ断っていいんだよ?」

 「お気遣いありがとうございます。違う領地に行くのが初めてなせいか、最近夢見が悪くて、別にシノハラさんがイヤってことはないですよ」


 何を始めるかわからないという点では、良さんもシノハラさんも大差がない。

 それに、僕が本気で心の底から嫌がることは今までされたことがない。ある程度、見極めてくれているのだと思う。


 「夢見が?まあ、色んな場所に行って環境が中々落ち着かないせいもあるのかもね。具体的にはどんな夢なんだい?怖い夢?」


 僕は甲斐さんに覚えている限りの夢の内容を教えた。


 「うーん、割と具体的な夢だね。何かの暗示かな?白の領土では迷子にならないように、シノハラさんと出来るだけ一緒にいたほうがいいのかもしれないね」

 「そうですね。まあ、僕、バラとか興味ないんで、わざわざ見に行くとは思えませんけどね」


 探し物は、能力スキルを駆使すれば必死になって探さなくてもみつかりそうな気がするし、警戒するべきは、住宅街消滅の夢だと思う。

 そんな世界の破滅の序章のようなことが起こったら、現段階で僕に出来そうなことは思いつかない。

 ただの夢でありますように。

 胸の中にある小さな棘のような不安を忘れてしまいたくて、その日の晩は遅くまで甲斐さんと会話して過ごした。


 主な話題は、中院公爵領におけるマキちゃんの食欲についてだった。

 マキちゃんの話題だけで朝まで盛り上がれるような気さえしてくるよ。

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