九十五.虎牢関の戦い(虎狼漢の戦い) その三
呂布と張飛が刃を交える。
蛇矛と方天画戟が縦横無尽に交り合う。
一撃一撃に魂がこもる。
張飛の蛇矛が呂布の鎧を掠め、呂布の方天画戟が張飛の頬を掠める。
瞬きをする暇も無い、凄まじい剣劇の嵐。
高速で的確に相手の急所を狙い撃つ。
戦いは地に足をつけてではない、激しく揺れる馬上にて行われる。
常人には不可能な両者の攻防に誰もが皆舌を巻く。
さらに時間が経てば経つほど鋭さを増す両者の刃。
力強くも無駄のない、無駄があるから力強い、これぞまさしく武の神髄。
長い時を経て洗練された現代の武では再現できない激しくも美しい武の舞。
大国さえも畏怖れる最強の武勇はかくも美しいものである。
だからこそ皆が2人の戦いに目を見張る、感銘する、嫉妬する。
その武の舞に愛なる感情を抱く。
斬り裂く刃は暴風雨。
奏でる音色は爆発音。
舞い散る火花は大噴火。
飛び散る汗は大洪水。
震える叫びは雷鳴の如く。
天変地異さえ怖気づく、三国一の名勝負。
「こんな豪傑がこの世にいるのか?」と張飛が舌巻けば、「何故これほどの男が足軽を?」と呂布が驚嘆する。
互いに譲らぬプライドと、互いに認める彼の実力。
勇猛果敢な猛虎の如き武将『張飛翼徳』。
狂悖暴戻な狂狼の如き武将『呂布奉先』。
三国志最強の2人の漢の戦い。
これぞまさしく『虎狼漢の戦い』。
この凄まじき両雄の戦いを敵も味方も固唾を呑んで見つめるしかなかった。




